大承気湯(ツムラ133番):ダイジョウキトウの効果、適応症

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大承気湯(133)の効果・適応症

大承気湯(133)は古くから伝わる漢方の強力な瀉下剤(便通を促す薬)です。特にお腹が張って硬くなり、頑固な便秘があるような実証(体力充実)の状態に適しています。腹部が板のように硬く膨満感が強い慢性便秘急性便秘に効果を発揮します。また、便秘に伴う高血圧の随伴症状(のぼせ・頭痛)や食あたり(食べ過ぎ・消化不良)などに応用されることもあります。大承気湯は腸にこもった熱と滞りを下し、詰まったものを一掃することで症状を改善する漢方薬です。

よくある疾患への効果

大承気湯は、その強力な便通促進作用から、さまざまな疾患に伴う便秘で使用されます。習慣性の便秘や急性の便秘など、頑固な便秘全般に対して処方されます。また、急な便秘による腹痛や膨満があるときにも速効性を期待して用いられます。

さらに、術後の腸閉塞(イレウス)の予防や改善目的で使われるケースもあります。腹部手術の後、腸の動きが停滞してガスや便が出ないような場合に大承気湯を投与し、腸管内の溜まったものを排出させて腹痛を和らげる効果が期待されます。

便秘を解消することで関連症状も軽減します。頑固な便秘が改善すればお腹の張りや痛みが取れるのはもちろん、いきみの負担が減ることで頭痛や血圧上昇などが改善することもあります。ただし便秘の対症療法であり、根本の原因を治すわけではない点は留意しましょう。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

便秘や腹部膨満に用いる漢方薬は大承気湯以外にもいくつかあり、症状の特徴や体質(証)によって使い分けます。ここでは大承気湯と似た症状に用いられる処方を例示し、その特徴を説明します。

桃核承気湯(61)

桃核承気湯(61)は、大承気湯に桂枝(ケイヒ)と桃仁(トウニン)を加え、さらに甘草を配合した処方です。大黄・芒硝の瀉下作用に加え、桃仁で瘀血(血行不良)を散し、桂枝で気の巡りを整えて血行促進します。顔がほてりやすく、便秘と同時に月経不順や月経痛、肩こりなどを伴う場合に効果的です。特に月経前後のイライラや更年期のほてりがある女性の便秘にしばしば使われます。

麻子仁丸(126)

麻子仁丸(126)(ましにんがん)は、麻子仁(麻の種子)を主体とし、大黄や厚朴・枳実も含む処方です。特徴は腸を潤しつつ緩やかに排便を促すことで、固くコロコロの便秘に適します。高齢者や体力が落ちている人、産後など水分不足がちな人の便秘に向いており、作用が穏やかで腹痛や下痢を起こしにくい反面、即効性は大承気湯に劣るため緊急時の便秘解除には不向きです。

防風通聖散(62)

防風通聖散(62)(ぼうふうつうしょうさん)は、18種の生薬からなる複合処方で、肥満傾向の便秘によく用いられます。大黄・芒硝による瀉下作用のほか、麻黄や防風の発汗、石膏や黄芩の清熱、白朮や滑石の利尿など、多面的に体内の余分な熱・水分を排出する効果があります。皮下脂肪が多く、のぼせ・むくみ・ニキビを伴う便秘に用いられます。肥満症対策の漢方として知られていますが、便秘解消にも有効です。ただし体力のない人には刺激が強いため、使用は慎重に判断されます。

副作用や証が合わない場合の症状

大承気湯は効果が強い分、体質が合わない場合や体力のない人に使うと副作用が現れます。特に注意すべきは下痢や腹痛です。もともと下痢気味の方や胃腸虚弱の方に大承気湯を投与すると、下痢がさらに悪化したり腹痛・腹鳴を起こしたりする恐れがあります。

大承気湯自体に甘草は含まれないため偽アルドステロン症(低カリウムによるむくみ・高血圧)は通常起こりません。しかし、甘草を含む別の漢方薬を併用した場合や長期間大量に服用した場合には、そのリスクが生じます。手足の脱力感や異常なむくみが現れたら服用を中止し、医師に相談してください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

大承気湯を使う際には、他の薬との組み合わせにも注意が必要です。妊娠中は使用禁忌です(子宮収縮作用があるため危険です)。また、他の下剤や便秘薬との併用は厳禁です。センナやピコスルファートなどを使用中に大承気湯を重ねると、下痢が止まらなくなる恐れがあります。同様に、大黄を含む漢方処方(防風通聖散、桃核承気湯、大黄甘草湯など)を複数同時に用いることも避けてください。

利尿剤やステロイド剤を服用中の場合も注意が必要です。大承気湯による下痢で水分・電解質が失われ、利尿剤と相乗すると脱水や低カリウム状態が生じやすくなります。低カリウム血症は不整脈などを招く可能性があるため危険です。持病や常用薬がある方は、事前に必ず医師・薬剤師に相談した上で大承気湯を使用しましょう。

含まれている生薬とその理由

大承気湯は4つの生薬で構成され、それぞれが異なる角度から便秘解消に働きます。

  • ダイオウ(大黄) – 腸を直接刺激して排便を促す主薬。熱を冷まし炎症を抑える作用もあります。
  • コウボク(厚朴) – 腸内のガスや食物の滞りを散らし、お腹の張りを和らげる生薬。腸の蠕動を助けて大黄の作用をサポートします。
  • キジツ(枳実) – 腸の蠕動運動を高めて滞ったものを押し出す働き。厚朴とともに気の巡りを良くし、腹部膨満感を改善します。
  • ボウショウ(芒硝) – 硫酸ナトリウム。腸管内に水分を集めて硬い便を柔らかくする塩類下剤。大黄の瀉下効果を増強します。

これら4種により、腸の「硬さ」「膨満」「乾燥」といった便秘の要因全てに対処します。各生薬が協力し合うことで、大承気湯は頑固な便秘に総合的な効果を発揮します。

大承気湯にまつわる豆知識

歴史: 大承気湯は中国漢代の医書『傷寒論』に記載された処方で、高熱と便秘を伴う病に対し下す方剤として用いられました。日本でも江戸時代から使用され、さまざまな派生処方の原型ともなりました。

名前の意味: 「承気湯」は「降すべき気を受け止めて下げる湯」という意味で、滞った気を下方へ巡らせる作用を表しています。中でも「大」承気湯は最も強力な瀉下剤であることからその名がつきました。

まとめ

大承気湯(133)は便秘や腹部膨満に即効性が期待できる漢方薬です。ただし証に合う場合にのみ、短期間の使用に留めることが大切です。自己判断で長期連用せず、専門家の指導のもと服用しましょう。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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