葛根湯(ツムラ1番):カッコントウの効果、適応症

葛根湯(1)は、風邪のひき始めによく用いられる代表的な漢方薬です。肩こりや頭痛を伴う感冒(かぜ)の初期に効果を発揮し、昔から家庭でも親しまれてきました。本記事では葛根湯の効果・適応症から副作用、他の漢方薬との使い分け、含まれる生薬や豆知識まで解説します。

目次

葛根湯の効果・適応症

葛根湯(かっこんとう)は、風邪の初期症状に幅広く使われる漢方薬です。具体的には、発熱・寒気・頭痛・首や肩のこりなどの症状で、まだ汗が出ていない段階の風邪に適しています。比較的体力があり、がっしりとした体格の実証の方に向く処方です。葛根湯は身体を温めて発汗を促すことで熱を下げ、滞った血の巡りを改善して筋肉の緊張をほぐします。その結果、風邪の症状を和らげて早期回復を図ります。

葛根湯の適応症は風邪以外にも多岐にわたります。古くからの漢方の経験では、鼻かぜ(鼻炎を伴うかぜ)やインフルエンザの初期、さらに炎症性疾患の初期(例:結膜炎・中耳炎・扁桃炎など)の発熱時にも用いられてきました。また、発汗を促し筋肉の緊張を緩める作用から、肩こり筋肉痛にも応用されることがあります。さらには、蕁麻疹(じんましん)など皮膚科領域で、発疹が出始めの頃に葛根湯を使うケースもあります。これは葛根湯が体表の血行を改善し、炎症の広がりを抑える働きが期待できるためです。

よくある疾患への効果

風邪(感冒)のひき始めに葛根湯を服用すると、身体を温めて自然な発汗を促し、熱を発散させることで症状を和らげます。発病直後の段階で適切に使えば、風邪の悪化を防ぎ早めの回復が期待できます。

また、葛根湯は肩こりや筋肉痛に応用されることもあります。風邪の初期において肩こりや筋肉痛に葛根湯がよく効くことは有名ですが、実は風邪をひいていなくても肩こりや肩・首回りの筋肉の痛みには葛根湯が効力を発揮します。
肩こりから続発する頭痛は、肩こりに対して葛根湯を内服することで頭痛の発生を抑えることもできます。
首や肩周辺の悩みに対しては葛根湯!と覚えると分かりやすいかもしれません。

その他、軽度の気分障害や寒冷じんましんへの効果を期待して葛根湯が用いられることもあります。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

風邪の初期症状には葛根湯以外にも複数の漢方薬が用いられます。症状の強さや患者さんの体質(証)によって、葛根湯ではなく他の処方が適切な場合があります。ここでは、葛根湯と同様の症状に使われる代表的な漢方薬を3種類取り上げ、それぞれの特徴や使い分けのポイントを比較します。

麻黄湯(27) – 強い寒気や高熱に

麻黄湯(27)は葛根湯よりも発汗を促す力が強い処方です。汗が出ていない状態で悪寒が強く高熱がある実証の風邪に適します。ただし体力のない方には用いません。

桂枝湯(45) – 汗をかいている風邪に

桂枝湯(45)は汗が出ている風邪に用いる処方で、麻黄を含まず穏やかに身体を温めます。虚弱な(虚証の)体質で微熱と汗がある風邪の初期に適し、汗が出ていない実証の風邪には葛根湯のほうが適しています。

小青竜湯(19) – 水っぽい鼻水や咳に

小青竜湯(19)は、水のような鼻水や湿った咳が出る風邪に使われます。麻黄を含み体を温めつつ、余分な水分をさばく作用が強いため、鼻炎を伴う風邪にも用いられます。鼻水・痰が多い場合は葛根湯よりも小青竜湯が選択されます。

以上のように、同じ「風邪のひき始め」でも症状の出方や体質によって最適な漢方薬は異なります。自己判断で市販薬を選ぶ際も、これらの違いを踏まえて検討すると良いでしょう。

副作用や証が合わない場合の症状

葛根湯は比較的安全な漢方薬ですが、長期大量使用や体質によっては副作用が現れることがあります。最も注意すべき副作用は甘草による偽アルドステロン症で、血圧上昇、むくみ、手足のしびれ・力が入らないなどの症状が起こります。これは長期服用や甘草を含む薬との併用で起きやすいため注意が必要です。
そのほか、発疹・かゆみなどの皮膚症状や、胃の不快感・食欲不振・吐き気など消化器の副作用が見られる場合もあります。また、証に合わない人が服用すると、汗をかきすぎて脱水気味になったり、のぼせ・不眠・動悸などの過剰な反応が出ることがあります。これらの症状が現れた場合は服用を中止し、医師に相談してください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

  • 麻黄を含む薬: 麻黄湯(27)や小青竜湯(19)など他の麻黄含有漢方薬と併用すると作用が強まり、不眠や動悸など交感神経刺激症状が出る恐れがあります。また、エフェドリン系成分を含む市販薬との併用も避けましょう。
  • 甘草を含む薬: 甘草を含む他の漢方薬を併用するとグリチルリチンの過剰摂取となり、低カリウム血症による脱力感やむくみなど偽アルドステロン症のリスクが高まります。
  • 解熱鎮痛剤: 葛根湯の発汗・解熱作用と、市販の風邪薬や解熱剤の作用が相反するため、同時併用は避けた方が良いでしょう。葛根湯服用中はなるべく併用を避け、必要時は服用時間をずらしましょう。

含まれている生薬とその役割

葛根湯は7種類の生薬から成ります。それぞれの生薬の役割は以下の通りです。

  • 葛根(かっこん): 首や肩の筋肉のこわばりをほぐし、発汗を促して熱を発散させます。
  • 麻黄(まおう): 強い発汗・解熱作用で寒気や痛みを和らげます。
  • 桂枝(けいし): 体を温めて発汗を助け、血行を促進します。
  • 芍薬(しゃくやく): 筋肉のけいれんや痛みを鎮め、炎症を和らげます。
  • 甘草(かんぞう): 生薬同士の調和役で、芍薬と共に筋肉痛やこわばりを緩和します。
  • 生姜(しょうきょう): 体を温めて胃腸の働きを整え、発汗作用を補助します。
  • 大棗(たいそう): 胃腸を補い、体力の消耗を防ぎつつ生薬間の調和を図ります。

葛根湯にまつわる豆知識

歴史と名前: 葛根湯は中国の漢方古典『傷寒論』に収載された処方で、著者の張仲景が約1800年前にまとめた風邪の治療薬です。主薬の葛根(クズの根)から名付けられており、日本でも古くから葛根湯として親しまれてきました。

味の特徴: 葛根湯の顆粒は、最初にほんのり甘く、後から苦辛い風味が特徴です。風邪で寒気がする時に飲むと体がポカポカ温まるのを実感できます。

まとめ

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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