芍薬甘草湯(ツムラ68番):シャクヤクカンゾウトウの効果、適応症

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芍薬甘草湯(68)の効果・適応症

芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は、急に起こる筋肉のけいれんを伴う痛みを和らげる効果を持つ漢方薬です。漢方処方の中では非常にシンプルで、生薬の「芍薬」と「甘草」の2つだけで構成されています。古典医学書の『傷寒論(しょうかんろん)』に由来し、即効性のある痛み止めとして古くから用いられてきました。
現在でも、こむら返り(足がつる症状)や急な腹痛急性の腰痛など、突然走る激しい痛みに対して処方されることが多く、ツムラの漢方製剤では番号68番として広く知られています。体力や年齢を問わず使用できる処方で、必要に応じた頓服(とんぷく:痛むときに一時的に服用する用法)として用いられるケースが一般的です。

芍薬甘草湯は漢方医学の考え方では、血(けつ)を補い筋肉の緊張を緩める作用があるとされています。筋肉のけいれんによる痛みは、西洋医学的にも筋肉内の電解質バランスの乱れや疲労によって起こると考えられますが、芍薬甘草湯はそうした筋肉の急激な収縮による痛みを短時間で鎮めることで知られています。
例えば、夜間に足がつって飛び起きるような場合や、激しい運動中にふくらはぎが痙攣してしまった場合に、この漢方薬が速やかに症状を和らげることがあります。さらに胃腸の筋肉の痙攣による差し込むような腹痛(疝痛〈せんつう〉と呼ばれます)にも効果を発揮するため、胃痛や下腹部痛を伴う症状で用いられることもあります。ただし、痛みの原因が筋肉のけいれんによるものでない場合(例えば単なる炎症や神経痛のみの場合)には効果が限定的であり、その場合は他の処方が選択されます。

芍薬甘草湯がよく使われる症状・疾患

● 筋肉のけいれん(こむら返り)
日常生活で芍薬甘草湯が最もよく知られているのは、就寝中や運動中に起こる足のこむら返りへの効果です。ふくらはぎなどの筋肉が急激に痙攣し、激痛で動けなくなるこむら返りは、高齢の方やスポーツをする方によく見られる症状です。芍薬甘草湯は、この筋肉の痙攣を素早く鎮め、痛みを緩和する働きがあります。
例えば、ゴルフなど長時間立って行うスポーツの前に予防的に服用し、プレー中の足のつりを防ぐといった使い方をされることもあります。また「夜中に足がつって困る」という方が寝る前にあらかじめ服用し、夜間の筋けいれんを予防する場合もあります。即効性が期待できるため、漢方薬でありながら速効の筋肉痙攣止めとして愛用されることが多いのが特徴です。

● 急性の腰痛(ぎっくり腰)
重い物を持ち上げた拍子に腰に激痛が走り、その後筋肉がこわばって動けなくなる――いわゆるぎっくり腰のような急性腰痛にも、芍薬甘草湯が用いられることがあります。ぎっくり腰の痛みの一因は、腰部の筋肉の強い収縮(けいれん)によるものです。芍薬甘草湯はこの筋緊張を和らげることで痛みを軽減します。発症直後の強い痛みに対し、痛み止めの補助として頓服で内服すると、筋肉が幾分ほぐれて姿勢を動かしやすくなることがあります。ただし、腰痛の原因が椎間板ヘルニアなど筋肉以外にある場合は効果が限定的であるため、症状の経過を見ながら適切な治療と併用することが重要です。

● 差し込むような腹痛や胃痛
お腹や胃が急にキリキリと痛み出し、冷や汗が出るような経験はないでしょうか。こうした差し込むような腹痛(疝痛)や胃痛の中には、胃腸の平滑筋がけいれんを起こしている場合があります。芍薬甘草湯は胃腸の筋肉にも作用し、過度な収縮を抑えることで痛みを緩和します。
例えば過度の緊張やストレスでお腹が痛くなるタイプの方や、冷えなどが引き金で胃腸が攣るように痛む場合に、一時的に症状を和らげる目的で処方されることがあります。生理痛(月経痛)でも、下腹部の筋肉や子宮の収縮が強いケースでは、芍薬甘草湯が痛みを和らげるのに有効なことがあります(ただし、生理痛の根本治療としては他の漢方薬が選ばれることが多く、芍薬甘草湯はあくまで症状緩和の補助として使われます)。このように、筋肉のけいれんが関与するさまざまな急性痛に幅広く用いられる点が芍薬甘草湯の特色です。

同じような症状に使われる漢方薬との使い分け

急な痛みや筋肉の症状に用いる漢方薬は芍薬甘草湯以外にも複数存在します。症状の出方や体質(証)によって、医師は適切な処方を選択します。ここでは、芍薬甘草湯と似た症状に用いられる代表的な漢方薬を挙げ、その使い分けのポイントについて説明します。

葛根湯(1)との比較

葛根湯(かっこんとう)は、肩や首筋の強いこわばりを伴う風邪の初期症状によく用いられる漢方薬です。一見、筋肉のこわばりを取る点で芍薬甘草湯と共通しますが、使われる場面は異なります。葛根湯は発熱や悪寒を伴う風邪の引き始めに、肩こりや首筋の痛みを和らげる目的で使われる処方です。筋肉痛というよりは、風邪による「こわばり」を解きほぐす効果が中心で、発汗を促して寒気を取る作用もあります。
一方、芍薬甘草湯は風邪症状がない状況でも使え、純粋に筋肉の痙攣による痛みに対処するための処方です。つまり、寒気や発熱があり首や背中の筋肉が張って痛むような場合には葛根湯を、単に筋肉の痙攣で激痛が走っている場合には芍薬甘草湯を選ぶといった使い分けになります。筋肉の症状に加え、全身の寒熱状態や体力差まで考慮して処方を選択する点が大きな違いです。

当帰芍薬散(23)との比較

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、女性の冷え症や貧血傾向、むくみなどに用いられる漢方薬で、妊娠中のむくみや貧血改善にもよく処方されます。一見すると芍薬という生薬名が共通し、筋肉痛にも効きそうに思えますが、当帰芍薬散の主眼は体質改善にあります。貧血気味で冷えやすく、足腰がだるい方が長期的に服用して血の巡りを良くし、むくみを取りながら体質を改善していく処方です。この過程で筋肉への栄養状態が改善されるため、結果的にこむら返りしにくい体質に導く効果も期待できます。実際、妊娠中に足がつりやすい方に当帰芍薬散が処方され、貧血や冷えの改善とともに足のつりも減った、というケースがあります。
ただし効果はゆるやかで体質改善が目的のため、今まさに起きている足のつりをすぐに止めたい場合には向きません。そのような急性症状には芍薬甘草湯を頓服で用い、体質そのものの改善には当帰芍薬散を併用するといった形で、両者は即効薬と体質改善薬として補完的に使い分けられることがあります。

小建中湯(99)との比較

小建中湯(しょうけんちゅうとう)は、虚弱な体質でお腹が冷えやすく、しょっちゅう腹痛を起こすようなお子さんや成人に使われる漢方薬です。胃腸を温めて虚弱体質を改善し、慢性的な腹痛や夜間の腹痛を予防する目的で服用されます。小建中湯にも芍薬と甘草が含まれており、腹部の筋肉の緊張を和らげる作用がある点では芍薬甘草湯と共通しています。しかし、小建中湯は体力がない人向けで、生姜や大棗(たいそう)なども含めて体を温め栄養を補いながら痛みを和らげる「養生」の処方です。腹痛が起きやすい体質自体を改善し、冷えや疲れからくるお腹の痛みを根本から減らしていくことを狙います。これに対し芍薬甘草湯は、体力の有無を問わず目の前の激しい痛みを一時的に抑えるための処方です。
例えば、虚弱なお子さんが冷えてお腹が痛いというとき、小建中湯を継続して体質を改善しつつ、痛みが強い急性期には芍薬甘草湯を頓服で用いる、といった使い分けが考えられます。小建中湯は甘くて飲みやすい煎じ飴のような風味で子供にも好まれますが、芍薬甘草湯も甘草が半量含まれるため甘みがあり、服用しやすい点では共通しています。両者は処方構成が似ていますが、慢性か急性か、体質改善か対症療法かという使い分けが重要です。

牛車腎気丸(107)との比較

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、足腰の冷えや痛み、しびれ感やこむら返りなどが慢性的に続く方に使われる漢方薬です。特に中高年以降で足の感覚が鈍くなったり、夜間尿や頻尿を伴うような腎の機能低下(漢方でいう腎虚)の傾向がある場合に処方されます。牛車腎気丸は八味地黄丸という処方に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)という生薬を加えたもので、血行を促進し痛みを和らげるとともに、下半身の活力を補う作用があります。この処方も足のこむら返りや痛みに用いられますが、その働きは芍薬甘草湯とは全く異なります。牛車腎気丸は即効性はなく、継続的に服用して体質から改善し、末梢の血流や神経障害を改善することを目的としています。たとえば糖尿病性神経障害で足がしびれたりつったりする場合に、牛車腎気丸を長期的に服用して症状緩和を図ります。
一方で、そのような慢性病でも急に足がつってしまった時には芍薬甘草湯が即効薬として役立ちます。つまり、慢性的な足の痛み・しびれの土台改善には牛車腎気丸、急な筋けいれんのその瞬間の対処には芍薬甘草湯と、時間軸と作用機序に応じて使い分けるのがポイントです。両者を併用するケースもありますが、その場合は専門医が証を見極めて処方を調整します。

副作用と証が合わない場合の反応

芍薬甘草湯は比較的副作用の少ない漢方薬と言われますが、含まれる甘草の作用により重篤な副作用が起こる可能性があります。

とくに注意すべきは偽アルドステロン症と呼ばれる症状です。甘草に含まれるグリチルリチンという成分を大量に摂取すると、体内のホルモンバランスが変化し、アルドステロンというホルモンが過剰に作用したような状態になることがあります。その結果、低カリウム血症(血液中のカリウム不足)を来たし、手足の力が抜ける、筋肉がだるくなる、場合によっては筋力低下(ミオパシー)や麻痺に至ることもあります。
芍薬甘草湯は1日量中に甘草エキスを6.0g含んでおり、これは甘草の含有量としては非常に多い量です。偽アルドステロン症を発症しないためにも、芍薬甘草湯は最低限の投与期間のみ使用することとし、なるべくはやく終了する事が望ましいとされています。


また体内にナトリウムと水分が貯留しやすくなるため、むくみ高血圧動悸などが起こることもあります。
これらは非常に重い副作用ですが、長期間連用した場合や他の甘草含有製剤と併用した場合に稀に発生します。したがって、芍薬甘草湯は基本的に症状があるときのみに頓服で服用し、漫然と連用しないことが大切です。処方量を守っていれば深刻な副作用はまれですが、服用中に「なんとなくいつもと違う」「足が痺れる・むくむ」「血圧が高くなってきた」などの症状に気付いた場合は、速やかに医師に相談してください。重篤な偽アルドステロン症を防ぐため、医師は血液検査で電解質の変動や肝機能の確認を行うこともあります。

そのほかの副作用としては、アレルギー症状(発疹、発赤、かゆみ)や消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振)などが報告されています。これらはいずれも頻度は高くありませんが、万一服用後に蕁麻疹が出たり強い吐き気が続くといった場合には、薬が体質に合っていない可能性があります。すぐに服用を中止して医療機関を受診してください。

漢方の世界では、薬がその人の証(しょう)に合っていない場合、効果が出ないだけでなく稀に症状が悪化することもあると言われます。芍薬甘草湯の場合、適応外の痛み(例えば筋肉ではなく神経や血行不良が主因の痛み)に用いても劇的な効果は期待できず、無駄に甘草を摂取することでかえって体調を崩す恐れがあります。証に合わないと感じた場合は無理に続けず、別の処方への切り替えを検討することが重要です。

芍薬甘草湯の併用禁忌・併用注意

芍薬甘草湯を含め、甘草(カンゾウ)を成分に含む漢方薬を服用するときは、他のお薬との飲み合わせに注意が必要です。特に利尿剤やステロイド剤などを内服中の方は要注意です。利尿剤(尿を出す薬:例としてフロセミドなど)やステロイドホルモン製剤(プレドニゾロンなど)は、ともに体内の電解質バランスに影響を与え、カリウムを減少させる作用があります。芍薬甘草湯をそれらと併用すると相乗的にカリウムが失われ、先述の偽アルドステロン症を起こしやすくなります。特に利尿剤との併用は注意が必要で、むやみに併用すると重い低カリウム血症から不整脈など命に関わる症状につながる危険性があります。医師の管理下で必要と認められる場合以外、このような組み合わせは避けるのが安全です。

また、強心剤のジギタリス製剤(ジゴキシン等)を服用中の方も注意が必要です。甘草の併用で低カリウム状態になると、ジギタリスの作用が強まりすぎて中毒症状(不整脈や吐き気など)を起こしやすくなるためです。そのほか、下剤を常用している方も要注意です。便秘薬の中には腸を刺激してカリウムを失わせるものがあり(センナや大黄を含むもの等)、芍薬甘草湯と併用すると電解質異常が起こりやすくなります。

芍薬甘草湯自体の服用が禁忌とされるのは、アルドステロン症の方、重度の腎障害のある方、そして既に低カリウム血症やミオパチー(筋障害)を起こしている方です。これらに該当する場合、芍薬甘草湯の服用によって病態が悪化する恐れがあるため禁止されています。また、高齢者や持病で多くの薬を飲んでいる方は、他の薬にも甘草が含まれていないか確認が必要です。漢方薬は複数処方を併用すると、それぞれに含まれる甘草の量が合計され、副作用リスクが上がります。市販薬や健康茶の中にも甘草成分が入っていることがあるため、自己判断で複数の漢方薬やサプリメントを重複して飲まないようにしましょう。芍薬甘草湯を服用中に新たに他の薬を開始する場合や、その逆の場合も、必ず医師または薬剤師に相談して安全な併用か確認することが大切です。

含まれている生薬とその組み合わせの意味

芍薬甘草湯には名前の通り芍薬(シャクヤク)甘草(カンゾウ)の2種類の生薬だけが含まれています。それぞれの生薬がどのような役割で選ばれているのかを見てみましょう。

芍薬の作用と役割

芍薬はボタン科のシャクヤク(立てば芍薬…で有名な花)の根を乾燥させた生薬です。漢方では「血」を補い痛みを止める代表的な薬物として知られています。芍薬に含まれるペオニフロリンなどの成分には、筋肉や平滑筋の過度な興奮を抑える作用があり、これが痙攣を鎮める効果につながっています。また芍薬は「酸甘化陰(さんかんかいん)」という言葉で表現され、酸味と甘味を持つ薬を組み合わせて体の陰(潤い・血液など)を増やす性質があるとされます。
芍薬甘草湯では甘草との組み合わせにより、この「酸甘化陰」の効力を発揮して筋肉に栄養と潤いを与え、急激な収縮(=けいれん)をしずめる働きをするのです。要するに、芍薬は栄養と鎮痛の役割を担い、攣れた筋肉を内側から落ち着かせる主役の生薬と言えます。芍薬そのものは他の多くの漢方処方(当帰芍薬散や四物湯など)にも配合され、特に女性の月経痛や腹痛を和らげる薬として重宝されています。芍薬甘草湯では、その痛み止め効果をダイレクトに引き出すために高用量で使われています。

甘草の作用と役割

甘草はマメ科のカンゾウの根およびストロン(根茎)を乾燥した生薬で、強い甘味を持つことから「甘い草」=甘草と呼ばれます。漢方では調和薬として位置づけられ、多くの処方に少量ずつ配合されて処方全体の調子を整える役割を果たします。また「緩急」を司るとも言われ、筋肉の緊張を緩めて痛みを和らげる効能があります。芍薬甘草湯では甘草がこの「緩急」の力を発揮し、芍薬とともに筋肉の痙攣を緩め痛みを止める効果を生みます。甘草の主成分グリチルリチン酸には抗炎症作用もあり、筋肉の炎症や損傷を鎮める助けにもなります。
さらに甘草は甘味によって胃腸に優しく、芍薬のやや冷やす性質を中和するとも言われます。結果として2つの生薬の組み合わせはバランスが良く、即効性と安全性を兼ね備えています。甘草は芍薬と1:1の同量含まれており、これは漢方処方の中でも特徴的です(多くの処方では甘草は少量のことが多いですが、本処方では主役級に配合されています)。
この大胆な配合により、単独の生薬では得られない強力な鎮痙(ちんけい:痙攣を止める)効果が生まれると考えられています。ただし前述の通り甘草は両刃の剣でもあり、高用量であるがゆえに副作用にも注意が必要です。そのため決められた用量内で短期間の使用にとどめ、必要最小限の範囲でその効果を享受することが望ましいでしょう。

芍薬甘草湯にまつわる豆知識

● 歴史的背景とエピソード: 芍薬甘草湯は中国の後漢時代(2〜3世紀)に張仲景(ちょうちゅうけい)という医師が著した『傷寒論』という古典に初めて記載されました。元々は急激な腹痛(疝痛)を治療する処方として紹介されており、「病が重くなり筋肉が引きつって激痛が走るときに用いる」とされています。古来より、その即効性から「腿がつったら芍薬甘草湯」と言われるほど有名な処方で、日本にも漢方伝来と共に伝わり、江戸時代の書物にも脚気や急な腹痛の特効薬として登場します。ちなみに漢方処方名は通常その構成生薬を列挙したものが多く、芍薬甘草湯も例に漏れず芍薬と甘草のみからなるため非常に覚えやすい名前です(しばしば略して「芍甘湯(しゃくかんとう)」と称されることもあります)。
現在でも医療用エキス製剤のパッケージには「ツムラ68」といった形で番号と共に処方名が印字されており、漢方に詳しくない方でも一度処方されればその分かりやすい名前から記憶に残りやすいでしょう。

● 現代でのユニークな活用: 近年、芍薬甘草湯は従来からの飲み薬としての使い方だけでなく、医療現場で興味深い応用もされています。例えば大腸内視鏡検査(大腸カメラ)時、腸の動きが活発で内視鏡操作がしづらい際に、通常は鎮痙剤を注射して腸の動きを一時的に止めます。しかし心臓病などでそうした注射が使えない患者さんに対し、芍薬甘草湯を腸管に散布することで腸の痙攣を抑える試みが報告されています。これは芍薬甘草湯の持つ鎮痙作用を現代医療に応用した例と言えます。また、人工透析を受けている患者さんは透析中に足がつることがしばしばありますが、その予防や治療に芍薬甘草湯が用いられるケースもあります。
透析患者さんは水分や電解質の急激な変動でこむら返りが起こりやすいため、施行前に芍薬甘草湯を服用しておくと痙攣の頻度が減るという報告もあります。こうした現代医学とのコラボレーションは、漢方薬の可能性を再認識させる興味深いエピソードです。

● 生薬としての雑学: 芍薬甘草湯に含まれる芍薬と甘草は、それぞれ単体でも生薬として広い用途があります。芍薬(シャクヤク)は古来より観賞用の花としても愛され、「立てば芍薬、座れば牡丹…」ということわざにも登場する美しいボタン科の植物です。その根が薬になるとは意外ですが、漢方では美しい花ほど薬効が高いとも言われ、一説には美人に例えられる芍薬の花のように、この生薬は痛みでゆがんだ顔を元の美しい顔に戻す(痛みを取る)力があるから名付けられたとも伝えられます。
甘草はその甘味から世界的に有名な生薬で、リコリス(Licorice)という名前でハーブティーやキャンディーの風味付けにも利用されています。ヨーロッパでは甘草菓子が親しまれ、古代エジプトでは王の飲み物の甘味料にも使われた記録があるほどです。漢方薬の調和薬としても欠かせない存在で、実に漢方処方の約7割に甘草が含まれているとも言われます。芍薬甘草湯は、そんな甘草を贅沢にもたっぷり配合した処方であり、言い換えれば漢方の良さを凝縮した処方とも言えるでしょう。
飲みやすい甘い風味もあって患者さんからの抵抗感が少ない点もメリットですが、「漢方=自然のものだから副作用がない」という誤解で自己判断で大量に飲むのは禁物です。適切な用法用量の範囲で用いる限り、安全かつ効果的に痛みを取ってくれる頼もしい漢方薬と言えます。

まとめ

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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