桂枝茯苓丸加薏苡仁(ツムラ125番):ケイシブクリョウガンカヨクイニンの効果、適応症

目次

桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)の効果・適応症

桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は、漢方でいうところの「瘀血(おけつ)※血の滞り」を改善する代表的な処方です。比較的体力があり、ときに下腹部痛、肩こり、頭重、めまいがあり、顔はほてるのに足は冷えるような方によく用いられます。この薬は血行を促進し、滞った血を巡らせることで体の様々な不調を改善します。適応症として、月経不順や月経痛などの婦人科系トラブル、更年期ののぼせ・冷えを伴う不調、そして肌のニキビやシミ、手足の荒れ(湿疹・皮膚炎)などが挙げられます。また、古くから血の道症(月経、妊娠、出産、更年期などホルモン変化に伴う精神不安定や体調不良)にも用いられてきました。婦人科領域では子宮内膜症や子宮筋腫など、下腹部に塊があるようなケースで症状緩和に使われることもあります。全身の血の巡りを良くしつつ余分な水分や熱を取り除くことで、これらの症状を和らげる効果が期待できる漢方薬です。

よくある疾患への効果

桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は、その血行促進作用から多岐にわたる症状に効果を発揮します。たとえば生理痛や月経不順では、骨盤内の血流を改善し子宮の状態を整えることで、痛みや不調を軽減します。更年期障害によるほてり(のぼせ)や冷え症では、上半身の余分な熱を下げつつ下半身の血行を良くして冷えを和らげるため、ホットフラッシュや手足の冷えの改善に役立ちます。

皮膚科領域でも使われ、ニキビ(とくに月経前に悪化するようなタイプ)やシミに用いることで、肌に栄養と潤いを巡らせ新陳代謝を促します。血行が良くなると肌細胞への栄養供給が改善し、ターンオーバーを正常化するため、色素沈着の薄まりやニキビの治りを助けると考えられています。また手足の荒れ(湿疹・乾燥肌)にも、血行不良や水分代謝の滞りが関与する場合は効果的です。さらに、肩こりや頭痛、めまいといった症状が血行不良に伴っている場合にも症状緩和が期待できます。このように、桂枝茯苓丸加薏苡仁は婦人科から皮膚科まで幅広く応用され、体質的に血の巡りが悪いことで起こる様々な不調を改善する頼もしい漢方薬です。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

血行不良や婦人科系の不調に使われる漢方薬は他にも複数あり、患者様の証(体質・症状の傾向)によって使い分けます。桂枝茯苓丸加薏苡仁と類似の処方をいくつか比較してみましょう。

  • 桂枝茯苓丸(25):桂枝茯苓丸加薏苡仁の元となる処方で、こちらには薏苡仁(ヨクイニン)が含まれません。基本的な作用は同じく瘀血をとり血流を改善することです。皮膚症状(ニキビ・シミ)を特に改善したい場合は薏苡仁を加えた125番を選ぶことが多いですが、肌トラブルが主訴でない場合は通常の桂枝茯苓丸(25)でも十分効果を発揮します。
  • 当帰芍薬散(23):同じ婦人科三大処方の一つですが、こちらは体力虚弱で冷えや貧血が強いタイプに使われます。むくみやすく肌は青白いような人の月経不順や不妊症、更年期の不調によく用いられ、血を補いつつ水分代謝を良くする処方です。桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)が比較的体力のある人向けなのに対し、当帰芍薬散(23)は華奢で血が不足しがちな人向けと覚えるとよいでしょう。
  • 加味逍遙散(24):こちらも婦人科系の代表処方で、ストレスやイライラの目立つ更年期障害や月経不順に使われます。ホルモンバランスの乱れによる情緒不安定やのぼせに加え、肩こりや頭痛などを訴える中程度の体力の女性に適します。桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)と比べると、加味逍遙散(24)は気の巡りを良くして精神面を安定させる作用が強く、血の滞りというよりストレス・自律神経症状が主体の場合に選ばれます。ただし加味逍遙散には甘草(カンゾウ)が含まれる点も異なります(後述)。
  • 温経湯(106):手足の冷えが強く皮膚が乾燥しがちな人の月経不順や月経痛、不妊症に用いる処方です。桂枝茯苓丸加薏苡仁よりも虚弱で冷えが顕著なタイプ向きで、体を温めつつ血の巡りを良くし、ホルモンバランスを整える働きがあります。冷え性で唇や爪の色が悪いような方には温経湯(106)が第一選択となる場合があります。
  • 桃核承気湯(61):桂枝茯苓丸と同様に瘀血を除く処方ですが、体力があり便秘傾向でイライラしやすい人に向きます。月経痛や月経不順に加え、便秘や高血圧に伴う頭痛・めまいなどもある場合に検討されます。桃核承気湯(61)は下剤成分も含むため、便秘がちな血行不良タイプに適していますが、体力のない人には刺激が強すぎることがあります。

このように、似た症状でも患者様の体質によって選ぶ漢方薬は変わります。桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は比較的体力があり、瘀血とともに肌トラブルも抱える方にマッチする処方といえるでしょう。一方で虚弱な方、ストレス主因の方、極端な冷え性の方、便秘が強い方などでは上記のような他の処方を選ぶことで、より効果的に症状を改善できます。

副作用や証が合わない場合の症状

漢方薬も体質に合わなかったり長期連用したりすると、副作用が現れることがあります。桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は比較的副作用の少ない処方ですが、まれに胃腸の不調(食欲不振、胃の不快感、下痢など)やアレルギー症状(発疹、かゆみ、発赤)が起こることがあります。服用後にいつもと違う体調不良を感じた場合は、すぐに担当医に相談してください。

この処方には甘草(カンゾウ)が含まれていないため、甘草の長期過剰摂取で起こる偽アルドステロン症(低カリウム血症・血圧上昇やむくみなど)は通常心配ありません。ただし、他に甘草含有の漢方薬やグリチルリチン製剤を併用している場合は、総量として甘草過剰とならないよう注意が必要です。ごくまれに肝機能障害や黄疸など重篤な副作用報告が漢方全般ではありますが、頻度は極めて低く心配しすぎる必要はありません。

証(適応体質)が合わない場合、薬効が十分発揮されないだけでなく、体調を崩すことがあります。たとえば体力が無く血虚(貧血傾向)で冷えが極端に強い方が桂枝茯苓丸加薏苡仁を服用すると、刺激が強すぎて疲労感や食欲低下を招いたり、逆に冷えを悪化させることがあります。また瘀血のない人に使えば本来不要な「血行促進」によって出血傾向を高めてしまう恐れもあります。漢方薬はその人の証に合ってこそ真価を発揮し、副作用も出にくいため、専門家の指導のもと自分の体質に合ったものを選ぶことが大切です。

併用禁忌・併用注意な薬剤

桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は単独で服用する分には安全性の高い漢方ですが、他の医薬品と併用する際にはいくつか注意が必要です。まず、妊娠中の服用は基本的に禁忌とされています。構成生薬の桃仁や牡丹皮には活血作用(血行促進・抗凝固作用)があり、妊娠中に服用すると流産を誘発する可能性があるためです。妊活中や妊娠の可能性がある方は必ず事前に医師に相談してください。

また、西洋薬では抗凝固薬(ワルファリンなど)や抗血小板薬を服用中の方は注意が必要です。桂枝茯苓丸加薏苡仁が血の巡りを良くする作用は、場合によってはこれら血液をサラサラにする薬の効果を増強させ、出血しやすくなる可能性があります。併用自体は禁止ではありませんが、定期的に血液検査を受けるなど経過観察が推奨されます。

さらに、利尿剤や他の漢方利水剤との併用では、薏苡仁の利水作用が相乗して脱水気味になることが考えられますので、水分補給に留意する必要があります。前述のとおり甘草を含む薬との併用は偽アルドステロン症に注意です(本処方自体には甘草は入っていませんが、複数の漢方を組み合わせる際には総含有量に配慮)。このように、他のお薬との組み合わせによっては思わぬ作用の変化がありますので、現在服用中の薬がある場合は医師・薬剤師に相談の上、安全に漢方を利用しましょう。

含まれている生薬の組み合わせと選定理由

桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)には6つの生薬が含まれており、それぞれが協調して瘀血を改善し体調を整えます。生薬の構成と役割を見てみましょう。

  • 桂枝(ケイヒ):シナモンの枝の部分で、身体を温めて血行を促進する作用があります。末梢の血流を改善し冷えを改善するほか、発汗作用によって余分な水分をさばく働きも持ちます。桂枝が入ることで冷えによる血行不良を温めて散らし、他の生薬の働きを全身に巡らせます。
  • 茯苓(ブクリョウ):マツの根に寄生するキノコ由来の生薬で、利水作用(体の水はけを良くする)と健脾作用(胃腸を元気にする)があります。体内の余分な水分を排泄してむくみを取ることで、瘀血の原因となる「水滞」を改善します。また心身を安定させる効果もあり、不安やめまいの緩和に寄与します。
  • 牡丹皮(ボタンピ):ボタンの根皮で、血を冷ましつつ巡らせる作用(清熱活血)があります。炎症やほてりを鎮めながら、滞った血を動かすため、熱を帯びた瘀血に効果的です。桂枝の温める力と牡丹皮の冷ます力が組み合わさることで、体を温めすぎず適度に血流を改善できるバランスになっています。
  • 桃仁(トウニン):モモの種(仁)の中身で、強力な活血作用を持ち血の塊を散らす生薬です。駆瘀血剤の要ともいえる存在で、月経痛の原因となる瘀血塊や、肌の炎症性色素沈着の元にもアプローチします。また種子由来の油分で腸を潤すので便通を整える効果もあり、瘀血の改善とともに老廃物の排出を促します。
  • 芍薬(シャクヤク):シャクヤクの根で、緩和作用(筋肉のこわばりをほぐす)と補血作用があります。痛みをやわらげ、こわばった下腹部を柔らかくする効果から鎮痛薬的な役割を果たします。また肝の機能を助け自律神経を調整する働きも期待でき、月経に伴う情緒不安定の緩和にも有用です。桂枝茯苓丸のような駆瘀血剤に芍薬を配することで、血を動かしつつ痛みを抑え、女性の体を労る処方構成になっています。
  • 薏苡仁(ヨクイニン):ハトムギの種子で、追加配合されている生薬です。利水作用と排膿作用があり、皮膚の炎症やイボ・肌荒れに古来より使われてきました。水分代謝を高めることで湿熱(体内の余分な水と熱)が原因のニキビ・肌荒れを改善します。またヨクイニンは肌の生まれ変わり(ターンオーバー)を促進し、美肌効果が期待できることから、漢方では皮膚トラブルの妙薬として知られています。桂枝茯苓丸に薏苡仁を加えることで、婦人科症状の改善に加えて肌を綺麗にする効果が高められているのです。

これら6つの生薬の組み合わせにより、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は「血」「水」「熱」のバランスを整えて症状を改善します。温める生薬と冷ます生薬、血を動かす生薬と痛みを鎮める生薬、水を巡らせる生薬と肌を治す生薬がバランス良く含まれており、それぞれが不足や過剰を補い合うように設計されています。まさに漢方の知恵が詰まった処方だと言えるでしょう。

桂枝茯苓丸加薏苡仁にまつわる豆知識

歴史的背景: 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は中国の古典医学書『金匱要略(きんきようりゃく)』に出典があり、3世紀頃に名医・張仲景によって記載された処方です。本来は桂枝茯苓丸のみで使われ、婦人の「癥瘕(しこり)」を治す薬として誕生しました。日本では江戸時代から明治にかけて広く用いられ、現代でも婦人科三大漢方薬の一つに数えられています(他の二つは当帰芍薬散と加味逍遙散)。薏苡仁を加えた桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は、古方に後世の知見を取り入れて肌トラブル改善効果を強化した処方であり、日本の臨床現場で生まれた応用処方です。

名前の由来: 「桂枝茯苓丸」の名は構成生薬のうち桂枝と茯苓の名を取って付けられています(丸は本来、蜜などで練って丸薬にする調剤形態を指します)。そこに「薏苡仁」が加わった本処方は、文字通り薏苡仁がプラスされた桂枝茯苓丸という意味です。各漢字の読みが長いため、医療現場では「ケイシブクリョウガンカヨクイニン」と一気に読まれたり、「125番」と番号で呼ばれることもあります。

生薬の豆知識: 構成生薬にも興味深い話があります。たとえば桂枝(桂皮)は香辛料のシナモンそのもので、少量だと甘く感じますが大量だと渋みを感じると言われます。桂枝茯苓丸加薏苡仁には適量のシナモンが含まれているため、ほのかにシナモンの香りがするのが特徴です。煎じ薬にするとまるでシナモンキャンディーのような香りが漂い、漢方特有の苦味の中に微かな甘みを感じられるでしょう。また薏苡仁(ヨクイニン)は日本ではハトムギ茶として親しまれており、昔から肌を潤す民間飲料として飲まれてきました。漢方薬に配合される生薬の多くは、身近な植物由来である点も面白いところです。

味の特徴: 桂枝茯苓丸加薏苡仁はエキス顆粒や錠剤で処方されることが多いですが、その味を表現するとやや苦味のある中にほんのりとした甘みと香ばしさがあります。桂枝や桃仁由来の香りが感じられ、決して飲みにくい味ではありません(個人差はありますが、「思ったよりシナモン風味で飲みやすい」という声もあります)。漢方が初めての方でも比較的抵抗なく服用できるでしょう。

現代研究と応用: 現代の研究では、桂枝茯苓丸系列の処方が血行障害の改善だけでなく抗炎症作用やホルモン調節作用を持つことが示唆されています。例えば、子宮筋腫や子宮内膜症の患者に対し症状軽減や腫瘍縮小への一定の効果が報告されたり、ニキビの炎症を抑える作用が研究されています。ただし効果の現れ方は個人差が大きく、西洋医学の治療を置き換えるものではありません。あくまで補完代替医療として、患者様一人ひとりの症状に合わせ使われている点を押さえておきましょう。

まとめ

桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)は、血の滞りを改善しながら余分な水分や熱を取り除くことで、女性の月経トラブルから皮膚の悩みまで幅広く対応できる漢方処方です。適切なの患者様に用いれば、高い満足度が得られるでしょう。副作用は少ないものの、体質に合った漢方を選ぶことが重要です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

  • URLをコピーしました!
目次