清上防風湯(ツムラ58番):セイジョウボウフウトウの効果、適応症

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清上防風湯(58)の効果・適応症

清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)は、首から上にこもった「熱」を冷まし、炎症や化膿を鎮める漢方薬です。とくに顔や頭部の皮膚トラブルに効果があり、昔から顔面の「できもの」や「はれもの」の治療に用いられてきました。体力が中程度以上で赤ら顔、のぼせがちといった傾向のある人に適しており、にきび(面皰)や湿疹・皮膚炎酒さ(赤ら顔)などに伴う赤み・熱感・腫れを和らげます。また、これらの炎症に付随して起こる頭痛やほてりなどの症状がある場合に、それらを改善する効果も期待できます。

漢方医学の考えでは、体内の余分な熱が上半身に上って皮膚に滞ることで、顔面の赤いにきびや湿疹として現れるとされています。清上防風湯はその「上半身にこもった熱」を冷まして取り除き、さらに膿を排出することで皮膚の炎症を改善します。顔が脂っぽく赤みの強いにきびができやすい方、頭や顔に化膿しやすい湿疹がある方、赤ら顔でのぼせを感じやすい方によく処方されます。
適応となる主な症状は後述するようににきび、湿疹、酒さ様の顔面紅潮、慢性的な顔面部の炎症などですが、これらに伴う頭部の違和感や頭痛を和らげることもあります。ただし通常の偏頭痛や緊張性頭痛に汎用されるわけではなく、あくまで「熱症状」をともなう場合に限り効果を発揮します。

よくある疾患への効果

清上防風湯は皮膚科領域で幅広く使われています。特に次のような疾患・症状に対して効果が知られています。

にきび(面皰)への効果

清上防風湯は赤く腫れて膿をもったニキビ(炎症性のにきび)に対する代表的な漢方薬です。思春期のにきびから成人のにきびまで、皮膚が脂性で赤みが強いタイプの吹き出物に用いられます。熱を冷まし炎症を抑える作用により、服用して数週間すると赤みや腫れが引き、膿を持ったニキビは次第に乾いて改善していきます。化膿を繰り返すニキビ体質の方では、新しい吹き出物の発生を抑える効果も期待できます。抗生物質などの西洋治療と併用されることも多く、皮膚科の現場では「ニキビの漢方治療=清上防風湯」というほど頻繁に処方されます。
ただし、ニキビであっても赤みや熱感が少ないタイプ(白ニキビ・黒ニキビ)には適さないため、そうした場合は別の処方が選ばれます。

湿疹・皮膚炎への効果

顔面や頭皮にできる湿疹・皮膚炎にも清上防風湯が使われます。例えば脂漏性皮膚炎など、皮脂の多い部位に起こる赤い湿疹や、掻き壊して二次的に化膿してしまった湿疹に有効です。清上防風湯を服用すると、炎症部分の赤みや熱感が和らぎ、腫れや痛み・かゆみが次第に軽減します。とくに首から上に症状が集中するケース(額や髪の生え際の湿疹、頭皮のフケを伴う炎症、顔のかぶれ等)によく適応します。
ただし、肌がカサカサに乾燥するタイプの湿疹や慢性化して色素沈着を起こしているような皮膚炎の場合は、清上防風湯よりも後述する別の処方の方が適することがあります。

顔面紅潮・酒さへの効果

清上防風湯の効能には、いわゆる「赤ら顔」の改善も含まれます。これは酒さ(しゅさ)とも呼ばれる状態で、頬や鼻を中心に慢性的な紅潮やほてり、場合によってはニキビ様のぶつぶつ(酒さ様皮膚炎)を生じる皮膚疾患です。清上防風湯は、酒さによる顔のほてりや赤みを冷まし、炎症を鎮めることで症状緩和に役立ちます。漢方の古い書物にも「酒皶鼻(しゅさび)」(酒飲みの赤鼻)の治療薬として記載があり、現代でも体質に合えば酒さに処方されることがあります。飲酒や温熱で顔がすぐ赤くなる体質の方で、熱を冷ます漢方処方として用いられるケースもあります。

頭痛など付随する症状への効果

清上防風湯は主に皮膚の薬ですが、炎症に伴う頭痛やのぼせといった症状にも効果を発揮することがあります。例えば、にきびや湿疹がひどい時に頭部のほてりや頭痛を感じるような場合、その原因となっている上半身の熱を冷ますことで頭痛が軽減することがあります。
また、高血圧傾向で顔が赤くほてり、頭痛がするようなタイプの方に対して処方されることもあります。ただし頭痛そのものを積極的に治す目的で使われることは少なく、あくまで顔面の炎症や充血を改善する中で付随症状として頭痛も和らぐ、といった位置づけです。通常の頭痛持ちの方にむやみに本処方を使うと、かえって冷えや倦怠感を招く恐れもありますので、頭痛への適応は限定的で「証」が合う場合に限られます。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

皮膚の炎症やにきびに用いる漢方薬は清上防風湯だけではありません。患者様の体質(証)や症状に応じて、以下のような処方が使い分けられます。それぞれ特徴が異なるため、症状に合った漢方薬を選ぶことが重要です。

  • 十味敗毒湯(6)(じゅうみはいどくとう):皮膚の化膿性疾患に広く用いられる基本的な処方です。にきび治療では初期のまだ症状が軽い炎症性ニキビにまず試されることが多く、比較的表層に近い浅い炎症に適しています。赤みや腫れを抑え、化膿を防ぐ効果がありますが、清上防風湯ほど強力に熱を冷ます作用はありません。体力中等度程度までの方に向き、じんましんや急性湿疹など皮膚の急性炎症全般にも使える万能選手です。
    ニキビができ始めたばかりの段階で十味敗毒湯を使い、症状が強くなってきたら清上防風湯に切り替える、といった使い方をされることもあります。
  • 荊芥連翹湯(50)(けいがいれんぎょうとう):一貫堂医学という流派で考案された処方で、慢性化したニキビや繰り返す皮膚の化膿症状に適した漢方薬です。清上防風湯と同じく顔面のにきびに用いられますが、皮膚の色がやや黒ずんで血行不良気味の人や、体力中等度で長引く炎症があるケースに向きます。処方中に「温清飲(うんせいいん)」という血を補いつつ熱を冷ます方剤を含むため、慢性的な炎症で消耗した体をケアしつつ皮膚の化膿を改善する効果があります。
    たとえば思春期を過ぎても治らない大人ニキビや、副鼻腔炎・扁桃炎などを繰り返しながら顔にもニキビができるような場合によく使われます。清上防風湯が急性の赤いニキビ向けとすれば、荊芥連翹湯は慢性化したニキビ体質向けと言えるでしょう。
  • 黄連解毒湯(15)(おうれんげどくとう):黄連解毒湯は黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4つの生薬からなる極めて苦く冷たい処方で、全身の強い「炎症」「ほてり」「イライラ」などを鎮めます。皮膚科では顔面紅潮やのぼせが著しい場合や、高血圧気味で赤いニキビができる場合など、全身的に「熱」が旺盛な体質に対して用いられます。にきびの炎症を抑える効果もありますが、皮膚の化膿を直接治す生薬は含まれないため、膿を持つニキビには十味敗毒湯や清上防風湯の方が適しています。むしろ清上防風湯で炎症を鎮めつつ、イライラ感や不眠など全身の熱症状が強い場合に黄連解毒湯を頓服的に併用する、といった使われ方をすることがあります。
    非常に涼性の薬なので、長期連用すると胃腸を冷やす恐れがあり、証に合う場合に短期間使うのが基本です。
  • 桂枝茯苓丸(25)(けいしぶくりょうがん):桂枝茯苓丸は血の巡りを良くし、瘀血(血行不良の状態)を改善する処方で、直接熱を冷ます作用はありませんが、女性の月経周期に関連して悪化するニキビにしばしば用いられます。例えば生理前になると顎周りにニキビができる、硬くしこるニキビができて痕が残りやすい、といったケースでは、ホルモンバランスの乱れによる瘀血が関与していると考えられます。桂枝茯苓丸はそうした体質を改善し、ニキビのできにくい体に整えていきます。
    さらに肌の新陳代謝を促す薏苡仁(ヨクイニン)という生薬(ハトムギの種)を追加で併用することで、よりニキビに特化した治療とすることもあります。清上防風湯など清熱剤で効果が不十分な慢性的なニキビの方に、桂枝茯苓丸を体質改善目的で長期処方するケースもあります。
  • 防風通聖散(62)(ぼうふうつうしょうさん):防風通聖散は18種もの生薬を含む下剤成分入りの強力な処方で、皮膚の炎症も内側から熱を発散させて治す特徴があります。便秘がちで腹部肥満傾向のあるような実証の人のニキビに適しており、皮膚科でも肥満傾向のある患者様に対してニキビ治療に用いることがあります。清上防風湯と名前が似ていますが、処方の性質はかなり異なり、防風通聖散は発汗・利尿・緩下により体内の余分な熱と毒を一気に発散・排泄させるイメージです。
    短期間でニキビを鎮める力は強い一方、体力のない方には下痢や体力消耗を招きやすい処方でもあります。またカリウム排泄などの作用も強いため、長期連用するとむくみや筋力低下(偽アルドステロン症)を引き起こすリスクもあります。したがって、防風通聖散は体格がしっかりしていて便通も滞りがちなニキビ患者に限り、期間を区切って用いられることが多い処方です。

以上のように、清上防風湯に似た症状に使われる漢方薬でも作用の強さや適する体質が異なります。例えば清上防風湯は「十味敗毒湯では少し物足りないが、防風通聖散では強すぎる」という中間的なケースにフィットする処方と言えます。このような漢方薬の使い分けは専門知識が必要ですので、自己判断で市販薬を選ぶより、漢方に詳しい医師に相談されることをおすすめします。

副作用や証が合わない場合の症状

漢方薬とはいえ清上防風湯にも副作用や注意すべき症状があります。比較的安全性の高い薬ですが、成分の作用が体質に合わない場合や長期服用時には、以下のような症状に注意が必要です。

まず、胃腸への副作用が現れることがあります。清上防風湯には苦味の強い生薬が多いため、胃の弱い方が服用すると食欲不振胃部不快感、場合によっては下痢腹痛を起こすことがあります。もともと体力がなく冷え症ぎみの方にとっては、清上防風湯の冷ます作用が強すぎて、飲むと「何となくだるい」「お腹が冷える」といった不調を感じることもあります。これはその人の「証」に合っていないサインと言えます。このような場合は無理に飲み続けず、処方の変更を検討します。

まれにですが、重篤な副作用も報告されています。清上防風湯に含まれる甘草(カンゾウ)の影響で、長期間大量に服用すると偽アルドステロン症という重い副作用が起こることがあります。これは体内のカリウムが不足し、むくみ、血圧上昇、体重増加、筋力低下(力が入らない、こむら返りが起こる等)などを引き起こす症状です。また、筋肉の障害(ミオパチー)として現れることもあります。同じく長期服用例で、腸間膜静脈硬化症という腸の血管が硬化するまれな症状も報告されています。これは山梔子(サンシシ)などの成分が関与すると考えられ、腹痛や下痢・便秘を繰り返すような症状で現れます。さらに、ごく稀ですが肝機能障害(肝炎や黄疸)を誘発するケースや、発疹・発赤などのアレルギー反応が起こるケースもあります。

これら重篤な副作用は頻度こそ低いものの、全くゼロではありません。そのため清上防風湯を含め漢方薬も漫然と長期に飲み続けるのではなく、定期的に経過をみながら必要最小限の期間で服用することが大切です。服用中に「いつもと違う不調」を感じた場合は、自己判断で続けず速やかに医師に相談してください。また、血液検査や尿検査で異常が指摘された場合も念のため漢方薬との関連を専門家に確認するようにしましょう。

併用禁忌・併用注意な薬剤

清上防風湯は単独では比較的安全に使える漢方薬ですが、他の薬剤との飲み合わせに注意が必要な場合があります。以下に主なポイントを挙げます。

  • 甘草を含む薬剤との併用:清上防風湯には甘草(カンゾウ)が含まれ、先述の通り長期大量服用で偽アルドステロン症を引き起こす可能性があります。甘草は他の漢方薬(例:小青竜湯や麻黄湯など)や一部の去痰薬・咳止めシロップにも含まれています。複数の甘草含有製剤を併用するとリスクが高まるため、清上防風湯を服用中はなるべく甘草を含む他の漢方薬やサプリメントの重複を避けてください。どうしても併用が必要な場合は、医師の監督下でカリウム値のチェックなどを行いながらにしましょう。
  • 利尿薬・副腎皮質ステロイド剤との併用:利尿薬(フロセミドなどのいわゆる「水薬」)やステロイド剤(プレドニゾロンなど)は、いずれも体内の電解質バランスに影響を与えます。清上防風湯をそれらと一緒に使用すると、低カリウム血症をきたすリスクが高まる可能性があります。特に利尿薬+清上防風湯+甘草含有の他漢方薬といった多重併用は注意が必要です。心不全などで強心配糖体(ジギタリス製剤)を服用している場合も、カリウム低下によりジギタリス中毒を起こしやすくなるため要注意です。これらのお薬を服用中の方は、清上防風湯を使用して良いか必ず事前に主治医とご相談ください。
  • 抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)との併用:清上防風湯には川芎(センキュウ)という血行を良くする生薬が含まれています。川芎自体の抗凝固作用はさほど強くありませんが、ワルファリンなどの抗凝固剤を内服中の方は念のため注意が必要です。漢方薬全般に言えることですが、ワルファリンやNOAC(経口抗凝固薬)を服用中の場合、漢方薬併用による出血傾向の変化が起こりうるため、定期的に凝固能のチェックを受けるなど医師の管理下で使用してください。
  • 妊娠中・授乳中の使用:清上防風湯は妊婦に絶対禁忌というわけではありませんが、含まれる川芎(センキュウ)は通経作用(血流改善による子宮収縮促進)のある生薬です。また黄連・黄芩などの苦寒な生薬は胎児に影響を与える可能性も指摘されています。妊娠中の方や授乳中の方は原則として清上防風湯の使用は避け、どうしても必要な場合は専門医が慎重に判断します。自己判断で市販の清上防風湯製剤を飲むようなことはしないでください。

以上のように、清上防風湯は他の薬との併用で問題が起きる可能性があるため、現在服用中の薬剤は必ず医師に伝えた上で処方してもらうことが重要です。特に持病で常用薬がある場合、漢方薬だからといって安全とは限りませんので、勝手な併用は避けましょう。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

清上防風湯は12種類の生薬から構成されており、それぞれが協力して炎症を鎮めるよう工夫されています。以下に主な生薬のグループと役割を紹介します。

  • 熱を冷まし炎症を抑える生薬:黄連(オウレン)、黄芩(オウゴン)、山梔子(サンシシ)、連翹(レンギョウ)などの生薬が含まれます。これらは体内の「熱(炎症やほてり)」を冷ます作用が非常に強く、赤みや腫れを改善する中心的な役割を担います。黄連・黄芩・山梔子は古来より「清熱薬」として知られ、顔面のほてりや熱毒を取り去る働きがあります。連翹は化膿を治す生薬で、抗菌・抗炎症作用によって膿んだ皮膚の治癒を促進します。
  • 患部から風熱を追い出す生薬:防風(ボウフウ)、荊芥(ケイガイ)、薄荷(ハッカ)、白芷(ビャクシ)といった生薬も配合されています。漢方でいう「風」とは主に皮膚のかゆみや痛み、熱の広がりを指します。防風・荊芥・白芷は発汗を促して皮膚表面に停滞する邪気(炎症因子)を散らす作用があり、腫れて熱をもった患部から炎症を発散させます。薄荷(ハッカ)は清涼感のあるハーブで、頭面部の熱を冷ましつつ風を散じる働きがあります。これらの生薬により、炎症部位のほてり・かゆみ・疼痛を和らげ、熱がこもらないようにします。
  • 血行を促進し腫れを改善する生薬:川芎(センキュウ)と枳実(キジツ)がこれに当たります。川芎は血の巡りを良くし、炎症によるうっ滞(鬱血)を解消する作用があります。枳実は停滞した「気」の巡りを通じて腫れを引かせる効果があります。炎症がある程度長引くと局所の血流が悪くなりますが、川芎と枳実の組み合わせにより患部の血行とリンパの流れが改善し、腫れの引きが早くなると考えられます。また、川芎は鎮痛作用も持つため、頭痛などがある場合に痛みを軽減するのにも役立っています。
  • 薬効を患部(上半身)へ導く生薬:桔梗(キキョウ)がそれに当たります。桔梗はノドの薬として有名ですが、同時に他の生薬を上半身、特に喉・肺・顔面へと運ぶ「引経薬」の役割を果たします。清上防風湯では、桔梗が処方中の有効成分を炎症が起きている顔や頭の部分に行き渡らせ、局所で効果を発揮しやすくします。また桔梗自体にも消炎・排膿作用があるため、扁桃炎や喉の腫れを伴うようなケースで清上防風湯を使う際にも理にかなっています。
  • 全体の調和と症状緩和を助ける生薬:甘草(カンゾウ)が処方の随所でサポート役を担っています。甘草は「国老」(薬の中の国家のご老人)とも称され、処方全体の調和をとる生薬です。複数の生薬を組み合わせる漢方処方では、相互のクセを和らげまとめる甘草の存在が重要です。清上防風湯でも、苦味の強い生薬の角を取り、胃腸への負担を和らげる役割を果たしています。また甘草自体に持つ抗炎症・鎮痛作用が、皮膚の赤みや痛みの軽減にも一役買っています。

以上のように、清上防風湯は「熱を冷ます薬」「風を散らす薬」「血行を促す薬」などバランスよく組み合わさった処方です。主要な生薬がそれぞれ異なる角度から炎症にアプローチし、総合的に顔面の皮膚トラブルを改善していきます。12種もの生薬が配合されていますが、無駄に入っているのではなく一つひとつに意味があり、熱・風・毒を取り去り、腫れと痛みを引かせるよう設計されているのです。

清上防風湯にまつわる豆知識

最後に、清上防風湯に関するちょっとした豆知識をご紹介します。

●歴史と名前の由来:清上防風湯は中国の明代に書かれた医書『万病回春』(1587年)に初めて登場した処方です。編纂者は龔廷賢(きょうていけん)という医師で、その頃日本では安土桃山時代、豊臣秀吉が天下統一目前という時代でした。江戸時代に日本に伝わり、現在まで漢方医学で受け継がれています。名称の「清上防風湯」にはしっかりと意味があり、「清上」とは上焦(じょうしょう)、すなわち横隔膜より上の上半身の熱を清する(冷まして除く)ことを指します。「防風」は主要生薬である防風に由来し、「上半身の熱を清ます防風の湯」というのが直訳になります。
名前に冠された防風という生薬は、風邪(ふうじゃ)を防ぐ=皮膚のかゆみや炎症を鎮める働きを持つことから処方の主薬とされています。

●処方の特徴:清上防風湯は番号でいうとツムラの漢方製剤で58番にあたります(医療用エキス製剤としては「ツムラ清上防風湯エキス顆粒(医療用)」)。同じ「防風」が名前についている処方に防風通聖散(62)がありますが、そちらは便通を促す成分も入った全身用の処方です。一方、清上防風湯は頭顔面部の炎症に特化しており、含まれる生薬の種類も異なります。
清上防風湯は一般用医薬品(第2類医薬品)としてドラッグストア等でも販売されており、市販薬の場合1日量7.5gを2回に分けて服用する形になっています(医療用では通常3回)。市販薬で試すこともできますが、前述のように証に合わないとかえって調子を崩す場合もありますので、心配な場合はやはり専門家に相談するのが安心です。

●服用時の味や匂い:清上防風湯の顆粒を飲んでみると、まずかなり強い苦味を感じます。黄連・黄芩・山梔子といった清熱薬が多量に入っているためで、この苦さが熱を冷ます力の裏返しとも言えます。ただし薄荷や荊芥などハーブ系の生薬も入っているため、後味にはスーッとした清涼感や独特の香りもあります。「良薬口に苦し」のことわざ通り苦い薬ですが、甘草が配合されていることで多少の甘みも感じられ、慣れると意外と飲みやすいという声もあります。
どうしても苦味が気になる場合は、水か白湯でしっかり飲み流してしまうと良いでしょう(清上防風湯は食前・食間服用が原則なので、ジュースやコーヒーで飲むのは避けてください)。

●生薬素材の豆知識:清上防風湯に入っている生薬には、普段の生活で目にする植物も使われています。例えば連翹(レンギョウ)は春先に黄色い可愛らしい花をつけるモクセイ科の落葉低木で、その果実を乾燥させたものが生薬です。庭木や公園の植え込みでも見かけることがあり、観賞用としても親しまれていますが、漢方では優れた抗菌・消炎薬です。また薄荷(ハッカ)は言わずと知れたミントの仲間で、リフレッシュ効果のある芳香成分(メントール)が炎症部位の不快感を和らげます。
黄芩(オウゴン)はシソ科のコガネバナという植物の根で、見た目が黄金色なことから名付けられました。古来中国では黄芩の色を生かして布を染めたり、山梔子(クチナシ)の果実は食品の着色料(たくあんの黄色など)に利用されたりもしてきました。このように、生薬にはそれぞれ由来となった植物の特徴や歴史があり、知ると漢方薬を身近に感じられるかもしれません。

●「清上防風湯」という一つのユニット:清上防風湯は複数の生薬が組み合わさったひとつのチームのようなものです。チーム内には熱を冷ます選手、風邪(ふうじゃ)を追い払う選手、痛みを取る選手…と各役割が揃っており、総合力で効果を発揮します。これは漢方処方の面白いところで、単一の有効成分ではなく多成分のハーモニーで症状を改善する点が特徴です。その分、西洋薬とは違った緩やかな効き方をしますが、体質にマッチすれば根本から体調を整えて再発しにくくすることも可能です。
にきびや皮膚炎に悩む方で、「体の中から体質改善したい」とお考えの場合、一度この清上防風湯という処方を専門家に相談してみる価値はあるでしょう。

まとめ

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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