桂枝加芍薬大黄湯(ツムラ134番):ケイシカシャクヤクダイオウトウの効果、適応症

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桂枝加芍薬大黄湯(134)の効果・適応症

桂枝加芍薬大黄湯(134)は、比較的体力が低下した状態の患者さんに用いられる漢方薬です。腸の動きを整えつつ、腹痛や腹部の張り感(膨満感)を和らげる効果があります。特に便秘傾向のある方で、お腹が痛いのにスッキリ出ない(残便感やしぶり腹)といった症状に適しています。穏やかな下剤作用を持つ大黄を含むため、腸内に溜まったものを排出し、腹部の膨満や痛みを改善します。また芍薬や甘草の鎮痙作用により腸の痙攣(しぶり腹の原因となる腸の締めつけ)を抑えるため、腹痛を抑える効果も期待できます。

桂枝加芍薬大黄湯は、急性腸炎(いわゆる胃腸かぜ)や大腸炎などでお腹が痛く張っている場合や、日頃から便秘がちな方の腹痛を伴う便通異常に用いられます。急性腸炎から常習性便秘、しぶり腹に至るまで、腹部膨満感や腹痛を伴う便秘や下痢などの症状全般に幅広く対応できる処方です。

よくある疾患への効果

桂枝加芍薬大黄湯は消化管の症状を改善する漢方薬として、さまざまな疾患で利用されています。特によく知られているのは過敏性腸症候群(IBS)への効果です。IBSのうち便秘型混合型(下痢と便秘を繰り返すタイプ)では第一選択薬の一つとされ、腹痛・腹部不快感や残便感の軽減に有用です。実際に桂枝加芍薬大黄湯は便秘型IBS患者の腹痛や腹部膨満感を和らげ、排便を促すことで症状の改善が報告されています。

また、習慣性の便秘で市販の下剤では改善しない頑固な便秘や腹痛にも応用されます。原因を問わず、便秘を伴う腹部の張りや痛みに幅広く対応できる処方であり、術後や慢性腸炎などでも症状に応じて用いられるケースがあります。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

腹痛や便通異常に用いる漢方薬には複数の種類があり、症状や体質に応じて使い分けがなされます。桂枝加芍薬大黄湯と似た症状に使われる代表的な処方をいくつか挙げ、その特徴を比較してみましょう。

  • 桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう):桂枝加芍薬大黄湯から大黄を除いた処方で、下剤成分を含まないため下痢しやすい人にも使いやすい漢方です。腹痛や腹部膨満感があっても、しぶり腹や便秘の程度が強くない場合に用いられます。
  • 小建中湯(99)(しょうけんちゅうとう):桂枝加芍薬湯に膠飴(こうい)という水あめを加えた処方で、桂枝加芍薬大黄湯よりもさらに虚弱で冷えが強く腹痛が長引く場合に用いられます。大黄を含まない穏やかな処方で、甘味があり小児にも服用しやすい点も特徴です。
  • 大建中湯(100)(だいけんちゅうとう):体力がかなり低下し四肢が冷える人の冷えによる激しい腹痛や腹部膨満に適します。人参、乾姜、山椒などで腸を温めてガスの滞りを改善する処方です。大黄を含まないため直接の下剤効果はありませんが、腸の動きを高めて排便を促します。
  • 麻子仁丸(126)(ましにんがん):腸に潤いを与えて便を軟らかくする潤腸作用に優れた処方です。固くコロコロとした便秘に適し、大黄で腸を刺激しつつ麻子仁の油分で腸を潤します。腹痛の改善というより便秘そのものの解消を目的とし、痛みが強い場合は桂枝加芍薬大黄湯(134)の方が適しています。

副作用や証が合わない場合の症状

桂枝加芍薬大黄湯は比較的副作用の少ない処方ですが、甘草(カンゾウ)を含むため注意が必要です。甘草の大量・長期使用や併用により、まれに偽アルドステロン症(むくみ、血圧上昇、低カリウム血症による脱力など)を起こす恐れがあります。ただし適正な用量であれば頻度は高くありません。

また、患者さんの体質(証)によっては効果が十分に得られないばかりか、不調を招くこともあります。本来、便秘傾向の方向きの処方のため、もともと下痢がちの人や胃腸が極端に虚弱な人に用いると下痢や腹痛が悪化する可能性があります。

併用禁忌・併用注意の薬剤

桂枝加芍薬大黄湯を服用中は、他の薬剤との相互作用にも注意が必要です。特に甘草を含む薬(グリチルリチン酸製剤など)や、利尿薬ステロイド剤・ジギタリス製剤などは併用に注意しましょう。これらは低カリウム血症や高血圧などの副作用リスクを高める可能性があるため、併用する場合は必ず医師に相談してください。

含まれている生薬の組み合わせとその役割

桂枝加芍薬大黄湯は、以下の6種類の生薬から構成されています。それぞれの生薬が選ばれている理由は、症状を和らげ体調を整えるための役割分担にあります。

  • 桂枝(けいし):クスノキ科のシナモンの若枝で、体を温めて血行を促し、お腹の緊張を和らげます。
  • 芍薬(しゃくやく):ボタン科のシャクヤクの根。筋肉の痙攣を抑える鎮痙作用があり、差し込むような腹痛を和らげます。
  • 大黄(だいおう):タデ科のダイオウの根茎。腸を刺激して緩やかに動かす瀉下作用を持ち、滞った便を排出させ、腹痛や膨満感を改善します。
  • 甘草(かんぞう):マメ科のカンゾウの根および茎。甘味を持ち、他の生薬の調和薬として働きます。芍薬とともに筋肉の痙攣を和らげ、腹痛を緩和します。全体の調和剤として作用します。
  • 生姜(しょうきょう):ショウガ科のショウガの根茎。体を温めて胃腸の働きを助け、吐き気や胃の不快感を和らげます。
  • 大棗(たいそう):クロウメモドキ科のナツメの果実。滋養強壮作用があり、胃腸を守って消化機能を補います。甘味で飲みやすくし、虚弱な患者さんの体力を補う役割です。

これら6つの生薬の組み合わせにより、桂枝加芍薬大黄湯は「お腹を温めて緊張をほぐす」「痛みを止める」「腸の中の滞りを排出する」という作用をバランスよく発揮します。桂枝湯という古典的な処方をベースに、芍薬を増やして鎮痛効果を高め、大黄を加えて滞りを取るよう工夫された処方と言えるでしょう。

桂枝加芍薬大黄湯にまつわる豆知識

桂枝加芍薬大黄湯は、中国後漢時代(3世紀)の医師・張仲景が『傷寒論』に記した処方です。文字通り桂枝湯に芍薬を増量し大黄を加えたもので、古くから下痢と便秘を伴う腹痛(しぶり腹)の治療に用いられてきました。約1800年もの歴史を持つにもかかわらず、現代でも過敏性腸症候群などに頻用され、その有用性が見直されています。

桂枝加芍薬大黄湯の煎じ液(エキス剤)は淡い茶褐色で、シナモン(桂枝)や生姜のスパイシーな香りと甘草・大棗の甘い香りが感じられます。味はほのかな甘みの中に少し苦味や渋みがありますが、甘草と大棗のおかげで比較的飲みやすい風味です。

生薬名にも由来があります。例えば「大黄」は根茎の断面が黄色で大きいことから名付けられました。現在ではツムラ社のエキス製剤(番号134)として広く流通しており、医療現場でもよく使われています。

まとめ

桂枝加芍薬大黄湯(134)は、腹痛や腹部膨満感を伴う便通異常に効果を発揮する漢方薬で、IBSをはじめ様々な消化器症状の改善に用いられます。患者さん一人ひとりの(体質・症状の傾向)に合わせて処方されることで最大の効果を発揮します。適切に用いれば副作用も少なく、安全に症状の緩和が期待できます。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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