小柴胡湯加桔梗石膏の効果、適応症
小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)は、のどの痛みや腫れを和らげるために用いられる漢方薬です。基本処方である小柴胡湯(しょうさいことう)に桔梗(キキョウ)と石膏(セッコウ)という生薬を加えることで、扁桃腺の炎症や腫れた喉の痛みを抑える効果を高めています。比較的体力中等度の方に適し、微熱を伴い食欲低下や胸脇部の違和感があるような「半表半裏(はんぴょうはんり)」の状態によく用いられます。炎症を鎮めつつ全身状態を調整し、つらい喉の症状を和らげる処方です。
よくある疾患への効果
- 扁桃炎(扁桃腺炎):のどが赤く腫れて強い痛みがあり、飲み込むとつらい。発熱や全身倦怠感を伴うことも多い。
- 扁桃周囲炎(扁桃周囲膿瘍):扁桃腺の周囲に膿がたまり、激しい喉の痛みと高熱がみられる。
- かぜや咽頭炎で喉の痛みが長引く場合:上気道感染後に喉の腫れ・痛みだけがなかなか引かず、微熱や違和感が続く。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
喉の痛みや炎症に対しては、小柴胡湯加桔梗石膏以外にもいくつかの漢方薬が用いられます。症状の程度や全身状態、体質(証)によって適切な処方を選ぶことが大切です。ここでは、小柴胡湯加桔梗石膏と比較されることの多い処方をいくつかご紹介します。
小柴胡湯 (9)
小柴胡湯(しょうさいことう)は元となる基本処方で、喉の症状がそれほど強くない場合に用いられます。微熱や食欲不振、胸脇苦満(みぞおちから脇にかけて張った感じ)など少陽(しょうよう)の症状を和らげる処方です。喉の腫れや痛みが軽度で、全身の倦怠感や寒熱の往来(熱が出たり下がったりする)を伴うようなケースでは、小柴胡湯(9)だけで対応できることもあります。ただし喉の炎症が強い場合は、桔梗石膏の入った109番の方が適しています。
桔梗湯(138)
桔梗湯(ききょうとう)は、生薬を桔梗と甘草の2種類だけで構成したシンプルな処方です。体力に関係なく使用でき、喉が赤く腫れて痛む急性の咽喉炎に対して即効性が期待できます。桔梗には喉の腫れや痛みを和らげる作用、甘草には粘膜を保護し炎症を鎮める作用があり、この2つの生薬のみで喉の痛みを直接緩和します。高熱がなく症状が喉に限局している場合には、桔梗湯で十分改善が見込めることもあります。
副作用や証が合わない場合の症状
- 偽アルドステロン症:本処方に含まれる甘草の長期大量服用や他の甘草含有製品との併用により、低カリウム血症を伴う高血圧・むくみ・脱力(偽アルドステロン症)を起こすおそれがあります。
- 間質性肺炎:柴胡を含む処方でごくまれに発生が報告されています(咳や息苦しさなど呼吸症状に注意)。
- 肝機能障害:黄芩による肝障害が起こる可能性もわずかながらあります(倦怠感や黄疸などに注意)。
これらの重篤な症状が現れた場合は直ちに医師に相談してください。また、証に合わない場合、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することがあります。熱感のない乾燥した喉の痛みには適さず、かえって違和感が増すことがあります。
- 併用に関する注意:インターフェロン製剤との併用は禁忌とされ、甘草や柴胡を含む他の漢方薬との併用も副作用リスク増加に注意が必要です。
含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか
小柴胡湯加桔梗石膏は9種類の生薬で構成されており、それぞれが喉の炎症を鎮めつつ全身のバランスを整える役割を担っています。
石膏(セッコウ)
石膏は体の熱を冷ます寒性の鉱物生薬で、熱をもった喉の腫れや痛みを鎮めます。
柴胡(サイコ)
柴胡は半表半裏にこもった熱を発散させ、体内の炎症を鎮めます。
半夏(ハンゲ)
半夏は余分な水分(痰湿)をさばき、喉に絡む痰や胃のむかつきを抑えます。
黄芩(オウゴン)
黄芩は体内の熱を冷まし、喉の腫れや痛みを和らげる抗炎症作用があります。
桔梗(キキョウ)
桔梗は喉の腫れ・痛みを和らげ、膿や痰を排出させる働きがあります。
大棗(タイソウ)
大棗は消化機能を助けて他の生薬の作用を調和し、体力を補います。
人参(ニンジン)
人参は気力を補い、炎症に負けない体力をつけて回復を促します。
甘草(カンゾウ)
甘草は処方全体の調和薬で、炎症と痛みを緩和しつつ生薬のバランスを整えます。
生姜(ショウキョウ)
生姜は胃腸を温めて消化を助け、吐き気を抑えつつ生薬の吸収を高めます。
小柴胡湯加桔梗石膏にまつわる豆知識
- 処方名の由来:名前の通り、「小柴胡湯」に桔梗と石膏を加えた処方です。日本において喉の腫れ・痛みを治す民間薬として古くから用いられてきました。
- 慢性扁桃炎への応用:扁桃炎を繰り返す体質の改善に使われてきた経緯があります。長期服用で扁桃の腫れが治まり、手術を回避できた例もあります。
- 新型コロナウイルスで注目:2020年代に入り、東北大学の研究チームが葛根湯(1)と小柴胡湯加桔梗石膏の併用療法を新型コロナウイルス感染症に対して試み、その有用性を報告しました。軽症〜中等症患者を対象に葛根湯と本処方の併用群と通常治療のみの対照群を比較した結果、解熱までの期間が約1日短縮し、呼吸不全への進行も減少傾向が見られました。この研究結果が公表されて以降、小柴胡湯加桔梗石膏は漢方治療の一例として注目を集めています。
まとめ
小柴胡湯加桔梗石膏(ツムラ109番)は、喉が腫れて痛む扁桃炎や咽頭炎に対して全身状態も含めてアプローチできる漢方処方です。炎症を鎮めつつ体力を補い、つらい喉の症状の改善に役立ちます。ただし患者様の体質(証)や症状の程度に応じて適切な処方を選ぶことが大切です。
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。