麻黄湯(ツムラ27番):マオウトウの効果、適応症

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麻黄湯の効果、適応症

麻黄湯(まおうとう)は、四つの生薬からなる漢方薬で、ツムラでは番号27番として知られます。体力が中等度以上で(実証)、悪寒・高熱・頭痛・関節痛などを伴い汗が出ないような風邪の初期によく用いられます。体を温めて発汗を促すことで熱を下げ、寒気や痛みを和らげる効果があります。

適応とされる症状は幅広く、感冒(ふつうのかぜ)、インフルエンザ(初期)、気管支炎、気管支喘息、関節リウマチ、乳児の鼻づまり・哺乳困難などが挙げられます。発汗を促す「解表剤」として、寒気が強く汗が出ない実証の患者さんに適した処方ですが、逆に汗をかいている人や虚弱な人には通常用いません(そうした場合は別の漢方薬を選択します)。

よくある疾患への効果

麻黄湯は上記のような症状に当てはまる場合、さまざまな疾患で症状改善に効果を発揮します。特によく用いられる疾患とその効果は次のとおりです。

  • かぜ(感冒): 悪寒と発熱を伴う典型的な風邪のひき始めに用います。体を温めて汗をかかせることで熱を下げ、ゾクゾクする寒気や頭痛・関節痛を改善します。喉の痛みや咳にも一定の効果があります。
  • インフルエンザ: インフルエンザの初期には麻黄湯がしばしば処方されます。抗インフルエンザ薬(いわゆるタミフル等)が普及する以前より、インフルエンザに対する漢方治療として用いられてきました。近年では、麻黄湯の投与によりインフルエンザの解熱や筋肉痛の改善効果が抗インフルエンザ薬に匹敵するとの報告もあります。高熱で関節が痛むようなインフルエンザに対し、症状緩和に即効性を発揮することがあります。
  • 気管支炎・喘息: 気管支炎で咳や熱が出た初期や、寒冷な季節に起こる喘息発作の際にも用いられることがあります。麻黄湯に含まれる麻黄と杏仁の作用で気管支が拡張し、喘鳴(ぜんめい)や咳嗽を和らげる効果が期待できます。ただし、体力が極度に低下した慢性の喘息には適しません。
  • 小児の鼻づまり: 麻黄湯は小児にも使用できる処方で、特に乳幼児の風邪で鼻づまりがひどく授乳が困難な場合などに処方されることがあります。麻黄の成分が鼻粘膜の充血をとるため、鼻づまりを解消しミルクを飲みやすくしてあげる目的です。
  • 関節リウマチ: 意外かもしれませんが、関節リウマチの痛みに麻黄湯が使われることもあります。特に、悪寒を伴って関節が腫れて痛むような炎症期に、一時的に痛みや腫れを和らげる目的で投与されることがあります。体を温め血行を良くする作用や、麻黄・甘草の抗炎症作用によって関節痛の軽減が期待できます。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

風邪の初期からインフルエンザまで、麻黄湯は非常に有効ですが、症状や体質によっては他の漢方薬が選ばれることもあります。以下に、麻黄湯と似た場面で用いられる代表的な処方と、その使い分けのポイントをまとめます。

  • 葛根湯(1): 麻黄湯と同様に寒気がして発熱し汗の出ない初期のかぜに使われる代表的処方です。ただし麻黄湯ほど症状が激しくない場合(高熱よりも項部のこわばりが目立つ場合など)に用いられます。筋肉の緊張をほぐす生薬(葛根など)が入っているため、肩こりや首筋の凝りを伴うかぜに適しています。麻黄湯に比べて作用が穏やかで、幅広い体質に用いやすい点も特徴です。
  • 桂枝湯(2): 麻黄湯と同じく発汗を促す漢方ですが、適するのは体力があまりない虚証の人で、すでに少し汗が出ているようなかぜの初期です。麻黄湯に比べ構成がマイルドで、発汗作用も穏やかです。高齢者や汗かきの傾向がある人のかぜには、無理に発汗させすぎない桂枝湯を用います。
  • 小青竜湯(19): 麻黄湯と同じ麻黄を含む処方ですが、くしゃみ・鼻水や痰の多いかぜやアレルギー性鼻炎に使われます。構成生薬に細辛や乾姜などを加えて、鼻水・痰を抑える作用を強めた処方です。寒気とともに水様の鼻汁やゼーゼーした咳が出る場合には小青竜湯の方が適しています。逆に、あまり鼻水がなく高熱・関節痛が主体であれば麻黄湯のほうが向きます。
  • 小柴胡湯加桔梗石膏(109): 喉の腫れや口の渇きが強く、寒気より熱感が前面に出る場合には、小柴胡湯加桔梗石膏(109)のような処方が選ばれます。麻黄湯に比べて熱を冷ます作用が強く、風邪の少し進んだ段階(亜急性期)の症状に対応する漢方薬です。
  • 麻黄附子細辛湯(127): 麻黄湯に似た名前ですが、体力の極度に落ちた虚弱な人向けの処方です。高齢者や慢性病で熱を十分に出せず、悪寒ばかりが強いような場合に用いられます。麻黄湯と違って桂枝(ケイヒ)ではなく附子(ブシ)という強力に身体を温める生薬が入っており、汗をかかせるよりも身体を深部から温めて免疫力を高める目的で使います。冷えが強いのに熱が上がらないインフルエンザ様の症状では、麻黄湯ではなく麻黄附子細辛湯が選択されます。

副作用や証が合わない場合の症状

麻黄湯は比較的短期間の使用であれば安全性の高い漢方薬ですが、まれに以下のような副作用が現れることがあります。また、体質に合っていない場合には効果がないばかりか不調を招くこともあるため注意が必要です。

  • 偽アルドステロン症: 甘草(カンゾウ)という生薬に含まれる成分によって、低カリウム血症を伴う偽アルドステロン症を起こすことがあります。血圧上昇、むくみ、手足のしびれ、脱力などを特徴とし、特に長期間の服用で起こりやすい副作用です。症状が出た場合はただちに服用を中止し、医療機関を受診してください。
  • 動悸・高血圧: 麻黄の作用により、動悸や血圧上昇、不眠、めまいなどが起こることがあります。特に心臓病や高血圧のある方では注意が必要です。夜遅くに服用すると興奮して眠れなくなる場合もあるため、服用時間にも留意します。
  • 発汗過多・脱力: 体質に合わない(本来虚証なのに麻黄湯を服用したような)場合、汗をかきすぎて脱水気味になったり、全身の倦怠感・力が入らない感じが強まることがあります。これは麻黄湯の発汗作用が過剰に働いた結果で、一種の副作用と言えます。発汗後に必要以上の脱力感やめまいを感じた場合は、医師に相談してください。
  • その他: まれに発疹、かゆみ、胃の不快感、食欲不振などの副作用が起こることも報告されています。

なお、妊娠中の方、高齢者、重度の心疾患・腎疾患がある方などは麻黄湯の使用に慎重を要します。服用を検討する際は必ず医師に相談してください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

麻黄湯を服用する際、他に使用している薬剤との相互作用にも注意が必要です。特に以下のような薬との併用は避けるか慎重な使用が求められます。

  • 麻黄を含む漢方薬、その他の漢方薬:麻黄湯は1日量7.5gのうち麻黄エキス5.0gを含んでいます。これは既に1日に摂取可能な麻黄の最大量に近い数字です。麻黄を含むその他の漢方薬(小青竜湯(19)など)を同時に摂取すると動悸や不眠などの副作用が強く表れる可能性があります。
    その他の漢方薬でも思わぬ副作用が出てしまう恐れがあるため、他の漢方薬との併用は充分注意してください。どうしても併用する必要がある場合は漢方医へ相談してください。
  • 市販の風邪薬・興奮剤: エフェドリンやカフェインを含む市販薬(風邪薬、鼻炎薬、咳止め、栄養ドリンクなど)と麻黄湯を一緒に服用すると、刺激作用が重なり動悸や不眠などの副作用が強まる恐れがあります。市販薬をすでに飲んでいる場合は麻黄湯を追加で服用しないでください。
  • 利尿薬・ステロイド: 利尿薬(尿を出す薬)や副腎皮質ステロイド剤を服用中に麻黄湯を使うと、低カリウム血症による不調(筋力低下や脱力など)を起こしやすくなります。甘草の作用でこれらの薬の副作用(電解質異常)が増強される可能性があるためです。同様に、便秘薬を長期間使用している場合も注意が必要です。
  • 強心薬: 強心薬(ジギタリス製剤)を服用中の場合、麻黄湯との併用は特に注意が必要です。甘草による電解質異常の結果、不整脈など強心薬の副作用が出やすくなる恐れがあります。心疾患で治療中の方は麻黄湯の服用前に必ず主治医に相談してください。
  • ワルファリン: 抗凝固薬ワルファリンを服用中の方が麻黄湯を併用すると、甘草の影響でワルファリンの効果が弱まり、血液が固まりやすくなる可能性があります。ワルファリン服用者は自己判断で漢方薬を追加せず、必ず医師に相談してください。
  • MAO阻害薬: 古いタイプの抗うつ薬(MAO阻害薬)やパーキンソン病治療薬の一部を服用中の場合、麻黄湯の併用は避けるべきです。麻黄の成分が代謝されずに蓄積し、急激な血圧上昇(高血圧クリーゼ)などを引き起こす危険があります。

含まれている生薬の組み合わせ

麻黄湯は「麻黄」「桂枝」「杏仁」「甘草」の4つの生薬から構成されています。それぞれの生薬が担う役割は以下のとおりです。

  • 麻黄(まおう): 発汗発散(汗をかかせて熱を発散させる)作用が非常に強い生薬です。また気管支を拡張して咳や喘息を鎮め、体内の水分代謝を促す利水作用もあります。これにより、寒気を取り除き発熱やせき込みを改善します。
  • 桂枝(けいし): シナモンの樹皮で、体を温めて発汗を助ける作用があります。麻黄と組み合わせることで発汗解熱効果が一段と高まります。また血行を促進し、頭痛や身体の痛みを和らげる働きもあります。
  • 杏仁(きょうにん): アンズの種で、呼吸器を潤しつつ気管支の炎症を抑える生薬です。咳を鎮め、痰を切れやすくする作用があります。麻黄とともに配合することで、風邪で起こる激しい咳や喘鳴を緩和します。
  • 甘草(かんぞう): 甘味のある生薬で、急性症状を和らげつつ他の生薬の調和をとる役割があります。炎症を鎮める作用も持ち、喉の痛みや咳を緩和する効果が期待できます。また甘草が入っているおかげで、麻黄湯の味がいくらか飲みやすくなっています。

このように、麻黄湯では発汗解熱を主としながら、呼吸器症状の緩和や全身状態の調整もできるよう、生薬が組み合わされています。シンプルな4種の処方ですが、それぞれの生薬が互いに作用を補強し合うことで高い効果を発揮します。

麻黄湯にまつわる豆知識

  • 歴史的な処方: 麻黄湯は中国の漢代に張仲景(ちょうちゅうけい)によって著された『傷寒論(しょうかんろん)』に収載された処方です。約1800年以上もの歴史があり、インフルエンザを含む外感熱病の治療薬として古くから用いられてきました。江戸時代の日本でも『万病回春』などの漢方書にその名が見られ、長く重宝されてきた薬です。
  • エフェドリンの発見: 麻黄湯の主薬である麻黄から、エフェドリンという有効成分が1885年に日本人科学者・長井長義によって単離されました。エフェドリンは気管支拡張薬として西洋医学でも利用され、これがきっかけでカゼ薬や喘息薬の開発が進みました。漢方の経験が近代薬にも生かされた一例です。
  • 味と服用形態: 麻黄湯を煎じた煮汁は、やや苦みとピリッとした辛みの中にほのかな甘みが感じられる味です(甘草の甘味)。現在では煎じ薬のほかにエキス顆粒(粉薬)として処方されることが多く、手軽に服用できます。即効性がある反面、体を芯から温めて発汗させるので、飲むと体がポカポカしてくるのを感じる方もいます。
  • 現代での活躍: 現代でも麻黄湯は「漢方のタミフル」と呼ばれることもあるほど、インフルエンザ治療で注目されています。2009年の新型インフルエンザ流行時にも使用例が報告され、発症早期から用いることで重症化を防ぐ可能性が示唆されました。古典に由来する処方ですが、21世紀の今日でもその価値が見直されています。
  • スポーツにおける制限: 麻黄に含まれるエフェドリンはスポーツの競技会において使用が禁止・制限されている興奮剤成分です。そのためアスリートが試合前に麻黄湯を服用すると、ドーピング検査で陽性となる可能性があるため注意が必要です。

まとめ

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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