芎帰膠艾湯(ツムラ77番):キュウキキョウガイトウの効果、適応症

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芎帰膠艾湯の効果、適応症

芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は、出血を止めつつ血を補う漢方薬で、特に女性の月経や妊娠にまつわる出血トラブルに用いられる処方です。体を温めて血行を良くしながら、失われた血を補給し、出血を抑える効果があります。古くから「養血調経・止血安胎(ようけつちょうけい・しけつあんたい)」の処方とも言われ、血を養い(月経を調え)、出血を止めて胎を安じる作用が期待できます。具体的には、以下のような症状・体質に適応します。

  • 過多月経・月経過多:生理の出血量が非常に多く、期間も長引きがちな場合。貧血気味で顔色が悪く、ふらつきや疲労を感じる方に用いると、出血を減らし貧血症状の改善に役立ちます。
  • 不正出血(不正性器出血):生理予定日以外でだらだらと出血が続く場合。更年期のホルモンバランス乱れや、子宮内膜症・子宮筋腫などによる不正出血に対し、体力が低下し冷え症の方では止血を促します。
  • 妊娠中の出血(切迫流産):妊娠中期までに下腹部痛を伴って性器出血があるケースで、いわゆる「切迫流産」の兆候の場合に用いられます。胎児に栄養を与える血を補い、子宮を温めて胎動不安(胎が不安定な状態)を落ち着かせることで、流産予防(安胎)の手助けをします。
  • 流産後・出産後の出血:流産直後や出産後に出血がなかなか止まらず体力が落ちている場合にも使われます。子宮の回復を助け、余分な出血を収めるとともに、失血による体力低下やめまいなどの改善を図ります。
  • 痔出血:体力がなく冷え症で便秘のない方の痔による出血に適します。いぼ痔で出血しやすい場合に、肛門周辺の血行を良くして出血を緩和し、貧血の予防にも役立ちます(便秘傾向で体力がある場合は別処方を用います)。

以上のように、芎帰膠艾湯は冷え症で貧血傾向があり、出血が長引くような体質の方に向いた処方です。血色の薄い出血(淡い色の出血)がだらだらと続くようなケースで効果が期待できます。一方、出血に炎症や充血(鮮やかな赤色の出血、発熱や強い疼痛)が伴う場合には適さず、別の処方が選択されます(後述)。

よくある疾患への効果

過多月経(生理の量が多い)

月経時の出血量が非常に多い「過多月経」は、多くの女性に見られる悩みです。子宮筋腫などによって月経量が増えることもあります。過多月経の方は出血量が多いために貧血(鉄欠乏)になりやすく、めまいや動悸、疲れやすさなどの症状が現れます。芎帰膠艾湯は、過多月経で貧血傾向かつ冷え症の方によく用いられます。出血を抑える生薬(艾葉や阿膠)の作用で経血量を減らしつつ、当帰や芍薬などで失われた血を補って体力回復を助けます。その結果、月経中・月経後のふらつきや倦怠感の軽減が期待できます。
ただし、月経痛が酷く血の塊が多い場合は瘀血(おけつ:血行不良)が関与しているため、芎帰膠艾湯単独では不十分で、後述する別の漢方薬を併用・検討することもあります。

不正出血(生理以外の出血)

生理周期とは無関係に起こる持続的な出血を「不正出血」と呼びます。ホルモン剤(ピルや黄体ホルモン薬)の使用中に起こる不正出血や、更年期のホルモン乱れによる子宮出血など、原因は様々です。不正出血が続くと貧血や体力低下を招くため、必要に応じて止血の対応をします。芎帰膠艾湯は体力中等度以下で胃腸が弱くない人(※胃もたれしない人)の不正性器出血に対して、止血目的で使用されることが多い処方です。例えば子宮内膜症や子宮腺筋症で月経ではない時期にも出血がダラダラ続く場合や、月経困難症の治療薬(ジエノゲスト=ディナゲスト錠など)内服中に起こる不正出血などに対し、芎帰膠艾湯を併用して出血を和らげるケースがあります。
漢方的には「衝脈・任脈」の虚(きょ)といって女性ホルモンの通り道が弱っているために出血が起こると考え、芎帰膠艾湯で血を補いその通路を安定させることで止血を図ります。貧血で冷え症の方ほど効果が出やすく、逆に体格がしっかりして火照りが強い方の不正出血には向きません。

妊娠中の出血(切迫流産)

妊娠初期~中期にかけて、下腹部痛や腰痛を伴い性器出血がみられる状態は「切迫流産」と呼ばれます。漢方では、胎児を養うエネルギーが不足したり冷えたりすると胎が不安定になり出血が起こると考えます。芎帰膠艾湯は、妊娠中の少量の出血や下腹部の違和感があり流産の兆候が疑われる場合に、医師の管理下で使用されることがあります。具体的には、腹痛を伴う少量の性器出血で、母体が冷え性・貧血ぎみの場合に処方候補となります。当帰や地黄で母体と胎児の血液循環を改善し、艾葉や阿膠で出血傾向を抑えつつ胎児を安定させる(安胎)狙いがあります。
ただし、切迫流産の程度が強い場合(出血量が多い、激しい腹痛があるなど)は速やかに安静・入院などの対応が必要です。芎帰膠艾湯はあくまで補助的に用いられる処方であり、妊娠中に自己判断で服用するのは避け、必ず専門医の指導のもとで使用します。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

出血傾向や月経異常の症状には、芎帰膠艾湯以外にも体質や原因に応じてさまざまな漢方薬が使われます。症状の背景(虚実や熱寒)によって、適切な処方を選ぶことが大切です。ここでは、芎帰膠艾湯と比較されやすい処方をいくつかご紹介します。

温経湯(106)

温経湯(うんけいとう)は、冷えによる婦人科系の不調全般によく用いられる処方です。芎帰膠艾湯と同様に当帰や芍薬、阿膠、艾葉などを含み、体を温めつつ血を補う点は共通しています。ただし温経湯の方が構成生薬が多く、瘀血(おけつ:血行不良)を散らす作用も強化されているのが特徴です。月経不順や不妊症、更年期障害など広く使われ、比較的虚弱で冷え性の女性に向きます。芎帰膠艾湯との使い分けとしては、月経に血の塊が混じむ下腹部に冷えと刺す痛みがあるといった場合には温経湯が選ばれます。
一方、単に出血が長引くだけで痛みや塊が少ない場合は芎帰膠艾湯が適しています。

桂枝茯苓丸(25)

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、瘀血を散らして血行を促進する代表的な処方です。比較的体力があり、下腹部に抵抗(しこり)のあるような実証の女性に向いています。子宮筋腫や子宮内膜症による月経痛・過多月経にしばしば使われ、凝り固まった血の塊を徐々にほぐすことで出血量や痛みを軽減します。ただし、桂枝茯苓丸自体に強い止血効果はありません。血を補う作用もないため、貧血が酷く体力が落ちているケースでは効果が十分発揮されないこともあります。そうした場合には芎帰膠艾湯で血を補いながら止血し、桂枝茯苓丸で瘀血を取り除く、といった併用療法がとられることもあります。
逆に、体力がない方に桂枝茯苓丸を用いると冷えや疲労が増す恐れがあるため、芎帰膠艾湯など補血処方への切り替えが検討されます。

黄連解毒湯(14)

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は、文字通り体の「熱」を冷まし炎症を鎮める処方です。出血に際しても、熱が原因で血管が破れているような場合(例えば高血圧による鼻出血や、更年期のホットフラッシュを伴う子宮出血)に用いられることがあります。芎帰膠艾湯とは対照的に熱性で充血した出血向けの処方と言えます。
具体的には、顔が赤くほてり、出血の色が鮮紅色で量が多いようなケースでは、黄連解毒湯の清熱作用により出血を鎮静化させます。ただし体力の低下した人には苦味が強く負担となることがあるため注意が必要です。また、黄連解毒湯は炎症を抑える一方で血を補う作用はありません。そのため長引く不正出血で貧血が進んでいるような場合には、芎帰膠艾湯などの補血剤を併用するか、そちらに切り替えていく判断もなされます。両者は原因や体質が正反対のケースで使い分けられる処方と言えるでしょう。

帰脾湯(65)

帰脾湯(きひとう)は、血だけでなく「気」を補う代表的な処方です。心身の疲労や不眠、動悸などを伴う貧血症状に幅広く用いられます。出血が続く背景に脾気虚(ひききょ)(消化器の機能低下による気力不足)がある場合、すなわち食欲不振や倦怠感が強い方の慢性出血に対しては帰脾湯が第一選択になることがあります。例えば不正出血が長期間続き、顔色が悪く動悸・不眠もあるようなケースでは、帰脾湯で消化機能と造血を高めることで出血しにくい身体を作ります。芎帰膠艾湯との違いは、帰脾湯には直接の止血作用を持つ生薬(艾葉や阿膠)が含まれない点です。そのため、現在進行形の出血をすぐ止めたい場合には芎帰膠艾湯の方が適しています。
一方、出血がひと段落した後の体質改善や再発予防には帰脾湯が適する、といった使い分けがなされます。両処方を連続して用いることで、止血と体質強化を段階的に図ることもあります。

副作用や証が合わない場合の症状

芎帰膠艾湯は比較的穏やかな補血止血薬ですが、体質に合わない場合や長期間服用した場合、副作用が現れることがあります。特に注意すべき副作用や、証が合わない際に起こりうる症状は以下の通りです。

  • 消化器症状:胃もたれ・食欲不振・軟便など。地黄や阿膠など胃に重い生薬を含むため、もともと胃腸が弱い方では消化不良を起こすことがあります。服用後に胃の不快感や下痢が続く場合は中止し、医師に相談してください。
  • 皮膚症状:発疹、かゆみなどのアレルギー反応がまれに起こることがあります。特にヨモギ(艾葉)アレルギーのある方は注意が必要です。服用後に蕁麻疹のような症状が現れた場合も、すぐに医療機関へご相談ください。
  • 重篤な副作用:芎帰膠艾湯に含まれる甘草(カンゾウ)の過剰摂取により、偽アルドステロン症という重い副作用が起こるリスクがあります。これは血圧上昇、むくみ、低カリウム血症、筋力低下などを引き起こす症状です。特に長期連用や他の甘草含有薬との併用で可能性が高まります。手足のむくみや力が抜ける感じ、血圧の上昇がみられたら直ちに服用を中止し、医師の診察を受けてください。

また証(しょう)が適合しない場合、期待する効果が得られないばかりか症状が悪化することがあります。例えば熱っぽく赤ら顔で出血量が多い実証の方に芎帰膠艾湯を用いると、体を温め補う作用が裏目に出て出血がかえって増えたり、のぼせや胃のもたれが強くなる恐れがあります。そのため、出血に炎症や充血の兆候がある場合には本処方は適さず、前述の黄連解毒湯など別の処方が検討されます。
反対に、虚弱で冷え症だが胃だけは弱いという場合には、芎帰膠艾湯では胃もたれが起きやすいため、同じ補血剤でも帰脾湯など消化に負担の少ない処方に切り替えることがあります。いずれにせよ、自己判断で長期間服用せず、定期的に医師の診察を受けて状態に合った処方か確認することが重要です。

併用禁忌・併用注意な薬剤

芎帰膠艾湯を服用するにあたっては、他の薬剤との相互作用にも注意が必要です。特に以下のような場合は、併用を避けるか慎重な経過観察が求められます。

  • 生薬の重複:甘草や艾葉、当帰など、本処方に含まれる生薬を大量に含有する他の漢方薬やサプリメントを併用すると、作用が重複して副作用のリスクが高まります。例えば、甘草を多く含む他の漢方(甘草湯など)や、ヨモギ成分を含む健康茶との併用は避けてください。
  • 利尿薬・ステロイド剤・強心配糖体との併用:利尿薬(フロセミド等)や副腎皮質ステロイド、強心薬のジギタリス製剤を服用中の方が芎帰膠艾湯を併用すると、低カリウム血症による不整脈や筋力低下が起こりやすくなります。必ず医師に併用の可否を相談し、必要な場合は血液検査を行うなど慎重に経過を観察してください。
  • 抗凝血薬との併用:ワルファリンなどの抗凝血剤を内服中の場合、漢方薬併用によって出血傾向が変化する可能性があります。芎帰膠艾湯自体は止血方向に働きますが、当帰や川芎には血流を促す作用もあり、一概に止血効果だけとは言えません。抗凝血薬との併用を検討する際は、医師の指導のもと定期的に凝固能のチェックを受け、用量調整等に反映させることが望ましいでしょう。
  • その他の漢方薬・サプリメント:芎帰膠艾湯と効能が似た補血剤(四物湯系の処方など)や、市販の貧血改善サプリメント(鉄剤含有サプリ等)を併用すると、お互いの効果が過剰になったり副作用が出やすくなる場合があります。併用したい場合は自己判断せず、専門家にご相談ください。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

芎帰膠艾湯は7種類の生薬で構成され、それぞれが出血を止めつつ体を補強する役割を担っています。なぜその生薬が処方に加えられているのか、順番に見ていきましょう。

当帰(トウキ)

セリ科の植物で、漢方における代表的な補血薬です。血を補い、血行を促進して痛みを和らげる作用を持ちます。婦人科領域では月経不順や貧血の改善によく使われ、「女性の宝」とも称される生薬です。本処方では、失われた血を補給しつつ子宮の血流を良くすることで、出血による下腹部痛や倦怠感を改善します。当帰が入ることで、単なる止血ではなく出血の原因である血虚(けっきょ:血の不足)を根本から補うことができます。

川芎(センキュウ)

セリ科の根茎で、独特の香りを持つ生薬です。血の巡りを良くし、滞りを除く作用(活血化瘀)に優れ、頭痛や月経痛など「血行不良による痛み」を取る薬として知られます。芎帰膠艾湯では、川芎が当帰と組み合わさることで補血と活血のバランスがとれ、血液を増やしつつ流れも改善する効果が生まれます。出血が長引くと体内で血の滞り(瘀血)が生じ、下腹部の違和感や残血感を招きますが、川芎がそれを防ぎ、子宮内をきれいに掃除する役割を果たします。

芍薬(シャクヤク)

ボタン科の芍薬の根で、漢方では筋肉のけいれんを和らげ、血を補う作用があります。特に「白芍(びゃくしゃく)」と呼ばれるタイプは収斂(しゅうれん:引き締め)作用があり、必要以上の出血を抑える働きも期待できます。芎帰膠艾湯において芍薬は、腹部の痛みやこわばりを緩和しつつ、当帰・川芎とともに四物湯(補血の基本処方)を構成して血液を増強します。また甘草との組み合わせで筋肉や子宮の緊張を解き、下腹部の不快感を和らげる効果もあります。

地黄(ジオウ)

アカヤジオウ(地黄)の根で、本処方では生地黄(しょうじおう)という生の状態を用います。生地黄は血を増やし、体の陰液(潤い)を補う作用があり、出血に伴う乾燥やほてりを抑える役割があります。大量に出血すると体は乾燥しがちになり、のぼせやすくなることがありますが、生地黄がそれを鎮めます。また血液を作る源である腎・肝の機能を高めるとされ、失血後の体力回復を助けます。芎帰膠艾湯では温める生薬(艾葉など)と組み合わせることで**温補(温めながら補う)**効果を発揮し、冷えと血虚の両面から出血体質を改善します。

艾葉(ガイヨウ)

キク科ヨモギの葉を乾燥させた生薬で、艾葉は血を固めて出血を止める代表薬です。さらに体を温めて冷えを取り、胎動を安定させる(安胎)作用も持ちます。ヨモギはお灸(艾灸)のもぐさとしても使われ、下腹部を温める効果が良く知られています。本処方では、冷えによる出血傾向を改善し、特に子宮を温めて胎児を安定させる目的で加えられています。艾葉が入ることで芎帰膠艾湯は「止血薬」としての性格を色濃くし、月経過多や不正出血といった症状に直接働きかけます。

阿膠(アキョウ)

阿膠はロバの皮を煮詰めて得られる動物性の生薬(ゼラチン)で、古来より貴重な補血止血薬として珍重されてきました。血液を補い、出血を食い止める強力な作用があります。煎じ薬では溶かし入れて用いますが、現在のエキス製剤でもその成分は処方中に含まれています。阿膠は体内でコラーゲン様に作用し、血管壁を強化して出血しにくくするとも言われます。本処方では、阿膠が出血そのものを抑える要となり、当帰・芍薬・地黄で補った血が漏れ出ないよう身体に留めます。また潤いを与える作用もあるため、長引く出血で肌や粘膜が乾燥するのを防ぐ利点もあります。

甘草(カンゾウ)

マメ科カンゾウの根茎で、漢方の「調和薬」として頻繁に登場する生薬です。他の生薬の働きを調節し、副作用を緩和する緩和作用を持ちます。芎帰膠艾湯では、甘草が全体のバランスを整え、胃腸への負担を軽減します。また芍薬とのペアで筋肉の痙攣を和らげる効果(芍薬甘草湯の組み合わせ)があり、下腹部の痛みや違和感を緩和する助けとなります。さらに、甘草自体にも炎症を鎮める作用があるため、出血部位の炎症を抑制する一翼を担います。ただし上述のように長期大量使用は偽アルドステロン症のリスクがあるため、甘草を含む本処方を他の甘草含有薬と併用する際は注意が必要です。

芎帰膠艾湯にまつわる豆知識

  • 名前の由来:「芎帰膠艾湯」という名前は、その構成生薬を端的に示しています。「芎帰」は川芎と当帰、「膠艾」は阿膠と艾葉を指し、つまり「川芎と当帰、阿膠と艾葉の湯」という意味になります。主要な補血薬と止血薬の組み合わせをそのまま処方名にしており、出血を伴う病態に使う方剤であることが一目でわかる命名です(読みは「きゅうききょうがいとう」)。
  • 古典での登場:芎帰膠艾湯は中国・漢代の医書『金匱要略(きんきようりゃく)』に収載された処方です。著者の張仲景が「婦人の漏下(不正出血)」や「妊娠中の腹痛・出血」に対する方剤として記載しており、古くから婦人科の救急薬として知られていました。日本では「あきゅうがいとう(阿膠艾湯)」とも呼ばれ、江戸時代の産婆さんが安産・止血のために用いた逸話も残っています。
  • 保険適応の意外な点:日本の医療保険上、芎帰膠艾湯の適応症には「痔出血」「月経不順」「月経過多」「不正出血」などが挙げられています。一見バラバラな疾患名ですが、いずれも「出血しやすい体質を改善する」という点で共通しています。
    ただ、臨床現場では婦人科領域で用いられることが多い一方、保険病名としては痔の薬カテゴリにも属しています(痔出血に対する処方)。そのため、痔の出血に用いる乙字湯などと並んで紹介されることもあります。実際には痔よりも月経異常や産後の肥立ちに用いるケースの方が多く、現代の漢方治療では女性の味方といえる処方です。
  • ヨモギとお灸の関係:芎帰膠艾湯に含まれる艾葉(ガイヨウ)はヨモギの葉です。ヨモギは古来より艾(もぐさ)としてお灸に使われ、下腹部や腰を温める民間療法に用いられてきました。本処方ではそのヨモギを内服薬として取り入れることで、身体の内側から子宮を温め、止血効果を発揮しています。お灸が苦手な方でも、芎帰膠艾湯を服用すれば似たような効能(温経止血)を得られるのは興味深い点です。
  • 動物生薬の存在:生薬の中には阿膠のように動物由来のものもあります。阿膠はロバ由来のゼラチンで、日本では入手が難しいため漢方エキス製剤ではメーカーがあらかじめ配合しています。古代中国では阿膠は高価で貴重な薬材でしたが、現代では処方の中にしっかり組み込まれており、医師の処方によって誰でもその恩恵を受けられます。動物生薬は植物生薬と作用が異なる場合があり、阿膠の場合は特に強い補血・止血効果を発揮する点で処方の肝になっています。

まとめ

芎帰膠艾湯(ツムラ77番)は、冷え症で貧血傾向のある方の慢性的な出血を改善する漢方薬です。月経過多や不正出血、産前産後の出血に対して、体を温めながら出血を和らげ、不足した血を補うことで症状の緩和に役立ちます。ただし患者様の体質(証)や出血の原因に応じて、より適切な別処方を選ぶことが重要で、効果が思わしくない場合は証の再評価が必要です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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