柴胡清肝湯(ツムラ80番):サイコセイカントウの効果、適応症

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柴胡清肝湯(ツムラ80番)の効果、適応症

柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)(80)は、子どもの慢性的な炎症や体質改善を目的として用いられる漢方薬の一つです。扁桃腺やリンパ節が腫れやすく皮膚が浅黒い傾向のあるお子さんに適しており、肝(かん)の熱を冷まし炎症を鎮める働きがあります。含まれる15種類の生薬が、体の余分な「熱(ねつ)」や「毒」を取り除きつつ、血液を補って皮膚や粘膜の健康を保ちます。以下のような症状・体質に対して効果が期待できます。

  • 環境の変化やストレスでイライラしやすく、興奮しがちな神経質なお子さん(いわゆる「かんの虫」)
  • 扁桃腺炎を繰り返し、喉が腫れやすい
  • アトピー性皮膚炎など皮膚に炎症や乾燥が見られやすい
  • 慢性的な鼻炎や副鼻腔炎があり、粘膜に炎症が残りがち
  • 貧血気味で顔色が優れず、肌がカサカサしやすい

このように、柴胡清肝湯は子どもの慢性炎症体質の改善を目的に使われる処方です。体力が中等度(普通)で、のぼせや熱感がある一方、皮膚や粘膜が乾燥気味で弱いといった体質に適しています。「熱証」(ねっしょう:体に熱がこもるタイプ)による慢性的な喉や皮膚のトラブルを和らげつつ、体全体のバランスを整える効果が期待できます。

よくある疾患への効果

子どもの神経症(かんの虫)

興奮しやすく夜泣きや癇癪(かんしゃく)を起こしやすいお子さんに対して、柴胡清肝湯は神経の高ぶりを鎮め、心を落ち着かせる効果があります。例えば環境の変化で不安定になりやすいお子さんが、柴胡清肝湯の服用によりイライラが軽減し、夜ぐっすり眠れるようになるケースがあります。ただし、精神的なケアも並行して行うことが望ましく、漢方薬だけで全ての神経症状が改善するわけではありません。

繰り返す扁桃炎・リンパ節の腫れ

慢性扁桃炎で喉の腫れや痛みを繰り返す場合に、柴胡清肝湯が用いられることがあります。炎症を鎮める生薬(柴胡や黄連、連翹など)の作用で、腫れた扁桃や首のリンパ節を小さくし、痛みや発熱を和らげます。例えば扁桃腺が肥大して熱が出やすいお子さんが本方を服用すると、喉の赤みが引き、扁桃炎の頻度が減ることが期待できます。ただし急性期で高熱が出ている場合は、抗生物質など適切な治療と併用する必要があります。

アトピー性皮膚炎など皮膚の炎症

アトピー性皮膚炎に伴う湿疹やかゆみに対して、柴胡清肝湯が体質改善の目的で使われることがあります。血を補う四物湯成分(地黄や当帰など)と炎症を抑える黄連解毒湯成分(黄連や黄芩など)の組み合わせにより、皮膚の赤みや乾燥を緩和します。実際に、肌がカサカサして掻き壊しがあるお子さんが、本方の服用で肌の潤いが増し、湿疹の範囲が縮小するといった報告もあります。ただし、ステロイド外用薬などの皮膚治療と併用し、生活習慣の改善も図ることが重要です。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

柴胡清肝湯と同じような症状に対して用いられる漢方薬はいくつかあります。症状の出方や体質の違いによって適切な処方を選ぶことが大切です。ここでは、柴胡清肝湯(80)と比較されることの多い処方をいくつか紹介します。

荊芥連翹湯(50)

荊芥連翹湯(50)(けいがいれんぎょうとう)は、柴胡清肝湯と同様に扁桃炎や湿疹など「熱」による炎症に用いられる処方です。皮膚が浅黒く、扁桃や鼻の粘膜に慢性の炎症がある体質に適します。柴胡清肝湯に比べてやや「実証」(じっしょう:体力が比較的充実しているタイプ)向けで、より積極的に膿を排出し熱を冷ます作用が強い点が特徴です。そのため体力があり、炎症が強く長引いているケースでは荊芥連翹湯が選ばれることがあります。

補中益気湯(41)

補中益気湯(41)(ほちゅうえっきとう)は、疲れやすく顔色が悪い「虚証」(きょしょう:体力が不足しているタイプ)のお子さんに使われることが多い処方です。胃腸を強くし気力を補うことで免疫力を高め、風邪や扁桃炎を起こしにくい体質へ導きます。柴胡清肝湯が炎症やのぼせを伴う場合に適するのに対し、補中益気湯はむしろ顔色が青白く熱感がない場合の体質改善に向いています。扁桃腺が腫れやすいものの熱っぽさはなくむしろ冷えやすいようなお子さんでは、補中益気湯で基礎体力をつける方が効果的です。

甘麦大棗湯(72)

甘麦大棗湯(72)(かんばくたいそうとう)は、イライラや不安感、夜泣きといった神経症状の緩和に特化した漢方薬です。わずか3種類の生薬(甘草・小麦・大棗)で構成され、心を安定させる作用があります。発熱や炎症を直接抑える力はありませんが、精神的ストレスが強い場合には柴胡清肝湯の代わりに甘麦大棗湯が選ばれることがあります。特に身体の症状よりも情緒不安定さが目立つ場合には、甘麦大棗湯で心を落ち着ける方が適切です。

小柴胡湯(9)

小柴胡湯(9)(しょうさいことう)は、比較的体力がある人の慢性の炎症に広く用いられる代表的な処方です。微熱や倦怠感が続く風邪の治りかけや、慢性肝炎など半表半裏の状態に適しています。柴胡清肝湯と同じく柴胡を含みますが、小柴胡湯には血を補う生薬が含まれず、炎症が軽度である場合に用いられます。子どもが風邪をひきやすく扁桃腺が腫れがちでも、熱感が強くなく比較的元気な場合には、小柴胡湯で様子を見ることもあります。一方、皮膚の乾燥やのぼせが目立つようなら柴胡清肝湯の方が適するでしょう。

副作用や証が合わない場合の症状

柴胡清肝湯は比較的穏やかな処方ですが、体質に合わない場合や長期間・大量に服用した場合、副作用が現れる可能性があります。

  • 消化器症状:食欲不振、胃もたれ、吐き気、下痢など。苦味の強い生薬が多く含まれるため、胃腸が弱い方はこれらの症状に注意が必要です。服用中に強い胃の不快感が続く場合は中止し、医師に相談してください。
  • 皮膚症状:発疹、かゆみ、蕁麻疹(じんましん)などのアレルギー反応がまれに起こることがあります。服用後に皮膚の異常を感じた際も、早めに医療機関へご相談ください。
  • 重篤な副作用:柴胡清肝湯には甘草(カンゾウ)が含まれます。長期大量服用や他の甘草含有製品との併用により、低カリウム血症を伴う筋力低下や高血圧(偽アルドステロン症)を引き起こすおそれがあります。むくみや手足の力が抜ける、血圧が上昇するといった症状が見られた場合は、速やかに専門医に相談してください。

また、体質(証)が合わない場合、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することがあります。例えば「陰虚」(いんきょ:体の潤いが不足した状態)でほてりや口の渇きが強い方に柴胡清肝湯を用いると、かえって喉の渇きやのぼせが増す恐れがあります。そのため、「極端に乾燥して熱感が強い」タイプや「逆に冷えが強く炎症がない」タイプには本処方は適しません。患者様の証に合った漢方薬を選ぶことが重要です。

併用禁忌・併用注意な薬剤

柴胡清肝湯には麻黄や附子のような刺激の強い生薬は含まれていませんが、他の薬剤との飲み合わせに注意が必要な場合があります。

  • 利尿薬や副腎皮質ステロイドとの併用:柴胡清肝湯に含まれる甘草の作用でカリウムが失われやすくなることがあります。利尿剤(フロセミドなど)やステロイド薬を服用中の方が併用すると低カリウム血症による筋力低下や不整脈を起こしやすくなるため、医師に相談の上で使用してください。
  • 降圧薬や強心薬との併用:柴胡清肝湯の服用によってむくみが取れると、血圧や心臓への負担に変化が生じることがあります。高血圧の薬や心不全の薬を使用中の方は、漢方を飲み始めた後の体調変化に注意し、必要に応じて主治医に報告してください。特にジギタリス製剤を服用中の場合は、カリウム低下に伴う作用増強に注意が必要です。
  • 抗凝血薬との併用:柴胡清肝湯に含まれる黄芩(オウゴン)などの生薬には血液の凝固に影響を与える可能性が指摘されています。ワルファリンなど抗凝固薬を服用中の方が併用する際は、定期的に血液検査を受けるなど慎重な経過観察が望まれます。
  • その他の漢方薬やサプリメント:柴胡清肝湯と似た作用を持つ生薬(例えば黄連や連翹など)を含む漢方薬を併用すると、生薬成分が重複して副作用リスクが高まる可能性があります。また、サプリメント類にも生薬成分が含まれる場合があるため、自己判断での併用は避け、服用中のものがあれば必ず医師・薬剤師に伝えてください。

含まれている生薬の組み合わせ・選定理由

柴胡清肝湯は全部で15種類もの生薬から構成されています。温清飲(57)(四物湯(71)+黄連解毒湯(16))という処方に、さらに炎症を鎮める生薬を加えた形になっており、この組み合わせが子どもの慢性炎症体質に対して総合的に作用します。各生薬の役割を簡単に見てみましょう。

地黄(ジオウ)

アカヤジオウという植物の根で、血を補い体の潤いを増やす生薬です。体内の「陰(いん)」を養い、熱による乾燥やほてりを和らげます。柴胡清肝湯では乾燥しがちな皮膚や粘膜を潤し、炎症で傷ついた組織の回復を助ける役割を担っています。

当帰(トウキ)

セリ科の植物の根で、補血といって血液を増やし巡らせる代表的な生薬です。血行を促進し、栄養を隅々まで行き渡らせることで炎症の治癒を促します。特に女性の貧血や冷え症に用いられる生薬ですが、柴胡清肝湯では子どもの皮膚や粘膜の修復を助け、体質を強化する目的で配合されています。

芍薬(シャクヤク)

ボタン科の芍薬の根を乾燥させた生薬で、筋肉の緊張を緩め痛みを和らげる効果と、血を養う効果を併せ持ちます。柴胡清肝湯では、扁桃炎に伴う喉の痛みや、皮膚炎によるヒリヒリ感を鎮める一助となります。また、肝(きも)を養い「かんの虫」が強い状態を和らげる役割も期待できます。

川芎(センキュウ)

セリ科の植物・センキュウの根茎で、血行を良くし痛みを止める作用があります。頭痛や月経痛など様々な痛みに使われる生薬ですが、柴胡清肝湯では血の巡りを改善して炎症部位への栄養供給を高め、組織の回復を後押しします。また、他の補血薬(地黄・当帰・芍薬)と組み合わせることで補血作用を高める役割もあります。

黄芩(オウゴン)

シソ科コガネバナの根で、苦味が強く冷たい性質を持ち、上半身の熱や炎症を鎮めます。気管支炎や扁桃炎など呼吸器の熱症状によく使われる生薬です。柴胡清肝湯では喉の腫れや熱感を抑える中心的な役割を果たし、扁桃やリンパ節の炎症を沈静化します。

黄連(オウレン)

キンポウゲ科オウレンの根茎で、非常に苦く強力な清熱作用を持ちます。特に胃や心の熱(いわゆる心火)を除く作用があり、イライラや不眠、口内炎などにも用いられます。柴胡清肝湯では全体の熱毒を取り除く要となる生薬で、喉や皮膚の強い炎症を鎮め、かんの強い興奮状態を落ち着かせるのにも寄与しています。

黄柏(オウバク)

ミカン科キハダの樹皮で、黄連と同様に苦寒(くかん:苦く冷たい)性質を持ち、下半身の熱や湿熱を除く働きがあります。柴胡清肝湯では直接の主役ではありませんが、黄連・黄芩とともに体内の炎症を広い範囲で抑えるよう配合されています。とくに扁桃炎から発熱しているような場合に、解熱・消炎を助けます。

山梔子(サンシシ)

アカネ科クチナシの果実で、熱を冷まし炎症による腫れや痛みを緩和する作用があります。体の上部にある熱を尿とともに排出する働きがあり、口の苦みや胸のモヤモヤ感を取る生薬としても知られています。柴胡清肝湯では、扁桃の腫れや皮膚の赤みを和らげ、子どものイライラ感や不眠傾向を改善する助けになります。

柴胡(サイコ)

セリ科ミシマサイコの根で、熱を発散し体の内部にこもった気の巡りを整える生薬です。小柴胡湯(9)にも含まれる有名な生薬で、主に肝胆の熱を冷ます働きがあります。柴胡清肝湯では処方名に冠されている通り主役の一つであり、子どもの肝の熱(かんしゃくやイライラのもと)を鎮め、慢性化した炎症反応を和らげます。

薄荷(ハッカ)

シソ科ハッカの葉から得られる清涼感のある生薬で、体表の風熱を発散させ、喉の不快感を取り除きます。メントールの香りで気分をスッキリさせる作用もあります。柴胡清肝湯では、慢性的な喉のイガイガ感や鼻詰まり感を改善し、熱でこもりがちな頭部をクールダウンさせる役割を持っています。

桔梗(キキョウ)

キキョウ科の植物・キキョウの根で、喉を鎮静し肺の機能を助ける生薬です。鎮咳去痰作用があり、喉の腫れや痰の絡みに用いられます。柴胡清肝湯では、扁桃炎で腫れた喉の症状を緩和し、他の生薬の有効成分を喉や上気道に行き渡らせる橋渡しの役割を果たします(「引経薬」(いんけいやく)と呼ばれます)。

連翹(レンギョウ)

モクセイ科レンギョウの果実で、清熱解毒作用に優れ、腫れ物や化膿を伴う炎症を改善します。扁桃炎やおできの妙薬として古来より用いられてきた生薬です。柴胡清肝湯では、首や顎下のリンパ節の腫れを引かせ、皮膚の炎症(膿を持った湿疹など)を鎮める働きを補強しています。

牛蒡子(ゴボウシ)

キク科ゴボウの種子で、風熱を発散させ喉の腫れや皮膚の炎症を改善する作用があります。漢方では喉の痛みや咳、皮膚の湿疹に広く用いられる生薬です。柴胡清肝湯では、扁桃の腫れや咽頭痛を和らげるとともに、皮膚のブツブツ(湿疹やにきび)を改善する助けとなります。

栝楼根(カロコン)

ウリ科カラスウリの根で、別名を天花粉(てんかふん)といいます。熱を冷まし乾いた体に潤いを与える作用があり、痰や膿を軟らかくして排出しやすくする働きも持ちます。柴胡清肝湯では、炎症で渇きがちな喉や肌を適度に潤し、扁桃や皮膚にたまった膿の排出を助けることで、治りを早める役割を果たします。

甘草(カンゾウ)

マメ科カンゾウの根で、甘みのある生薬です。鎮痛・鎮痙作用や解毒作用があり、他の生薬の調和剤(「調和薬」)として処方のバランスを整えます。柴胡清肝湯では、苦味の強い生薬同士を調和させて服用しやすくし、喉の痛みや咳を和らげる効果も補っています。ただし過剰に摂取すると前述のように副作用(偽アルドステロン症)を起こすことがあるため注意が必要です。

柴胡清肝湯にまつわる豆知識

名称の由来:柴胡清肝湯という名前は、「柴胡」を用いて「肝」の熱を清ます(冷ます)という意味に由来します。文字通り柴胡が主役の一つであり、肝にこもった熱やイライラを鎮める処方であることを示しています。

歴史と改良:中国明代の古典『万病回春』に本処方の原型が記載されています。その後、日本の明治〜昭和初期に活躍した漢方医・森道伯(もり どうはく)が柴胡清肝湯を改良・発展させ、現在の形になったとされています。当時、疳の虫で悩む子どもや扁桃炎に苦しむ子どもに対する特効薬として用いられ、現代でも小児科領域で重宝されています。

処方の特徴:柴胡清肝湯は、温清飲(57)に清熱解毒の生薬を追加した複合処方です。温清飲(57)は女性の更年期障害や皮膚炎によく用いられる処方で、柴胡清肝湯はそれを子ども向けにアレンジしたとも言えます。このように、漢方では患者さんの年齢や体力に合わせて生薬を加減し、処方を工夫してきた歴史があります。味はかなり苦いですが、薄荷のおかげで少し清涼感があり、甘草の甘みも感じられます。お子さんが服用する際は、粉薬を水やぬるま湯に溶いて一気に飲ませ、その後にお水を飲むなど工夫すると良いでしょう。

豆知識:柴胡清肝湯は主に小児向けとされていますが、証が合えば大人にも使われることがあります。例えば血色が悪くのぼせがある女性の慢性湿疹や、更年期のほてりと皮膚トラブルを併発している場合などに、本処方が奏功するケースがあります。また、あまり知られていませんが夜尿症(おねしょ)に悩む神経質なお子さんに用いると落ち着いて眠れるようになるといった報告もあります。幅広い応用例がありますが、いずれも専門家の判断のもと証に合致した場合に限ります。

まとめ

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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