防風通聖散(ツムラ62番):ボウフウツウショウサンの効果、適応症

目次

防風通聖散の効果、適応症

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は、肥満傾向で便秘がちな体質の改善に用いられる漢方薬のひとつです。
体内にこもった「熱(ねつ)」や余分な水分・老廃物を、発汗・利尿・排便によって体外へ追い出し、新陳代謝を高めることで症状を改善する効果があります。いわゆる実証(体力充実)の方向けの処方で、次のような症状・体質に対して効果が期待できます。

  • 中年以降のお腹まわりの脂肪が多い体型で、顔が赤らみやすく便秘しがち
  • 肥満に伴う高血圧傾向があり、肩こり・のぼせ(ほてり)・動悸などを感じる
  • 食べ過ぎ・飲み過ぎで胃腸に負担がかかり、皮膚に吹き出物(にきび)ができやすい
  • 慢性便秘でお腹にガスや膨満感があり、肌荒れや吹き出物を繰り返している

このように、防風通聖散は「余分な熱・脂肪」をため込みやすい方の体質改善薬ともいえる処方です。肥満症や高血圧の随伴症状、便秘、皮膚炎など幅広い症状に対応し、古くから「脂肪太り」に対する特効薬の一つとして知られてきました。中国の古典医学書『宣明論(せんめいろん)』に「風熱の余分なものを散らし、内外の通じを良くする処方」として記載されており、現代でいうメタボリックシンドロームの改善にも応用されています。体質に合致すれば、体重減少や血圧・皮膚症状の改善など多面的な効果が期待できる漢方薬です。

よくある疾患への効果

肥満症・メタボリックシンドローム

防風通聖散は、肥満症やメタボリックシンドロームの改善にしばしば用いられます。腹部に皮下脂肪が多く、いわゆる太鼓腹で便秘がちな方に対し、脂肪の燃焼・分解を促進する作用があります。麻黄や薄荷などの発汗作用で代謝を高め、さらに大黄や芒硝の緩下作用で腸に滞った老廃物を排出することで体重減少を図ります。実際に服用後、お通じが改善してお腹がへこみ、体重や腹囲が減少したという報告もあります。ただし漢方薬はあくまで体質改善の一助であり、食事や運動の習慣改善も並行することが大切です。

また、肥満に伴う動悸や肩こり・頭重感・のぼせ(顔のほてり)などに対しても効果が期待できます。余分な水分を尿として出し、血液循環を整える働きがあるため、むくみの軽減や血圧の低下につながる場合があります。高血圧そのものの治療薬ではありませんが、肥満が原因の血圧上昇に対して根本から体質を改善するサポートとなります。

便秘

防風通聖散は便秘の漢方薬としても位置付けられます。大黄(だいおう)と芒硝(ぼうしょう)という下剤効果のある生薬を含み、腸の動きを促進して滞った便を排出します。特にお腹に熱がこもって乾燥した便秘に適しており、服用することで比較的速やかにお通じがつくことが多いです。便秘が解消すると、それに伴う吹き出物や食欲不振、腹部膨満感も改善しやすくなります。ただし慢性的な便秘に長期間使う場合は、腸の働きが慣れてしまわないよう医師の指導のもと調整する必要があります。

にきび・湿疹など皮膚トラブル

体内の熱と毒素がこもると、顔や背中ににきびが出たり、湿疹・皮膚炎が悪化しやすくなります。防風通聖散はそうした皮膚の炎症を内側から改善することを目的に処方されることがあります。黄芩(おうごん)や連翹(れんぎょう)など清熱解毒の生薬が炎症を鎮め、麻黄や荊芥(けいがい)が発汗と血行促進によって皮膚表面の熱毒を発散させます。さらに便秘を解消することで、肌荒れの原因となる余分な熱や老廃物を体外へ排出します。思春期~成人の赤いにきびが繰り返すようなケースで、防風通聖散を服用し炎症が落ち着いた例もあります。ただし体質によっては、にきび・湿疹に対して清上防風湯(58)など別の皮膚専用の処方が選択されることもあります。皮膚症状の程度や体質を見極めて処方を判断します。

蓄膿症(副鼻腔炎)

蓄膿症(副鼻腔炎)で膿性の鼻汁が出るような場合にも、防風通聖散が用いられることがあります。特に体格がしっかりして顔面のほてりがあり、鼻づまりと便秘を伴うようなタイプに適しています。桔梗(ききょう)や薄荷(はっか)が鼻や喉の通りを良くし、抗炎症作用を持つ黄芩・連翹が副鼻腔内の炎症を和らげます。また、大黄や芒硝で腸を動かすことで、鼻腔内の膿の排出を促すとされています。実際に、便通がついた後に鼻づまりが軽くなったというケースもしばしば報告されています。副鼻腔炎に対する抗生物質などの治療と並行して、体質に合わせ漢方的に炎症体質を改善する目的で処方されることがあるのです。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

肥満傾向や便秘を伴う症状には、防風通聖散以外にもいくつか漢方薬が用いられます。症状や体質の違いによって処方を選び分けることが大切です。ここでは、防風通聖散と比較されやすい処方をいくつかご紹介します。

大柴胡湯(8)(だいさいことう)

大柴胡湯(8)は、がっしりとした体格で便秘傾向がある方に用いられる処方です。防風通聖散と同じく大黄を含み、腹部の膨満感や便秘を解消する作用がありますが、こちらは胸や脇腹の張り感・ストレス症状を伴うケースに適します。柴胡(サイコ)や枳実(キジツ)といった生薬が肝機能や自律神経の乱れを整え、ストレスによる食欲不振や胸のつかえを改善します。防風通聖散よりも精神的ストレスや肝胆の炎症に焦点を当てた処方で、高血圧や頭痛を伴う肥満症にも使われます。ただし発汗を促す麻黄や防風は含まれないため、皮膚炎や強いのぼせには防風通聖散の方が適しています。一方で、胃が弱くストレスに左右されやすい肥満体質には大柴胡湯が向いており、患者さんの訴える症状で使い分けます。

防已黄耆湯(20)(ぼういおうぎとう)

防已黄耆湯(20)は、水太りタイプの肥満症に用いられる処方です。体力中等度以下で疲れやすく、汗っかきでむくみやすい方によく使われます。防已黄耆湯には麻黄や大黄といった刺激性の生薬は含まれず、代わりに防已(ボウイ)と黄耆(オウギ)が中心となって余分な水分を尿として排出し、むくみを取ります。肥満により膝関節に水が溜まって痛むような場合や、汗をかきすぎて疲労しやすい人に適した処方です。防風通聖散と比べると、熱よりも水分代謝の滞りに重点を置いており、体力がない虚証の人向けです。逆に言えば、防風通聖散は汗をかきにくく頑固な便秘を伴う実証の肥満に用いる処方であり、両者は体質に応じて選択されます。

黄連解毒湯(15)(おうれんげどくとう)

黄連解毒湯(15)は、体力中等度以上でのぼせやイライラなど強い「熱」症状を抑える代表的な処方です。黄連・黄芩・山梔子・黄柏の4種の苦寒性生薬で構成され、全身の熱を冷まし炎症や興奮を鎮めます。防風通聖散と同様に高血圧の随伴症状(顔面紅潮、不眠、興奮)や皮膚炎、鼻出血などに用いられますが、便秘や肥満がない場合はこちらが選ばれることがあります。黄連解毒湯には発汗・通便作用はなく、純粋に体内の余分な火を消す処方です。そのため「肥満で便秘」というより、やせ型でも神経が高ぶって熱がこもるタイプの高血圧や不眠、不安などに適しています。防風通聖散はこれに比べ作用が広く、便通改善や代謝亢進の効果も持つのが特徴です。熱の程度や体型を見て、両者を使い分けることでより患者さんに合った治療が行えます。

桃核承気湯(61)(とうかくじょうきとう)

桃核承気湯(61)は、のぼせと便秘を伴う血行不良(瘀血〈おけつ〉)に用いられる処方です。大黄・芒硝による強めの瀉下作用と、桃仁(トウニン)・桂枝(ケイシ)による駆瘀血作用をあわせ持ち、体内に滞ったドロドロとした血(瘀血)と熱を排出します。防風通聖散と共通点が多く、体力が充実して便秘しやすい人の下半身の充血や月経不順、頭痛などに適します。特に婦人科領域で、月経困難症や更年期障害で顔が赤く便秘傾向の人に処方されることがあります。両処方の違いは、桃核承気湯の方が瘀血の除去(血液浄化)に重点がある点です。防風通聖散には血を動かす生薬も含まれますが、より多くの清熱剤や利水剤が含まれ全身の新陳代謝を上げる方向です。一方、桃核承気湯は血の巡りを良くすることで下半身の充血を改善する狙いが強く、便秘の有無や症状部位によって使い分けられます。ただし桃核承気湯は下剤成分が多いため長期連用には注意が必要で、必要に応じて専門医が処方を検討します。

副作用や証が合わない場合の症状

防風通聖散は効果がしっかりした処方ですが、体質に合わない場合や過量に服用した場合、副作用が現れる可能性があります。

  • 消化器症状:食欲不振、胃もたれ、腹痛、下痢など。熱を冷ます生薬が多いため胃腸が冷えたり、大黄・芒硝の作用で下しすぎることがあります。服用後に激しい腹痛や下痢が続く場合は用量を調整するか中止し、医師に相談してください。
  • 自律神経症状:発汗過多、ほてり、動悸、不眠など。麻黄や防風による発汗・代謝促進作用が体質によっては強く出すぎてしまうことがあります。特に元々汗をかきやすい人や不眠傾向のある人は、夜間の服用を避けるなど工夫が必要です。動悸や極端な不眠が出現した場合も医師に報告してください。
  • 皮膚症状:発疹、かゆみ、蕁麻疹(じんましん)などの過敏反応がまれに起こることがあります。皮膚に異常を感じた際は速やかに服薬を中止し、医療機関へご相談ください。
  • 重篤な副作用:防風通聖散には甘草(カンゾウ)が含まれます。他の甘草含有製品との併用や長期大量服用により、低カリウム血症を伴う筋力低下や高血圧(偽アルドステロン症)、ミオパチーを引き起こすおそれがあります。手足のしびれ・脱力感、著しいむくみ、高血圧の悪化が見られた場合は、すみやかに医師の診察を受けてください。また極めてまれですが、間質性肺炎や重篤な肝障害(劇症肝炎)の報告もあります。服用中に原因不明の咳や息切れ、発熱、黄疸症状が出た際にはただちに専門医に相談してください。

また 体質(証)が合わない場合、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することがあります。例えば虚弱で冷え性の方や、胃腸が極端に弱い方に防風通聖散を用いると、エネルギーを消耗しすぎて倦怠感や食欲低下を招くことがあります。とくに陽気(エネルギー)が不足する陽虚血液・水分が不足する陰虚の体質では、下痢や脱水を起こしやすく注意が必要です。反対に、ほとんど汗をかかず熱がこもって便秘しがちな実証タイプでないと期待する効果が出にくいため、証に適合するかどうか専門家の判断が重要です。

なお、妊娠中の服用は子宮収縮を促す可能性が指摘されており禁忌とされています(流産や早産のリスクがあります)。妊娠中・産後の服用は自己判断せず、必ず主治医にご相談ください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

防風通聖散は18種類もの生薬を含むため、他の薬剤との飲み合わせには注意が必要です。特に以下のような薬剤とは併用に注意してください。

  • 利尿薬・副腎皮質ステロイド薬:防風通聖散の利尿作用や甘草の作用によって、フロセミドなどの利尿剤やプレドニゾロンなどステロイドと一緒に服用すると低カリウム血症を起こしやすくなります。筋力低下や不整脈のリスクが高まるため、これらを服用中の方は医師の指示のもと経過観察を行いましょう。特に心疾患でジギタリス製剤を使用中の場合、低カリウムに伴う薬効増強が起こる可能性があるので注意が必要です。
  • 降圧薬・心臓の薬:防風通聖散によって体重やむくみが減少すると、血圧や心拍数に変化が生じることがあります。降圧薬(高血圧の薬)や抗不整脈薬、強心薬を服用中の方は、漢方開始後に血圧や脈拍の変化に留意してください。麻黄の作用で一時的に血圧が上がるケースもあるため、主治医に漢方併用を伝えた上で経過をチェックすることが望まれます。
  • 抗凝血薬(血液サラサラの薬):防風通聖散に含まれる当帰・川芎・芍薬などの生薬には、血流改善作用があり抗凝固薬の作用に影響を及ぼす可能性があります。ワルファリンなどを服用中に併用する場合は、定期的に血液検査を受けるなど凝固能のモニタリングを行ってください。また甘草の作用でワルファリンの効果が減弱するとの報告もあり、注意が必要です。
  • 他の漢方薬・サプリメント:防風通聖散と似た作用を持つ生薬(麻黄や大黄、甘草など)を含む漢方薬を併用すると、生薬成分が重複し副作用のリスクが高まります。例えば麻黄を含む小青竜湯や、大黄を含む潤腸剤との併用は避けた方がよいでしょう。また市販のダイエットサプリメントにも防風通聖散と同様の生薬が含まれていることがあります。市販薬や健康食品を自己判断で併用するのは避け、服用中のものがあれば必ず医師・薬剤師に申告してください。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

防風通聖散は、その名の通り18種類の生薬を組み合わせて作られています。
主な構成生薬は「防風(ボウフウ)」「黄芩(オウゴン)」「大黄(ダイオウ)」「芒硝(ボウショウ)」「麻黄(マオウ)」「石膏(セッコウ)」「白朮(ビャクジュツ)」「荊芥(ケイガイ)」「連翹(レンギョウ)」「桔梗(キキョウ)」「山梔子(サンシシ)」「芍薬(シャクヤク)」「当帰(トウキ)」「川芎(センキュウ)」「薄荷(ハッカ)」「滑石(カッセキ)」「生姜(ショウキョウ)」「甘草(カンゾウ)」です。実に多彩な生薬を含む処方で、表(身体表面)も裏(体内)も一挙に治療する点が特徴となっています。それぞれの生薬がどのような役割で配合されているのか、順に見ていきましょう。

防風(ボウフウ)

処方名にもなっている防風は、風邪(ふうじゃ)を防ぐ=外邪を追い払う力が強い生薬です。体表部の風邪・湿邪を発散させ、頭痛や体の痛みを和らげます。防風通聖散では、防風が汗腺を開き発汗を促すことで、体内にこもった熱や毒素を皮膚から外へ逃がす働きを担います。また「聖散(通聖散)」という名称には、“防風で邪を防ぎ、聖(すごい効き目で)万病を通じて治す”との意味合いがあるとされています。防風はその名の通り、本処方の主役となる発散薬であり、表にいる邪気を追い出す先鋒役です。

黄芩(オウゴン)

黄芩は清熱(熱を冷ます)と燥湿(湿を乾かす)作用を持つ生薬です。苦味の強いコガネバナの根で、炎症やほてりを鎮め、体内の余分な火を消す働きがあります。防風通聖散では、複数ある清熱薬の代表格として配合され、内側にこもった炎症や熱毒をコントロールします。麻黄や防風で代謝を上げる一方、黄芩が熱の過剰な上昇を抑えることで、バランスよくデトックスを進めます。高血圧による顔の赤みやイライラ、皮膚の赤い湿疹など「火が盛っている」症状を鎮めてくれる生薬です。

大黄(ダイオウ)

大黄は便秘薬として有名な生薬で、腸を刺激して排泄を促す峻下(しゅんげ)作用があります。防風通聖散において、大黄は溜まった熱と老廃物を腸から排出する要の役割を果たします。腹部の膨満感や便秘を解消し、結果的にお腹の脂肪燃焼を後押しします。また血の滞り(瘀血)を散らす作用も持つため、ニキビや皮膚炎などの炎症性の「膿(うみ)」を排出させる働きも期待できます。即効性がある反面、効きすぎると腹痛・下痢を起こす可能性があるため、甘草や芍薬と組み合わせて緩和しつつ用いられています。

芒硝(ボウショウ)

芒硝は硫酸ナトリウム(硝石)の結晶で、別名を「瀉下の塩」ともいいます。塩類下剤として腸管内に水分を引き込み、便を柔らかくする作用があります。防風通聖散では大黄と一緒に配合され、特に硬くコロコロした便を柔らげて出しやすくする役割を担います。あわせて体内の熱を冷まし、喉の渇きやほてりを和らげる効果もあります。大黄+芒硝の組み合わせは古典的な下剤処方「承気湯」の流れを汲んでおり、防風通聖散でも強力な通便コンビとして働いています。頑固な便秘で肌荒れや頭痛があるような場合、この二つの生薬が協力して症状を改善します。

麻黄(マオウ)

麻黄はエフェドラの草茎で、発汗発散作用と気管支拡張作用を持つ生薬です。交感神経を刺激し、発汗による体温発散と気道の通りを良くする効果があります。防風通聖散では、防風・荊芥・薄荷とともに身体の表面から邪気と余分な水分を追い出す役割を果たします。特に麻黄は発汗力が強く、新陳代謝を高めることで脂肪の燃焼も助けるとされています。実際、麻黄に含まれるエフェドリン類にはエネルギー消費を増やす作用があり、現代的に見れば本処方の減量効果の一端を担っています。ただし心悸亢進などが出やすい成分でもあるため、甘草や石膏でその刺激を緩和しつつ使用されています。

石膏(セッコウ)

石膏は硫酸カルシウム(水石膏)の鉱物で、強力な清熱・鎮静作用を持つ生薬です。高熱や激しい炎症を冷ます力があり、漢方では熱症状のコントロール薬として使われます。防風通聖散では、黄芩や山梔子と並ぶ清熱剤として配合され、麻黄などで上がりすぎる熱をクールダウンする役割を担います。また石膏は体内の津液(しんえき:潤い)を守る作用もあり、大量の発汗や下痢で体が乾きすぎないよう調節しています。熱感の強い皮膚炎や頭痛などに対しても石膏が入ることで炎症を沈め、痛みを緩和する効果が期待できます。防風通聖散が比較的安全に使える裏には、この石膏の冷静沈静な働きがあるのです。

白朮(ビャクジュツ)

白朮はオケラの根茎で、脾を補い水をさばく(健脾利水)作用を持つ生薬です。胃腸の機能を高め、体内の水分代謝を促進する働きがあり、むくみや食欲不振を改善します。防風通聖散では、多数の瀉下薬や発汗薬が入る中で、白朮が消化機能を守りつつ余分な水分を排出する役割を果たしています。脂肪太りの方は胃腸にも負担がかかっていることが多いため、白朮を加えることで漢方処方全体のバランスが整えられます。蒼朮(ソウジュツ)という似た生薬もありますが、本処方では補いと利水に優れる白朮を採用し、水太り体質の改善に一役買っています。胃もたれしやすい肥満の方でも白朮のおかげで比較的服用しやすくなっています。

荊芥(ケイガイ)

荊芥はシソ科の花穂で、風邪を発散し、皮膚の炎症を散らす作用を持つ生薬です。発汗作用は穏やかですが、特に皮膚科領域で吹き出物や痒みを抑える目的で用いられます。防風通聖散では、防風・麻黄とともに外邪を発散させる役割を果たし、おできやにきびなどの膿を持つ皮膚症状を改善する狙いがあります。荊芥には血行を促進し、皮膚表面の代謝を高める働きもあるため、顔面の吹き出物が治りにくい時にこれを加えることで治癒を早めます。古来「荊芥は瘡(できもの)の聖薬」とも言われ、防風通聖散が皮膚疾患に効果を発揮する要因の一つとなっています。また、荊芥の芳香成分が胃腸を刺激して他の生薬の吸収を助ける側面もあります。

連翹(レンギョウ)

連翹はレンギョウ(連翹)の果実で、清熱解毒作用に優れた生薬です。熱毒を冷まし、腫れ物や化膿性疾患を改善する働きがあり、特ににきびや扁桃炎などに古くから使われてきました。防風通聖散では黄芩・山梔子とともに体内の毒素を解消する中心的な役割を担っています。発疹、吹き出物、扁桃腺の腫れなど「体内の熱毒が表に現れた症状」を鎮めるために、連翹が処方に含まれています。実際、皮膚科領域の漢方処方(例:荊芥連翹湯)でも主役となる生薬であり、防風通聖散においても全身の炎症を抑え、膿を散らす力を発揮します。多くの生薬が配合された本処方の中で、連翹はクリーンアップ係として、熱毒によるトラブルを掃除するような役割といえるでしょう。

桔梗(キキョウ)

桔梗はキキョウの根で、肺を開き、喉や鼻の通りを良くする作用を持つ生薬です。また、痰を排出させる去痰作用や、鎮痛・抗炎症作用もあります。防風通聖散では、桔梗が配合されることで上半身(頭部〜胸部)の症状改善に働きかけます。具体的には、蓄膿症で鼻づまりがある場合に鼻腔内の膿を出しやすくしたり、肩こりや頭重感の改善に寄与します。桔梗は他の生薬の効果を上焦(体の上部)に運ぶ「舟」のような役割も果たすとされ、連翹や山梔子の清熱作用を頭顔面に届かせる手助けをします。さらに桔梗自体も消炎鎮痛効果で喉の腫れや痛みを緩和するため、防風通聖散が副鼻腔炎や扁桃炎にも用いられる所以となっています。

山梔子(サンシシ)

山梔子(梔子)はクチナシの果実で、強い清熱作用と利湿作用を持つ生薬です。苦味と寒性が特徴で、体内の余分な火を消し、湿熱を尿中に排泄させる働きがあります。防風通聖散では黄芩・連翹・石膏とともに体内の炎症やこもった熱を鎮める役割を担っています。特に顔面紅潮、目の充血、イライラ、不眠などの「胸膈(きょうかく)にこもった熱」を冷ますのに有効です。また利尿作用もあるため、むくみの軽減にも寄与します。さらに、梔子は血を冷まし、出血傾向(鼻血や皮下出血)を抑える作用も期待できます。防風通聖散は肥満による高血圧症状にも使われますが、その際梔子が入っていることでのぼせや耳鳴り、鼻出血などを予防的に抑えてくれます。全身の熱を下げつつ、尿とともに毒素を出す大切な生薬です。

芍薬(シャクヤク)

芍薬はシャクヤクの根で、筋肉のけいれんを和らげ、血の巡りを整える作用を持つ生薬です。痛みを緩和する鎮痙作用があり、甘草との組み合わせで胃腸の痛みやこわばりを和らげます(芍薬甘草湯が有名)。防風通聖散では、多くの瀉下・発散薬で消耗しがちな陰(血液や水分)を守りつつ、痛みを調整する役割があります。具体的には、大黄や芒硝で腸を動かす際に起こり得る腹痛を軽減し、排便をスムーズにします。また芍薬には**駆瘀血(血行促進)**作用もあり、当帰・川芎とともに血液循環を改善することで、肥満による肩こりや月経不順の解消にも一役買っています。防風通聖散が比較的マイルドに作用する背景には、芍薬の持つやさしい鎮静効果が含まれているといえます。

当帰(トウキ)

当帰はセリ科のトウキの根で、補血(血を補う)と活血(血行促進)作用を兼ね備えた生薬です。女性の貧血や冷え症の治療によく用いられ、「血の栄養剤」とも呼ばれます。防風通聖散に当帰が入っているのは、一見「ダイエット薬」としては不思議に思えるかもしれません。しかし、過剰な代謝促進で損なわれがちな血液を補い、全身の潤いを守るために配合されています。肥満の方でも血流が滞っている場合、当帰がそれを改善し、脂肪燃焼の過程で生じる疲労を軽減します。また当帰は腸を潤す作用もあるため、便秘解消にも裏から貢献しています。さらに川芎・芍薬とともに瘀血を散らすので、ニキビ痕や皮膚の色素沈着の改善にもつながります。デトックスと補血のバランスを取るために、当帰の存在は欠かせません。

川芎(センキュウ)

川芎はセリ科のセンキュウの根茎で、血行を促進し、痛みを止める作用を持つ生薬です。頭痛や月経痛の改善薬として知られ、当帰とセットで用いられることが多いです。防風通聖散では、川芎が加わることで肥満による血行不良の改善と鎮痛効果が期待されています。肥満の方は血液ドロドロ(瘀血)になりやすく、それが高血圧や頭痛、月経不順の一因となることがあります。川芎はその瘀血を散らし、血液をサラサラにして巡らせることで、これらの症状を和らげます。また、頭部の血流を良くする働きから、肩こりや頭重感の軽減にも役立ちます。防風通聖散は全身に作用する処方ですが、川芎があることで上半身の症状や婦人科症状にも対応できる懐の深さを得ています。

薄荷(ハッカ)

薄荷はハッカ(ミント)の葉で、清涼な発散作用と鎮静作用を持つ芳香性の生薬です。清涼感で頭部の熱を冷まし、ストレスによる緊張を緩和する効果があります。防風通聖散では、防風・荊芥・麻黄とともに汗をかかせて熱を発散させると同時に、爽やかな香りで気の巡りを良くし、リラックス効果を与えます。肥満症の方はイライラやストレスを抱えていることも多いですが、薄荷が入ることで心身のバランス調整に一役買います。また、鼻づまりや喉のイガイガ感を緩和する作用もあり、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の症状緩和にも寄与します。薄荷のスーッとする味は防風通聖散の服用感を良くし、飲みやすさをアップさせるメリットもあります。

滑石(カッセキ)

滑石は鉱物のタルク(滑石)で、利尿作用と清熱作用を持つ生薬です。粉末状にして用い、水分代謝を促すことで尿量を増やし、体内の余分な湿熱を排出します。防風通聖散では、白朮や梔子とともにむくみを取って熱を下げる役割を果たします。特に汗や便だけでは取り切れない細かな熱や老廃物を尿中に排泄させ、デトックスを完成させるイメージです。滑石はさらさらした感触から体内の水はけを良くするとも言われ、むくみや膀胱炎などに単独処方されることもあります。本処方においては、発汗・通便による水分喪失で偏らないよう利尿で調整し、かつ尿路を冷やして炎症を起こさないようにする狙いもあります。滑石が入ることで、防風通聖散は汗・便・尿の三方向から毒を出す万全の布陣となっているのです。

生姜(ショウキョウ)

生姜はショウガの根茎を乾燥したもの(乾姜や炮姜ではなく姜)で、身体を温め胃腸を整える作用を持つ生薬です。防風通聖散では、わずかな量ですが生姜が配合されており、これは他の生薬の調和と胃腸保護が目的です。麻黄や防風など身体を動かす生薬が多い中で、生姜が胃を温め消化を助けることで、副作用(吐き気や食欲低下)を抑えます。また、生姜は半夏や南星の毒消しとして使われるように、処方中の刺激性成分をまろやかにする働きがあります。本処方では大黄・芒硝による腹痛を和らげたり、麻黄の興奮性を抑制したりといった縁の下の力持ちです。さらに微量ながら発汗を助ける作用もあり、麻黄や防風の効果を後押しします。生姜のピリッとした風味は、処方全体の飲み心地を整えつつ、消化吸収を高めて他の生薬の働きを引き出す重要な役割を担っています。

甘草(カンゾウ)

甘草は漢方の調和薬の代表で、諸薬を調和し、緩和剤として働く生薬です。甘い味で胃を守りつつ、鎮痛や消炎作用も持ち合わせる万能選手です。防風通聖散では、18種もの生薬の個性を丸くまとめ、副作用を抑える役割があります。例えば麻黄や大黄の刺激を和らげ、胃腸への負担を軽減します。また、筋肉の緊張をゆるめる鎮痙作用もあるため、肩こりやこわばりの緩和にも一役買っています。甘草の甘味は脳に安心感を与え、ストレス緩和効果も期待できます。ただし含有量が多くなると前述の偽アルドステロン症の原因となり得るため、防風通聖散でも長期大量服用時には注意が必要です。他の甘草含有薬との併用を避けることで、この貴重な調和薬を安全に活かすことができます。

防風通聖散にまつわる豆知識

  • 名前の由来:「防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)」という名称は一見難解ですが、「防風」を用いることで「聖(ひじり)」=非常に優れた瀉剤(体の通じを良くする薬)である、という意味が込められています。すなわち「防風をもって聖のごとく通ずる散剤」というニュアンスです。実際その名の通り、防風通聖散は発汗・排尿・排便の三方向から体の通りを良くし、頑固な症状を打破する頼もしい処方として古来評価されてきました。
  • 歴史:防風通聖散は、中国金代(12世紀頃)の名医・劉完素(りゅう かんそ)が著した『黄帝素問宣明論方(こうていそもん せんめいろんぽう)』に出典があります【※「宣明論」と略されます】。劉完素は四大医学家の一人で、「病はすべて火(熱)に通ず」と考え、体内の余分な熱を冷まし排出する治療を重視しました。その代表処方がこの防風通聖散です。彼の時代から約800年以上経た現代でも、本処方は有効性を失わず受け継がれています。江戸時代の日本でも肥満や吹き出物に対する秘薬として用いられ、現在ではツムラやクラシエといったメーカーから医療用・市販用の製剤が広く供給されています。
  • 現代での活用:防風通聖散は「漢方のダイエット薬」としてテレビや雑誌で紹介されることもある有名処方です。例えば市販薬の「ナイシトール」シリーズや「コッコアポ」「ゼニタブレット」など、防風通聖散を主成分としたOTC医薬品が多数販売されています。それだけ肥満やメタボに悩む現代人にマッチした処方と言えます。近年の研究では、防風通聖散の服用により内臓脂肪面積やBMIが有意に減少することが報告されました。腸内細菌叢の改善(善玉菌の増加)や交感神経刺激によるエネルギー消費亢進など、メカニズムの解明も進んでいます。ただし安易な自己判断での長期服用は副作用リスクもあるため、専門家の指導のもと正しく活用することが重要です。
  • 処方の特徴:防風通聖散は表裏双解(ひょうりそうかい)・三焦同治の処方とも言われます。これは「体の表(皮膚)も裏(内臓)も同時に治療し、上・中・下の三焦すべてに作用する」という意味です。麻黄・防風・荊芥で表邪を発散し、黄芩・石膏・連翹で上中焦の熱を清し、大黄・芒硝で下焦の通じをつけるというように、全方位的にアプローチできる点が「聖散」と称される所以です。他の漢方処方に例を見ない18種もの生薬構成は、一見複雑ですが「解表剤+清熱剤+潤下剤+補血剤」を組み合わせたものと考えると理解しやすいでしょう。このような総合処方は、生活習慣病など複合的な要因が絡む現代病に対して特に有用であると再評価されています。
  • 豆知識(味・形状など):防風通聖散のエキス製剤(顆粒)はやや褐色がかった色で、味は苦味と辛味が特徴です。黄芩や大黄の苦みに、生姜・薄荷のピリッとした辛さ、甘草のほのかな甘みが混ざった独特の風味があります。服用時に少し胃が熱くなる感じがするという方もいますが、これは代謝が亢進している証拠かもしれません。エキス剤だけでなく、錠剤タイプも市販されており、飲みにくさを感じる場合は錠剤での服用も一法です。なお、漢方薬は温かいお湯で服用すると吸収が良いとされていますので、防風通聖散も白湯での服用がおすすめです。

まとめ

防風通聖散は、体力充実で熱と老廃物をため込みやすい方に適した漢方薬です。余分な脂肪や水分、便秘を解消しながら、血行を促進して新陳代謝を高めることで、肥満症やそれに伴う高血圧の随伴症状、便秘、皮膚炎、蓄膿症など幅広い不調の改善が期待できます。
比較的作用の確実な処方ですが、その分体質に合わない場合や他の薬剤との組み合わせには注意が必要です。虚弱な方や妊娠中の方には不向きであり、症状に応じて適切な漢方薬を選ぶことが重要となります。漢方は患者さん一人ひとりの証(しょう)に合わせて使い分けるものですので、防風通聖散が自分に合うかどうかは専門家の判断が欠かせません。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

  • URLをコピーしました!
目次