苓姜朮甘湯(ツムラ118番):リョウキョウジュツカントウの効果、適応症

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苓姜朮甘湯の効果、適応症

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)は、腰から下半身の冷えが強く、腰痛や下肢の痛み、尿量・回数の多さがみられる場合に用いられる漢方薬のひとつです。体を内側から温め、水分代謝を整える作用があり、腰や脚の冷えによる痛みやしびれを和らげる効果があります。また、余分な水分(水滞)をさばくことで頻尿(ひんにょう)や夜間の多尿を改善し、体を芯から温めて弱った腎機能を補うとされています。さらに、めまいや耳鳴り、頭痛、乗り物酔いなど、水分バランスの乱れから起こる症状にも効果が期待できます。

古典医学書である中国漢代の『金匱要略(きんきようりゃく)』にその処方が記載されており、歴史的にも腰の冷えと痛み、水分代謝異常に対する処方として用いられてきました。現代でも、次のような症状・体質に対して苓姜朮甘湯の効果が期待できます。

  • 腰から下が冷えて痛む(とくに温めると楽になる慢性的な腰痛)
  • 尿量が多く頻繁にトイレに行く(夜間のトイレが多い、いわゆる夜間頻尿や夜尿症)
  • 下半身のだるさ・しびれ(冷えやむくみを伴う坐骨神経痛など)
  • 体が水っぽく重だるい(寒がりでむくみやすく、雨の日に症状が悪化しやすい)

このように、苓姜朮甘湯は下半身の冷えと水滞による諸症状を改善する処方です。体内の陽気(エネルギー)を補いながら余分な水分を排出することで、腰痛や冷え性、頻尿といった症状を和らげます。比較的体力が低下した中等度以下の方向けの処方で、高齢者の慢性腰痛や虚弱体質の方にも用いられます。

よくある疾患への効果

腰痛(冷えによる慢性腰痛)

苓姜朮甘湯は、冷えが原因の慢性的な腰痛にしばしば用いられます。腰から下が冷えると血行が悪くなり、筋肉や関節がこわばって痛みを感じやすくなります。本方は体を内側から温めて血流を改善し、さらに利尿作用で局所の余分な水分を除くことで、腰の重だるさや痛みを緩和します。例えば、冬場や雨の日に腰痛が悪化し、下半身を温めると痛みが軽減するようなケースに適しています。服用により「朝起きると腰が強張って痛い」「長時間立っていると腰が重苦しい」といった症状が和らぎ、動きがスムーズになることが期待できます。ただし、炎症による熱感が強い急性腰痛(ぎっくり腰など)の場合は別の処方が検討されます。

夜尿症・頻尿(腎の冷えによる排尿トラブル)

夜間の頻繁な排尿や子どもの夜尿症に対して、苓姜朮甘湯が用いられることがあります。東洋医学では、腎の陽気(エネルギー)が不足し冷えていると膀胱の機能が弱まり、尿を溜めておく力が低下すると考えます。本方は腎を温めて膀胱の機能を補強し、余分な水分循環を改善することで夜間尿の量や回数を減らす効果が期待できます。例えば、冷え性で夜中に何度もトイレに起きる方や、小児の夜尿症(おねしょ)で体が冷えがちなタイプに対して用いると、徐々に夜間の排尿回数が減り睡眠の質が向上するケースがあります。ただし、夜尿症の原因は多岐にわたるため、他の漢方薬(例えば八味地黄丸(7)など)が選ばれることもあり、症状に応じた判断が必要です。

坐骨神経痛・下肢の冷えによる痛み

下半身の神経痛、特に坐骨神経痛と呼ばれる腰から臀部~脚にかけての痛みに対して苓姜朮甘湯が使われることがあります。冷え込むと症状が悪化する神経痛では、体内の血行不良や水分滞留が痛みを増幅させている場合があります。本方は身体を温め経絡(けいらく:気血の流れ道)を通じやすくするとともに、利水作用で神経周囲のむくみを軽減し、痛みやしびれを和らげます。例えば、「足先まで冷えて痺れるような痛み」「長時間座っていると腰から脚にかけて重だるく痛む」といったケースで、苓姜朮甘湯を服用すると下肢の冷えが改善し、神経痛の症状緩和に寄与することがあります。特に高齢者や冷え性体質の方の坐骨神経痛に適し、痛みで歩行が困難な場合の補助療法として用いられることもあります。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

腰痛や頻尿など、苓姜朮甘湯と似た症状に対しては他にも漢方薬がいくつか使われます。症状の性質や体質(証)の違いによって最適な処方を選ぶことが大切です。ここでは、苓姜朮甘湯と比較されやすい処方をいくつか紹介し、その使い分けのポイントを解説します。

八味地黄丸(7)

八味地黄丸(7)(はちみじおうがん)は、腎の機能低下に伴う冷えや腰痛、頻尿に用いられる代表的な処方です。体を温める附子(ブシ)や桂枝(ケイシ)、腎を補う地黄(ジオウ)などが含まれ、高齢者の腰膝の冷えや排尿障害に広く使われます。苓姜朮甘湯と比べると、八味地黄丸は**より強力に腎を補う「補腎薬」**であり、足腰のだるさや倦怠感が強く、乾燥傾向(口渇やほてり)があまりない人に適しています。一方で、のぼせやすい人や尿に熱感・濁りがあるような場合には八味地黄丸は不向きで、苓姜朮甘湯のような余分な水を捌く処方の方が適することがあります。

真武湯(30)

真武湯(30)(しんぶとう)は、冷えと水滞が高度に進んだ状態に用いる処方です。構成生薬に附子(ブシ)を含み、胃腸や腎を強力に温めて水分代謝を促します。めまいや動悸、下痢、むくみなど、全身の陽気不足による症状に幅広く対応し、特に体力虚弱で冷えが極めて強いケースに適します。苓姜朮甘湯と比べると、真武湯の方が温める力が強く、虚弱な人向けです。例えば、慢性腎不全や心不全で手足がひどく冷えてむくむような場合には真武湯が考慮されます。ただし真武湯は刺激が強めの附子を含むため、発汗やのぼせなどが出やすい人には注意が必要で、その点マイルドな苓姜朮甘湯が選ばれることもあります。

苓桂朮甘湯(39)

苓桂朮甘湯(39)(りょうけいじゅつかんとう)は、苓姜朮甘湯と名前がよく似ていますが、生姜の代わりに桂枝(ケイシ:シナモン)が入った処方です。めまい、ふらつき、動悸など、胸部から上の水滞症状に用いられることで知られます。桂枝が入ることで体表を温め発汗を促す作用が強まり、胸や膝に水が溜まってめまいや動悸がする(いわゆる心下部の痰飲)症状に適しています。苓桂朮甘湯と苓姜朮甘湯の違いは、桂枝は主に上半身の水を散らし、乾姜は下半身の冷えを温める点です。そのため、腰から下の冷えと痛みが主体である場合は苓姜朮甘湯が、めまいや立ちくらみなど上半身症状が主体である場合は苓桂朮甘湯が選ばれる傾向があります。

牛車腎気丸(107)

牛車腎気丸(107)(ごしゃじんきがん)は、八味地黄丸に牛膝(ゴシツ)と車前子(シャゼンシ)という生薬を加えた処方で、下半身のしびれや痛み、むくみに効果を高めたものです。糖尿病性神経障害による足のしびれや、足腰の冷え・むくみが強い人にしばしば使われます。苓姜朮甘湯と比べると、牛車腎気丸はより積極的に血行を良くし栄養を補給する処方で、痺れや筋力低下などの症状改善を狙います。汗をかきやすく疲れやすい虚弱な人で、冷えとともに足のむくみ・痛みが顕著な場合には牛車腎気丸が適します。一方、牛車腎気丸は人によっては「のぼせ」や「胃もたれ」を感じることがあり、そうした場合にはより消化に優しく水捌けを促す苓姜朮甘湯が選択されることがあります。

※症状や体質によって、上記以外にも例えば当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)などが検討されることもあります。複数の漢方薬が候補となる場合には、専門家が証(しょう:身体の状態)を見極めて最適な処方を選ぶことが重要です。

副作用や証が合わない場合の症状

苓姜朮甘湯は比較的穏やかな処方で、副作用の頻度は高くないとされています。しかし、体質に合わない場合長期・大量服用した場合には、副作用が現れる可能性があります。また、漢方薬はその人の証に適合しないと効果が得られないばかりか、症状が悪化することもあります。以下に、本方の主な副作用と、証が合わない場合に起こりうる症状をまとめます。

  • 消化器症状:胃もたれ、食欲不振、吐き気、下痢など。苓姜朮甘湯には乾姜など体を温める生薬が含まれますが、これらは胃腸に刺激を与えることがあります。特に胃腸が弱い方は、服用中に強い胃の不快感や下痢が続くようなら注意が必要です。そのような場合は服用を中止し、医師に相談してください。
  • 皮膚症状:発疹、かゆみ、蕁麻疹(じんましん)などの過敏症状がまれに起こることがあります。体質によっては特定の生薬にアレルギー反応を示す場合があるため、服用後に皮膚の異常(赤みや痒み)が出現した際は、速やかに医療機関を受診しましょう。
  • 重篤な副作用:本方に含まれる甘草(カンゾウ)は有用な生薬ですが、長期間多量に摂取したり他の甘草含有製品と併用したりすると、偽アルドステロン症と呼ばれる重い副作用を引き起こすことがあります。これは甘草の成分によりカリウムが失われ、むくみ、高血圧、低カリウム血症による筋力低下などを招く状態です。手足のしびれやだるさ、極端なむくみ、血圧上昇が見られた場合は、直ちに専門医に相談してください。

なお、証(しょう)が適合しない場合には、期待される効果が得られないばかりか不調を来すことがあります。例えば、体内の陰液が不足していて熱症状がある陰虚(いんきょ)の方や、のぼせや口渇など体に熱がこもるタイプの方に苓姜朮甘湯を用いると、かえって喉の渇きやほてり感が強まる恐れがあります。これは本方が身体を温め乾かす作用を持つため、もともと陰液が少なく乾燥傾向の人には適さないためです。
実際、ほてりが強く汗をかきやすい人に本方を使うと、腰痛が改善しないばかりか全身の火照りが悪化することがあります。このように「冷え」があまり無い方や痩せ型で乾燥気味の方には証が合わず、本方ではなく別の漢方薬(例:体を冷ます柴苓湯など)が検討されます。漢方薬は効果だけでなく証の見極めも重要で、自己判断での長期服用は避け、適切な期間で効果判定を行いましょう。

併用禁忌・併用注意な薬剤

苓姜朮甘湯には、麻黄や附子のような極端に刺激の強い生薬は含まれていません。そのため絶対的な併用禁忌薬は比較的少ないとされています。しかし、他の医薬品と併用する際には以下の点に注意が必要です。

  • 利尿薬やステロイド薬との併用:苓姜朮甘湯の利尿作用および甘草の作用により、フロセミドなどの利尿剤や副腎皮質ステロイドと一緒に服用すると、体内のカリウムが失われやすくなる可能性があります。カリウム値の低下は筋力低下や不整脈につながる恐れがあるため、これらの薬を服用中の方は医師と相談の上で漢方を併用してください。必要に応じて血液検査で電解質のモニタリングを行うことが望ましいです。
  • 降圧薬や強心薬との併用:苓姜朮甘湯の服用によってむくみが改善されると、血圧や循環動態に変化が生じる場合があります。降圧薬(高血圧の薬)や強心薬(心不全の薬)を使用中の方は、漢方開始後に血圧や脈拍の変化に注意し、定期的に主治医へ経過を報告してください。特にジギタリス製剤(強心薬)をお使いの場合、甘草による低カリウム血症がジギタリスの作用を増強し、中毒症状を起こすリスクがあるため慎重な併用が求められます。
  • 他の漢方薬・サプリメントとの併用:苓姜朮甘湯と同じ生薬(甘草、茯苓、白朮、乾姜)を含む漢方薬を併用すると、生薬成分が重複して過剰摂取になる可能性があります。特に複数の甘草含有漢方を同時に用いると偽アルドステロン症のリスクが高まります。また、利尿作用のあるサプリメント(例えばウワウルシ葉やジュニパーベリー等)との併用も、予期せぬ電解質異常や脱水を招く恐れがあります。自己判断でのサプリ併用は避け、現在服用中の漢方薬やサプリメントがあれば事前に医師・薬剤師に伝えてください。
  • 妊娠中・授乳中の服用:苓姜朮甘湯に特段の禁忌生薬は含まれませんが、妊娠中は体質が変化しやすく漢方の効き目も通常時と異なる場合があります。妊娠中や授乳中に服用する際は、必ず産婦人科医や漢方医に相談し、適応かどうか確認しましょう。特に利尿作用による脱水や電解質異常が起こらないよう注意が必要です。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

苓姜朮甘湯は、その名のとおり4種類の生薬を組み合わせて作られています。処方名に含まれる「苓(茯苓)」「姜(乾姜)」「朮(白朮)」「甘(甘草)」が構成生薬であり、それぞれが協調して作用することで腰の冷えと痛み、頻尿などを改善します。なぜこの4つの生薬が選ばれているのか、それぞれの役割を見てみましょう。

茯苓(ブクリョウ)

茯苓はサルノコシカケ科の菌核(キノコの一種)で、体内の余分な水分を排泄し、消化機能を整える生薬です。利尿作用によって体内の水はけを良くしつつ、神経の高ぶりを鎮める穏やかな鎮静作用も持ちます。苓姜朮甘湯では、茯苓が白朮とともに脾(ひ:消化器)の働きを助け、水分代謝を改善する中心的な役割を担っています。腰から下のむくみや冷えによる痛みに対し、茯苓が体内の水滞を除去してくれるため、痛みやこわばりの軽減につながります。また、心身を安定させる働きがあるため、慢性的な痛みに伴う不安感の緩和にも一役買っています。

乾姜(カンキョウ)

乾姜はショウガを蒸して乾燥させたもので、強力に身体を温める生薬です。生姜を乾燥させることで温める力が増し、内臓(特に脾胃と腎)を温めて冷えを取り除く作用が高まっています。苓姜朮甘湯では、乾姜が冷え切った下半身を温め、血行を促進することで腰痛や下肢の痛みを和らげます。また、乾姜は体内の水分代謝を活発にするための“火力”のような役割も果たします。腎を温め膀胱の機能を助けることで、頻尿や夜尿の改善にも寄与します。さらに、生姜には胃腸を守りつつ吐き気を鎮める効果もあるため、茯苓と相まってめまいや吐き気(乗り物酔いなど)の緩和にもつながります。乾姜は苓姜朮甘湯の中で冷えを取るエンジン役として、他の生薬の働きを後押ししています。

白朮(ビャクジュツ)

白朮はキク科のオケラという植物の根茎で、脾を補い水をさばく作用に優れた生薬です。胃腸の働きを助け、体内の水分代謝を改善することで食欲不振やむくみを解消します。苓姜朮甘湯では、白朮が茯苓とともに脾胃の機能を高め、余分な水分を除去する役割を果たしています。白朮は蒼朮(そうじゅつ)に比べてマイルドに作用し、長く胃腸を支える力があります。そのため、乾姜のような温め薬と組み合わせても胃腸を守りつつ効果を発揮できる点が利点です。本処方では白朮が消化器の土台を強化し、水分滞留による腰や関節の重だるい痛みに対して体質改善を図ります。また、白朮自体にも痛みを和らげる作用があり、慢性腰痛の原因となる水湿(すいしつ)を除きながら痛みを軽減します。

甘草(カンゾウ)

甘草はマメ科の植物の根で、甘味を持つ生薬です。漢方では他の生薬を調和し、身体を緩和する目的で幅広く使われます。苓姜朮甘湯において甘草は、複数の生薬の個性をまとめ上げ、副作用を抑える縁の下の力持ちです。例えば、乾姜の刺激が強くなりすぎないように胃粘膜を保護し、白朮や茯苓の利水作用で失われがちな気を補ってくれます。また、甘草自体にも緩和な鎮痛・消炎作用があり、痛みによる筋肉のこわばりを解きほぐす助けとなります。腰痛で硬くなりがちな腰背部の筋をゆるめ、動きをスムーズにする効果も期待できます。ただし、甘草は大量に服用すると前述のように浮腫や高血圧などの原因となり得るため、配合量は適切に調整されています。本処方では甘草が調和剤として全体のバランスを整えつつ、痛みと炎症の鎮静にも一役買っています。

以上のように、苓姜朮甘湯は茯苓+白朮で水をさばき胃腸を補強し、乾姜で内側から温め、甘草で調和するというシンプルながら理にかなった組み合わせになっています。四者が互いに補完し合うことで、腰の冷え・痛みや頻尿といった症状の根本に働きかけ、体質から改善していく処方となっているのです。

苓姜朮甘湯にまつわる豆知識

  • 名前の由来:苓姜朮甘湯という名前は、生薬の頭文字を取ったものです。「苓」=茯苓、「姜」=乾姜、「朮」=白朮、「甘」=甘草を湯(煎じ薬)にした処方という意味で、非常にシンプルな命名です。このように主要構成生薬の名前を並べた処方名は漢方では珍しくなく、苓姜朮甘湯の場合もその例に漏れません。なお、「朮(じゅつ)」という生薬は白朮と蒼朮の2種類がありますが、本方では白朮を指しています(白朮は蒼朮に比べて補養作用が強く、今回の目的に適合するため)。
  • 歴史:上述のとおり本処方は古典『金匱要略』に収載されており、漢代の名医**張仲景(ちょうちゅうけい)**が記した処方です。特に「腰痛篇」において、腰の冷えと痛み、水逆によるめまいなどに対する方剤として紹介されています。日本でも江戸時代以降、漢方医たちに用いられてきましたが、近代の漢方医学書ではあまり目立たない存在でした。しかし、冷え症や夜間頻尿への効果から一部の漢方医に受け継がれ、現在ではツムラ製剤の118番として入手可能です。市販漢方では採用例が少ないため認知度は高くありませんが、適応が合致すれば現代でも有用な処方と言えます。
  • 苓桂朮甘湯との違い:似た名前の処方に苓桂朮甘湯(39)があります。苓桂朮甘湯は茯苓・桂枝・白朮・甘草で構成され、主に胸腹部の水滞(痰飲)によるめまいや動悸に用いられます。一方、苓姜朮甘湯は桂枝の代わりに乾姜を用いることで、作用点を下半身にシフトさせ、腎陽虚(腎のエネルギー不足)による腰から下の症状に特化しています。このように、生薬を1つ入れ替えるだけで効能の焦点が変わるのは漢方処方の興味深い特徴です。臨床的には、両処方を使い分けることで全身の水滞症状に幅広く対応できます。
  • 生薬の豆知識:構成生薬4種にはそれぞれユニークな背景があります。茯苓は実はマツホドというキノコの菌核で、白くて軽石のような見た目をしています。古来より利尿薬として珍重され、「不老長寿の薬」とも言われました。乾姜は生姜を加工したものですが、生姜は新鮮なまま用いると生姜(ショウキョウ)と呼ばれ、発汗や解毒を担い、乾燥させた乾姜は体を深部から温めるという違いがあります。白朮はオケラという植物の根茎で、その香りから昔は防虫剤や香の材料にも使われました。甘草は甘みが強いため、漢方薬の味を調える役割でも用いられ、「百薬の王」と称されるほど多彩な効能があります。苓姜朮甘湯の服用時には、こうした生薬の風味が感じられるでしょう。特に乾姜と甘草の甘辛い風味が合わさり、ややピリッとした中にほんのり甘みを感じる味が特徴です。
  • 応用範囲の広さ:苓姜朮甘湯は主に腰痛や頻尿に用いられる処方ですが、その働き(温陽利水)は様々な応用が可能です。例えば、むくみやすく冷え性の方の高血圧に対して、苓姜朮甘湯で余分な水分を排泄させると血圧が安定するケースがあります(もちろん降圧薬の代替ではなく補助的な使い方です)。また、慢性腎炎で蛋白尿があり冷えが強い場合に、真武湯などと併用して苓姜朮甘湯を使うことで利尿と冷え改善を図ることもあります。こうした使い方は専門的ですが、漢方医療の現場では患者一人ひとりの状態に合わせた処方の組み合わせが工夫されています。苓姜朮甘湯も、そのシンプルな構成ゆえに他の処方と併用・加減がしやすく、現代の多様な症状に合わせやすい処方と言えるでしょう。

まとめ

苓姜朮甘湯は、下半身の冷え込みと水滞によって腰痛や頻尿などの症状が現れている方に適した漢方薬です。体内の陽気を補いつつ余分な水分を捌くことで、腰の重だるさや痛み、夜間の排尿トラブルを改善することが期待されます。比較的副作用の少ない処方とされていますが、証(しょう:体質)が合わない場合や他の薬剤との併用時には注意が必要です。陰虚など熱症状があるタイプでは効果が出にくいため、やはり専門家による証の見立てが重要になります。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町 漢方外来までぜひご相談ください。

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