葛根湯加川芎辛夷(ツムラ2番):カッコントウカセンキュウシンイの効果、適応症

葛根湯加川芎辛夷(2)は、漢方の基本処方である葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)という生薬を加えたお薬です。体を温めて発汗を促す葛根湯(1)をベースに、血行を促進し痛みを和らげる川芎と、鼻づまりを改善する辛夷を組み合わせています。その結果、鼻粘膜に余分にたまった「水(鼻水や炎症によるむくみ)」を取り除き、つらい鼻づまりを改善する効果があります。比較的体力がある方向きで、入浴などで体を温めると鼻づまりが楽になるようなケースに適しています。また、西洋薬にあるような眠くなる成分は含まれていないため、日中でも使いやすいのも特徴です。

目次

葛根湯加川芎辛夷(2)の適応症と効果

葛根湯加川芎辛夷(2)は、鼻に関連する症状に幅広く用いられます。具体的な適応症としては以下のようなものがあります。

  • 急性の鼻炎・感冒(かぜ):かぜの引き始めで鼻水・鼻づまりが出ている時に効果的です。特に、寒気や発熱とともに鼻がつまって頭痛がするような場合に用いられます。元の葛根湯が発汗・解熱効果を持つため、初期のかぜ症状を和らげながら鼻づまりにもアプローチします。
  • 蓄膿症(副鼻腔炎):鼻の奥に膿がたまる副鼻腔炎にも使われます。比較的体力があり、鼻粘膜が腫れて膿性の鼻汁があるような副鼻腔炎で、鼻が詰まって息苦しいときに効果が期待できます。川芎と辛夷の作用で、膿の排出を促し炎症を鎮めてくれます。
  • 慢性鼻炎:長引く鼻炎にも適応があります。慢性的に鼻づまりが続いている状態で、特に冷えによって症状が悪化するような場合に向いています。温める作用で鼻粘膜の血行を良くし、慢性炎症を緩和します。
  • 花粉症などアレルギー性鼻炎:透明~白色のサラサラした鼻水が大量に出る典型的な花粉症には小青竜湯(19)がよく用いられますが、鼻水が出るだけでなく鼻づまりもしやすい花粉症の方には葛根湯加川芎辛夷(2)が選ばれることがあります。寒い時期の花粉症や、体を温めると症状が和らぐタイプのアレルギー性鼻炎にマッチすることがあります。

以上のように、葛根湯加川芎辛夷(2)は主に鼻づまりを伴う鼻炎や副鼻腔炎に効果を発揮します。ただし、症状や体質によって適する漢方薬は異なるため、後述する他の漢方薬との使い分けも参考にしてください。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

鼻水・鼻づまりの症状には複数の漢方薬があり、それぞれ適したパターンがあります。葛根湯加川芎辛夷(2)と**他の漢方薬(ツムラ処方番号1番~138番の中から代表的なもの)**の使い分けを見てみましょう。

葛根湯(1)

葛根湯(1)は葛根湯加川芎辛夷のベースとなっている処方で、風邪の初期(汗をかいていない寒気、発熱、首や肩のこわばりなど)によく用いられます。鼻づまりに対してもある程度効果がありますが、鼻症状が強い場合は効果が不十分なことがあります。そうした時に葛根湯(1)では鼻づまりが解消しきれない場合に、辛夷と川芎を加えた葛根湯加川芎辛夷(2)が選択されます。つまり、単純な風邪の初期症状には葛根湯で十分ですが、頭痛や鼻づまりが顕著な場合には葛根湯加川芎辛夷の方が適しています。

小青竜湯(19)

小青竜湯(19)は水様でサラサラとした鼻水やくしゃみ・涙目など、いわゆるアレルギー性鼻炎や花粉症の初期によく使われる処方です。体を温めて水っぽい鼻水を抑える作用が強く、透明〜白色の鼻水が絶えず出るような場合に適しています。一方、葛根湯加川芎辛夷(2)は鼻水も出るがそれが鼻にたまって鼻づまりを起こしている場合に向いています。鼻水の性状で使い分けるとわかりやすく、小青竜湯(19)は透明~白色でさらさらした鼻水向き、葛根湯加川芎辛夷(2)はやや粘り気があって滞りがちな鼻水向きと言えます。また小青竜湯は体力中等度またはやや虚弱な方向けで、葛根湯加川芎辛夷は比較的体力のある方向きという違いもあります。

辛夷清肺湯(104)

辛夷清肺湯(104)は辛夷(しんい)を含む別の処方で、黄色く粘り気のある鼻汁や膿が絡む副鼻腔炎によく使われます。構成生薬に石膏や黄芩など熱を冷ます生薬を含むため、身体にこもった熱を取り除いて炎症を鎮め、鼻づまりを改善する作用があります。鼻水が濃く黄色い、粘って塊になり鼻が完全につまってしまうような症状では辛夷清肺湯(104)が適しています。対して葛根湯加川芎辛夷(2)は基本が温める処方ですので、体を温めると楽になるタイプの鼻づまり(色は透明~白~淡黄色程度の鼻水)に向きます。つまり、辛夷清肺湯(104)は熱証(体に熱がこもるタイプ)の鼻づまりに、葛根湯加川芎辛夷(2)は寒証(体が冷えているタイプ)の鼻づまりに使われることが多いです。

荊芥連翹湯(50)

荊芥連翹湯(50)は蓄膿症(副鼻腔炎)や慢性鼻炎に加え、慢性扁桃炎やにきびなどにも使われる処方です。炎症を鎮める連翹や黄連・黄芩などが含まれ、体力中等度以上で顔色が浅黒く、時に手足の裏に汗をかきやすいような人に適しています。副鼻腔炎に対しては葛根湯加川芎辛夷(2)と同様に用いられますが、より慢性化した炎症傾向(膿が長引いている、皮膚にも炎症が出やすい等)の場合に荊芥連翹湯(50)が選ばれることがあります。簡単に言うと、葛根湯加川芎辛夷(2)は急性~亜急性の鼻づまり向き、荊芥連翹湯(50)は慢性化した鼻づまりや繰り返す炎症体質向きと考えるとよいでしょう。

副作用と「証」が合わない場合の反応

漢方薬も西洋薬と同様に、副作用が起こる可能性があります。葛根湯加川芎辛夷(2)で報告されている主な副作用や注意すべき点は以下のとおりです。

  • 偽アルドステロン症・ミオパチー(筋力低下):甘草(カンゾウ)に含まれる成分の影響で、体内のカリウムが低下し、むくみや血圧上昇、脱力感などが現れる重大な副作用です。手足のしびれ・だるさ、筋肉のこわばりに加えて力が入らない、筋肉痛が増強するといった症状が徐々に現れます。長期連用や他の甘草含有製剤との併用で起こりやすくなるため、注意が必要です。こうした症状が出た場合は服用を中止し、速やかに医療機関を受診してください。
  • その他の副作用:発疹・発赤、かゆみなどの皮膚症状、吐き気、食欲不振、胃の不快感など消化器症状が報告されています。これらは頻度は高くありませんが、万一現れた場合は一旦服用を中止し、様子を見るか専門家に相談しましょう。

また、漢方ではその人の体質や症状のパターンを「証(しょう)」と呼びます。証が合わない場合、薬効が十分発揮されないだけでなく、思わぬ不調が出ることがあります。葛根湯加川芎辛夷(2)は比較的体力があり寒がりの人向けの処方ですので、もし虚弱な方や汗かきの方が服用すると、発汗しすぎてしまったり、逆に体力を消耗してだるさが増すといった反応が出る可能性があります。
また、体に熱がこもっているタイプの鼻炎(黄色いドロっとした鼻汁の炎症)に本処方を使うと、症状が悪化することもあります。漢方薬は「証」に合ってこそ効果を発揮しますので、体質的に合わないと感じた場合は無理に続けず専門家に相談しましょう。

葛根湯加川芎辛夷(2)と併用注意の薬剤

葛根湯加川芎辛夷(2)は比較的安全な生薬の組み合わせですが、他の薬剤との併用にはいくつか注意点があります。特に以下のような薬を服用中の方は注意が必要です。

  • 利尿剤との併用:フロセミドなどの利尿薬や下剤を使用している場合、カリウム排泄が増えて血中カリウムが低下しやすくなります。葛根湯加川芎辛夷(2)に含まれる甘草にもカリウムを下げる作用があるため、併用により低カリウム血症や高血圧、むくみが起こりやすくなります。利尿剤(降圧剤の一部やむくみ治療薬)を使っている方は、併用する際は医師に経過観察をしてもらいましょう。
  • 他の甘草含有製剤との併用:漢方薬や一部の咳止め薬、胃腸薬には甘草を含むものがあります。これらを葛根湯加川芎辛夷(2)と一緒に使うと、甘草の重複投与となり偽アルドステロン症のリスクが高まります。できるだけ甘草を含む漢方薬の重複は避けるか、併用が必要な場合は用法用量を厳守し、体調の変化に注意しましょう。
  • エフェドリン類を含む薬との併用:葛根湯加川芎辛夷(2)には麻黄(マオウ)が含まれ、エフェドリン系の作用で交感神経を刺激します。市販の鼻炎薬や咳止めでエフェドリン類(またはプソイドエフェドリン)を含むものを併用すると、動悸や血圧上昇など過度な刺激症状が出る可能性があります。カフェインや興奮作用のある薬との併用も同様に注意が必要です。
  • 心疾患・甲状腺疾患の薬との併用:心臓病や甲状腺機能亢進症の治療を受けている方は、麻黄の刺激作用で症状が悪化する恐れがあります。抗不整脈薬や甲状腺薬を服用中の場合は、葛根湯加川芎辛夷(2)を使用してよいか主治医に確認してください(場合によっては代替の漢方薬を検討します)。
  • その他の注意:ワルファリン等の血液をサラサラにする薬との明確な相互作用は報告されていませんが、川芎は血行を良くする生薬でもあるため念のため経過を観察するなど注意します。また、長期に複数の漢方薬を併用する際は構成生薬が重複しないか専門家にチェックしてもらいましょう。

以上のように、特定の薬剤と併用することで作用が強まったり副作用リスクが高まったりすることがあります。現在服用中のお薬がある方は、葛根湯加川芎辛夷(2)を使う前に医師・薬剤師に相談することをおすすめします。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

葛根湯加川芎辛夷(2)には9種類の生薬が含まれており、それぞれに役割があります。処方名にも現れているとおり、**「葛根湯」+「川芎」+「辛夷」**で構成されています。以下に各生薬の働きを簡単に解説します。

  • 葛根(かっこん):クズの根。首や背中のこわばりをほぐし、発汗を促す作用があります。風邪の初期に起こる項背部の強張りを和らげ、熱を下げる効果が期待できます。また体内の水分代謝を調整し、鼻や喉の粘膜の乾燥を防ぐ役割もあります。
  • 麻黄(まおう):マオウ(Ephedra)の地上茎。発汗作用が非常に強く、体表から邪気を発散させる生薬です。同時に気管支を拡張して呼吸を楽にし、鼻粘膜の充血を軽減する効果もあります。寒気を伴う発熱や鼻づまりに対して中心的な役割を果たします。
  • 桂枝(けいし):ニッケイ(シナモン)の小枝。身体を温めて血行を促し、発汗を助ける作用があります。麻黄と一緒に使うことで発汗をコントロールしつつ、悪寒や頭痛を和らげる効果を発揮します。また桂枝は体表だけでなく経絡の循環も良くするため、肩こりや全身のこわばり改善にも寄与します。
  • 芍薬(しゃくやく):シャクヤクの根。筋肉のけいれんや痛みを和らげ、鎮痛作用を持つ生薬です。葛根湯の中では、麻黄や桂枝の発汗作用によるエネルギー消耗を補い、筋肉痛・頭痛を緩和する役割があります。甘草との組み合わせ(芍薬甘草湯)で筋肉のこわばりを取る作用があり、本処方でも首肩のこわばりや頭痛を和らげます。
  • 甘草(かんぞう):カンゾウ(甘草)の根。炎症を鎮め、他の生薬の調和をとる甘味のある生薬です。喉の痛みや咳を緩和する効果もあり、葛根湯加川芎辛夷では処方全体のバランスを整える「調和薬」として働きます。また、副作用を緩和する作用も期待でき、麻黄の刺激を和らげ胃腸への負担を減らす助けとなります。
  • 大棗(たいそう):ナツメの実。健脾作用があり、胃腸を守りつつ他の生薬の働きを穏やかに調整します。甘味があり飲みやすさを向上させる効果も期待できます。葛根湯加川芎辛夷では、生姜とともに消化器を温めて生薬の吸収を助け、体力を補う役割を担っています。
  • 生姜(しょうきょう):ショウガの根茎(乾燥または生)。身体を内側から温めて発汗を促し、胃腸を温めて吐き気を抑える効果があります。葛根湯加川芎辛夷では、体を温めると同時に他の生薬の消化吸収を助ける働きをします。大棗との組み合わせで脾胃を守り、発汗による体力消耗を補う役割があります。
  • 川芎(せんきゅう):センキュウの根茎。血行を促進し痛みを止める作用があり、特に頭痛を和らげる生薬として有名です。葛根湯に川芎を加えることで、風邪に伴う頭痛や鼻の奥の重い痛みを緩和します。また血の巡りを良くするため、鼻粘膜の鬱血(うっけつ)を改善し炎症の治りを早める狙いもあります。
  • 辛夷(しんい):モクレンの花の蕾。芳香のある生薬で、鼻通(びつう)作用すなわち鼻の通りを良くする働きがあります。昔から民間薬として鼻づまりや慢性鼻炎に用いられてきた生薬で、鼻腔内の腫れを抑え、膿の排出を促進します。葛根湯加川芎辛夷では、この辛夷の追加によって鼻づまり改善効果が飛躍的に高まっています。

以上のように、葛根湯加川芎辛夷(2)の9つの生薬はそれぞれ風邪の初期症状+鼻づまりという状態に対応するために選ばれています。温めて発散させる生薬(葛根・麻黄・桂枝・生姜)、痛みやこわばりを取る生薬(芍薬・川芎)、調和・補助する生薬(甘草・大棗)、そして鼻症状に直接働きかける生薬(辛夷)の組み合わせにより、体全体のバランスを整えながら鼻の通りを良くする処方になっているのです。

葛根湯加川芎辛夷(2)にまつわる豆知識

処方の由来と歴史

葛根湯加川芎辛夷という処方名からも分かるように、「葛根湯に川芎と辛夷を加えた」漢方薬です。元になっている葛根湯は、中国の漢代に書かれた古典『傷寒論』に記載されている有名な処方で、日本でも漢方治療の基本中の基本として広く使われてきました。一方、葛根湯に川芎・辛夷を加える組み合わせ自体は『傷寒論』など古典には直接載っておらず、後世になってから鼻炎や副鼻腔炎に対応するため日本で処方構成されたと考えられます。江戸時代や明治以降の漢方医たちが、葛根湯の応用として生み出した加味方(かみほう)と言えるでしょう。現在ではツムラの番号で「2番」に割り当てられており、葛根湯(1)に次ぐ位置付けからもこの処方の重要性がうかがえます。

辛夷の名前と香り

配合生薬の一つである辛夷(しんい)はモクレン科の植物の花の蕾を乾燥させた生薬です。「辛夷」という字は「辛い木(辛=からい、夷=木)」という意味で、その名の通りピリッとした辛みと芳香があります。春先に咲くコブシやモクレンの蕾を用いるため、花のような爽やかな香りもわずかに感じられます。葛根湯加川芎辛夷(2)を煎じた際には、シナモン(桂枝)や生姜の香りに加えて、辛夷由来のほのかな花の香りが感じられることもあります。味はやや苦みと辛みがありますが、甘草と大棗の甘みも含まれるため比較的飲みやすい風味です(個人差はありますが、葛根湯ベースなので漢方の中では癖が少ない方でしょう)。

眠くならない鼻炎薬として

鼻水・鼻づまりの治療薬というと、西洋医学では抗ヒスタミン薬などが一般的ですが、これらは副作用で眠気を催すことが多いです。その点、葛根湯加川芎辛夷(2)は前述の通り眠くなる成分が含まれていません。通勤通学や仕事中でも支障なく使える鼻炎薬として、市販薬でも「眠くならない鼻炎カプセル」のように漢方処方を売りにした商品が発売されています。葛根湯加川芎辛夷はそうしたニーズにもマッチする漢方薬であり、特に日中の鼻づまりに困っている方には知っておいて損はない豆知識でしょう。

プチ活用法:入浴時のチェック

葛根湯加川芎辛夷(2)が合うかどうかを自分で見極める目安として、「お風呂で温まると鼻が通るか?」というポイントがあります。鼻づまりの方が入浴などで体を温めると一時的に鼻がスーッと通ることがありますが、葛根湯加川芎辛夷はまさにそうしたタイプの鼻づまりに効果的です。逆に、温まると余計に鼻が詰まる場合は熱がこもるタイプかもしれません。その場合は前述した辛夷清肺湯(104)など別の処方のほうが適している可能性があります。このように日常生活での体調変化をヒントに、自分に合った漢方を選ぶこともできます。

まとめ

葛根湯加川芎辛夷(2)は、風邪の初期からくる鼻づまりや副鼻腔炎などに力を発揮する漢方薬です。鼻水・鼻づまりの症状に対して、西洋薬とは異なるアプローチで根本から体質を整えつつ症状を和らげてくれます。ただし、漢方薬は一人ひとりの証(体質や症状のパターン)に合わせて選ぶことが大切です。
症状が長引く場合や体質に合っているか不安な場合は、医師や薬剤師、登録販売者に相談の上で適切に活用してください。漢方の力を上手に取り入れて、つらい鼻の症状の改善にお役立ていただければと思います。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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