通導散の効果、適応症
通導散(つうどうさん)は、血の巡りが悪くなった「瘀血(おけつ)」を改善する代表的な漢方薬(駆瘀血剤)です。打撲などのケガによる内出血の痛み・腫れや、婦人科系の月経不順・月経痛など瘀血による症状に幅広く用いられます。大黄(だいおう)などの生薬による瀉下作用で瘀血を体外に排出するような作用があり、比較的体力があり下腹部に圧痛と便秘がみられる方に適した処方です。以下のような症状・体質に対して効果が期待できます。
- 転倒や打撲後の内出血(青あざ)の腫れ・痛みがなかなか引かない
- 月経時に下腹部が強く痛み、経血に血の塊が混じる/経血の色が暗い
- 更年期以降で高血圧傾向があり、肩こりや頭痛、めまいを伴う(瘀血の兆候)
このように、通導散は瘀血の傾向と便秘がみられる充実した体質の方向けの処方です。明代の古典『万病回春』に重い打撲で生じた瘀血を除く方剤として記載され、その後婦人科疾患や循環器疾患にも応用されてきました。
よくある疾患への効果
打撲など外傷後の痛み・腫れ
打ち身や捻挫などの外傷では、患部の内出血による腫れや痛みが起こります。通導散はこの打撲後の腫れ・痛みを和らげる目的で用いられます。瘀血を散らし血行を促進することで、内出血の吸収を早めて痛みや腫れを改善します。外傷後に痛みが長引く場合、後遺症予防として服用されることもあります。ただし、骨折が疑われる場合はまず整形外科を受診してください。
月経不順・月経痛など婦人科の症状
通導散は、月経不順や月経痛といった婦人科系の不調にも用いられることがあります。とくに体力があり、月経時に血塊や暗赤色の経血がみられるタイプの月経困難症に適しています。骨盤内の血行を良くし、滞った血(瘀血)を散らすことで下腹部の痛みを緩和し、月経周期を整える効果が期待できます。更年期障害に伴うのぼせ・肩こり・不正出血など、瘀血が関与する症状にも応用されます。
その他の瘀血による症状(肩こり・頭痛・高血圧など)
慢性的な肩こりや頭痛で顔色が暗く血行不良の兆候がある場合に、通導散が選ばれることがあります。更年期以降の女性で、高血圧に伴う肩こり・頭重感・めまいといった「血の道症」のある方にも処方されます。通導散の利水作用と活血作用によって余分な水分や瘀血を除去し、血圧や症状の安定に役立てる狙いがあります。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
瘀血が関与する症状には、通導散以外にも複数の漢方薬が用いられます。症状や体質に応じて処方を使い分けることが大切です。ここでは通導散と比較される代表的な処方を紹介します。
桂枝茯苓丸(25)
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は下腹部の瘀血を緩やかに改善する代表処方です【ツムラ25番】。冷え性で体力中等度の人の月経不順や月経痛などに広く用いられ、通導散より作用が穏やかなため便秘や熱感がそれほど強くない場合に適しています。
桃核承気湯(61)
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)は大黄・芒硝を含み、便秘を伴う下腹部の瘀血を除く処方です【ツムラ61番】。桂枝を含むためのぼせやイライラを伴う月経困難症や更年期障害に用いられ、通導散より上半身の症状を鎮める効果が強い一方、利尿作用がないため打撲後の腫れなど水滞を伴う瘀血には劣ります。
温経湯(106)
温経湯(うんけいとう)は冷え性で血が不足しがちな虚弱体質の女性に用いる処方です【ツムラ106番】。瘀血と血虚が併存する月経不順や更年期障害に適し、通導散が必要なほど体力のある人には向きません。
副作用や証が合わない場合の症状
通導散は効果が強い分、体質に合わない場合や長期・多量服用で副作用が現れる可能性があります。
- 重篤な副作用:甘草(カンゾウ)を含むため、長期大量の服用や他の甘草含有製品との併用により、低カリウム血症による筋力低下や高血圧(偽アルドステロン症)を招くおそれがあります。むくみの悪化、脱力感、血圧上昇が見られた場合はただちに医師に相談してください。
- 証が合わない場合:体質(証)に適さないと、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することがあります。特に虚弱で冷え症の方が服用すると下痢などを起こす場合があります。また、妊娠中の方には禁忌です(子宮収縮を促す生薬を含むため)。
併用禁忌・併用注意な薬剤
通導散は麻黄や附子のような刺激の強い生薬を含まないため、絶対的な併用禁忌薬は少ないとされています。しかし、以下のような薬剤を服用中の場合は併用に注意が必要です。
- 利尿薬や副腎皮質ステロイド:通導散の瀉下・利水作用の影響で、利尿薬(フロセミドなど)やステロイド剤を併用するとカリウムが失われやすくなります。低カリウムによる筋力低下や不整脈を防ぐため、服用中の方は医師に相談してください。
- 抗凝血薬(抗血栓薬):紅花や蘇木など血行に作用する生薬が血液凝固に影響する可能性があります。ワルファリンなど抗凝血薬を服用中の方は、併用時に定期的な血液検査を受けるなど注意が必要です。
- 他の漢方薬やサプリメント:通導散と似た作用を持つ生薬(大黄、紅花など)を含む漢方薬を同時に服用すると、作用過剰や副作用のリスクが高まる恐れがあります。サプリメント類との相互作用もあり得ますので、自己判断での併用は避け、現在服用中のものがあれば医師・薬剤師に伝えてください。
含まれている生薬の組み合わせとその選択理由
通導散は10種類の生薬から成り、排出(瀉)と血行促進(活血)を中心とした構成が特徴です。主な生薬とその役割を紹介します。
- 大黄(だいおう):強力な瀉下作用を持つ本処方の要の生薬で、便通を促しながら瘀血と熱を排出します。芒硝(ぼうしょう)との組み合わせにより腸を潤しつつ効果を高めています。
- 紅花・蘇木(こうか・そぼく):いずれも血行を促進し、古い瘀血を除去する生薬です。紅花は鎮痛作用も持ち、蘇木は瘀血を砕く作用があるとされます。打撲の腫れや月経痛など瘀血に伴う痛みの緩和に役立ちます。さらに当帰(とうき)を加えることで、血を補いながら瘀血を散らし、作用が過剰にならないよう調整しています。
- 甘草(かんぞう):生薬同士の作用を調和し、副作用を緩和する生薬です。胃腸を守りつつ痛みや炎症を鎮める作用もあります。通導散では大黄や紅花など刺激性の強い生薬の癖を和らげ、胃腸への負担を軽減します。ただし甘草の含有量が多くなると前述の偽アルドステロン症を招く可能性があるため、他の甘草含有薬との重複使用には注意が必要です。
通導散にまつわる豆知識
- 名前の由来:処方名「通導散」は「通じさせ導く」という意味です。滞った血や水分を排泄に導き、体内の通路を開通させることから名付けられたと考えられます。
- 歴史的背景:前述のように『万病回春』に収載された処方で、本来は重い打撲による瘀血を除く目的で作られました。瘀血改善の効果の高さから、その後婦人科疾患や高血圧症などにも応用され、日本でも瘀血の代表方剤として漢方医に用いられてきました。
まとめ
通導散は、体内にこびりついた瘀血を強力に除去し、さまざまな症状の改善に役立つ処方です。ただし、その効果を十分に発揮できるのは証が合致した場合に限られるため、患者様一人ひとりの体質に合わせた処方選択が重要です。
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。