麻黄附子細辛湯(ツムラ127番):マオウブシサイシントウの効果、適応症

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麻黄附子細辛湯の効果・適応症

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)は、体を温めて外部からの寒さを発散させる働きがある漢方薬です。特に体力が衰えて手足が冷えやすく、寒気(悪寒)を感じやすい方に適しており、次のような症状・疾患に用いられます。

  • かぜの初期(寒気が強く微熱程度のもの)
  • アレルギー性鼻炎(寒さで症状が悪化するタイプ)
  • 気管支炎(虚弱な体質で冷えによる咳が出るもの)
  • 気管支喘息(冷たい空気で発作を起こしやすいタイプ)

麻黄附子細辛湯は、もともと冷え症で熱感はほとんどなく悪寒ばかりが強いという場合に効果的です。体を内側から温めて免疫力を高め、外から侵入したウイルスを追い出す手助けをします。その結果、初期のかぜ症状を改善し、こじらせないようにする効果が期待できます。また体が冷えると症状が悪化する花粉症・鼻炎にも用いられ、服用しても眠くなる成分が入っていないため日中でも安心して使える利点があります。小児では2歳以上から服用可能で、体力が低下した高齢者のかぜにも広く使われています。

麻黄附子細辛湯がよく使われる疾患と効果

風邪(感冒)への効果

麻黄附子細辛湯は、風邪のひきはじめによく使われます。発熱はあまり高くなく微熱程度だが、ゾクゾクと強い寒気がするようなときに有効です。体を温めて発汗を促し、ウイルスを早期に排除して症状の悪化を防ぎます。特に体力がなく虚弱な方や高齢者が風邪をひいた際に、悪寒が強く汗が出ない場合に処方されます。適切に用いれば早期に症状を緩和し、こじらせにくくします。

アレルギー性鼻炎への効果

花粉症などアレルギー性鼻炎で、冷気に触れるとくしゃみや水っぽい鼻水が出るタイプの方に麻黄附子細辛湯が用いられます。体を芯から温めることで鼻粘膜の血流を良くし、寒さによる鼻炎症状を和らげます。抗ヒスタミン薬と異なり眠くなる作用がないため、日中の鼻炎対策にもメリットがあります。

気管支炎・喘息への効果

冷たい空気を吸ったときに咳込んだり、ぜんそく発作を起こしやすい体質には、麻黄附子細辛湯が体を温め気管支を広げることで症状緩和に役立つことがあります。特に冬場に悪化する慢性気管支炎冷気で誘発される軽度の気管支喘息に対して、補助的に用いられます。生薬の麻黄には気管支を拡げて咳を鎮める作用もあるため、寒さによる喘息症状や夜間の咳の予防に用いられることがあります。

他の漢方薬との使い分け(類似処方との比較)

かぜの初期や冷え症状に使われる漢方薬にはいくつか種類があり、麻黄附子細辛湯(127)と症状が似ていても適する体質(証)によって処方が使い分けられます。他の代表的な処方との違いを比較してみましょう。

葛根湯(1)との比較

葛根湯(1)は体力が充実した人の初期の風邪(悪寒と首すじのこわばり)に用います。発汗を促して外邪を発散させる処方で、虚弱な人には発汗が強すぎることがあります。麻黄附子細辛湯(127)は体力の低下した人の風邪(強い悪寒と微熱)に用い、身体を温めて寒邪を追い出す処方です。

麻黄湯(27)との比較

麻黄湯(27)は高熱と悪寒が同時に強い実証の風邪に用いる強力な発汗剤です(麻黄・桂枝などを配合)。体力のない人には刺激が強すぎるため、そうした場合に麻黄附子細辛湯が代わりに用いられます。逆に体力がある人には麻黄附子細辛湯では発汗力が不足することがあります。

小青龍湯(19)との比較

小青龍湯(19)はくしゃみ・鼻水・喘息など水っぽい痰や鼻汁を伴う寒冷症状に用いる処方です。麻黄附子細辛湯と同様に寒さによる症状に使いますが、小青龍湯は水分代謝異常の症状が主体の場合に選ばれます。逆に、痰や鼻水が少なく悪寒が強い場合は麻黄附子細辛湯が適しています。

副作用と証が合わない場合の反応

主な副作用リスク

漢方薬も薬ですので、麻黄附子細辛湯にも副作用が起こる可能性があります。重大な副作用として肝機能障害(黄疸など)がまれに報告されています。そのほか、発疹、胃もたれ、吐き気、不眠、動悸、のぼせ等の症状が現れることがあります。これらの副作用は頻度は高くありませんが、服用後に明らかに体調が悪い場合はすぐに服用を中止し、処方医に相談してください。

なお、漢方薬でしばしば問題となる甘草(カンゾウ)による偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇・低カリウム血症をきたす副作用)は、麻黄附子細辛湯には甘草が含まれていないため基本的には起こりません。その意味では長期服用しても偽アルドステロン症のリスクが低い処方と言えます。ただし甘草が入っていない分、胃腸の弱い方では生薬の刺激がダイレクトに感じられる場合がありますので、胃もたれや食欲不振が続く場合も注意が必要です。

証に合わない場合の症状

麻黄附子細辛湯は「虚証で寒が強い」場合の処方ですので、もし体質に合わない人が飲むと効果がないばかりか不快症状が出ることがあります。例えば体力が充実していて熱がこもりがちな人(実証・熱証)が服用すると、必要以上に体を温めてしまい発熱やのぼせ、顔のほてり、喉の渇きなどを招く可能性があります。また元々汗かきの人が飲むと汗が出過ぎたり、動悸や不眠など交感神経系の刺激症状が出やすくなります。そのため、持病のある方や妊娠中の方は原則として使用を避け、服用前に専門家に相談してください。漢方薬は「証」に合ってこそ効果を発揮し、副作用も出にくいものです。逆に証が合わないと感じたら無理に続けず、早めに医師に相談しましょう。

麻黄附子細辛湯と併用注意の薬剤

麻黄附子細辛湯にはエフェドリン様作用を持つ麻黄や強心作用を持つ附子が含まれるため、他の薬剤との併用にはいくつか注意点があります。

  • 他の漢方薬との併用: 麻黄を含む他の漢方薬(葛根湯(1)、麻黄湯(27)、小青龍湯(19)など)を併用すると発汗作用や交感神経刺激作用が過剰になる恐れがあります。また附子を含む処方(真武湯(65)など)との併用も体を過度に温めてしまう可能性があるため、証に照らし合わせて一方に絞るのが基本です。
  • 市販の風邪薬・鼻炎薬: エフェドリンや類似成分(プソイドエフェドリン等)を含む市販薬と一緒に飲むと、血圧上昇や頻脈、不眠など副作用が強まる可能性があります。総合感冒薬や鼻詰まり解消薬などとの重複に注意しましょう。
  • カフェインを含む飲料: コーヒーやエナジードリンクなどカフェインの多い飲み物を過剰に摂ると、麻黄の作用と相まって心拍数増加や興奮、不眠が起こりやすくなります。適度な量に留めましょう。
  • 抗うつ薬(MAO阻害薬): 一部の抗うつ薬であるモノアミン酸化酵素阻害薬との併用は危険です。麻黄の成分エフェドリンと相互作用して急激な血圧上昇などを引き起こす可能性があるため、併用は避けてください。
  • その他の持病の薬: 高血圧症や心疾患で降圧薬・強心薬を服用中の方は、麻黄附子細辛湯によって血圧や心拍に変動が生じる恐れがあります。また利尿薬服用中に麻黄附子細辛湯を併用すると利尿作用が増強される可能性もあります。持病の薬がある場合は必ず医師に漢方併用の可否を相談しましょう。

麻黄附子細辛湯の生薬構成と選ばれている理由

麻黄附子細辛湯は、その名前が示す通り麻黄・附子・細辛の3つの生薬のみで構成されたシンプルな処方です。それぞれの生薬が持つ働きと、組み合わせによる効果は次の通りです。

  • 麻黄(まおう) – 発汗作用によって体表の寒邪を発散させます。また気管支拡張・鎮咳作用があり、咳や喘息を鎮める効果もあります。利尿作用もあり、体内の余分な水分を排出します。
  • 附子(ぶし) – トリカブトの塊根を加工した生薬で、非常に強力な温熱作用を持ちます。腎陽を温めて全身の新陳代謝を高め、内側から寒さを追い出します。古来より「回陽救逆」の薬とされ、虚脱状態から陽気を回復させるほどの力があります。麻黄附子細辛湯では、虚弱な患者の弱った陽気を補い、麻黄の発汗作用による負担を和らげる役割も担っています。
  • 細辛(さいしん) – ウスバサイシンという植物の根で、こちらも身体を温める作用があります。発汗を助け、特に鼻や喉など上半身の寒邪を散らす効果に優れます。鎮痛作用もあるため、寒さで起こる頭痛や身体の痛みを和らげる一助となります。芳香成分による鼻づまり改善作用も期待できます。麻黄とともに表面の寒邪を追い出し、附子とともに裏の冷えを温めるように、生薬同士が互いの働きを補完しています。

このように、麻黄附子細辛湯は全ての生薬が体を温める作用を持つのが特徴です。それぞれ役割は少しずつ異なりますが、共通して「温めて寒を除く」方向に働くため、配合がシンプルでも効果が現れやすい処方と言えるでしょう。

麻黄附子細辛湯の豆知識(歴史と生薬の由来)

附子の原料であるトリカブトの花 麻黄附子細辛湯は、中国漢方の古典『傷寒論』に記載され、もともと体力が弱い人が風邪をひいた際の処方として用いられてきました。処方名の通り麻黄(発汗薬)、附子(トリカブトの加工品で強力な温熱薬)、細辛(発汗・鎮痛作用のある香草)の3つの生薬のみで構成される非常にシンプルな組み合わせです。そのぶん味は辛く苦いですが、短時間で効果が現れやすいのが特徴です。附子は加工すれば薬になりますが元は猛毒のトリカブトで、舌が痺れるような強い辛味があります。

まとめ

麻黄附子細辛湯は、虚弱な体質で冷えが強い方の風邪の初期に威力を発揮する漢方薬です。寒さによる症状を和らげ、体の内側から免疫力を後押ししてくれます。同じ冷えに使う処方でも体質によって選び分ける必要があり、適切に使えば早い改善が期待できます。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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