川芎茶調散(ツムラ124番):センキュウチャチョウサンの効果、適応症

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川芎茶調散(124)の効果・適応症

川芎茶調散(124)(せんきゅうちゃちょうさん)は、主に頭痛の改善を目的とした漢方薬です。特にかぜの初期に起こる頭痛に効果があることで知られており、寒気や発熱を伴うような場面で用いられます。また、女性の月経にともなう頭痛など、いわゆる血の道症(ちのみちしょう)(女性ホルモンの変動に伴って現れる心身の不調)にも古くから処方されてきました。
比較的体力の有無に関わらず幅広い方に使われる処方で、急に発症した頭痛や繰り返す慢性的な頭痛の両方で応用されます。川芎茶調散(124)を服用すると、体表から邪気(風邪=ふうじゃ)を発散させて痛みを和らげ、滞った血液の巡りを良くすることで頭痛を鎮める効果が期待できます。

よくある疾患への効果

川芎茶調散(124)が現代臨床で用いられる代表的な疾患や症状には、次のようなものがあります。

  • 片頭痛(偏頭痛):とくに冷えや気圧変化で誘発される頭痛、月経前後に起こりやすい頭痛に対して用いられます。血行を促進し痛みを抑える作用で、発作時の痛みを和らげます。
  • かぜによる頭痛:風邪のひき始めに頭がズキズキ痛むような時に効果的です。発汗を促し、寒気を追い払いながら頭痛を改善します。インフルエンザなど高熱時の頭痛にも症状緩和目的で使われることがあります。
  • 副鼻腔炎・鼻づまりに伴う頭痛:蓄膿症や慢性鼻炎で鼻づまりが強いときの頭重感・頭痛に用いることがあります。川芎茶調散には鼻の通りを良くする生薬(白芷や薄荷など)が含まれており、鼻詰まりによる頭痛を軽減する一助となります。
  • 月経関連の頭痛(PMSや更年期の頭痛):月経前後や更年期にホルモンバランスが変化することで起こる頭痛にも適しています。イライラを鎮める生薬(香附子や薄荷)の作用で気分を落ち着かせ、女性特有のホルモン変動による頭痛を和らげます。
  • 緊張型頭痛・ストレス性の頭痛:肩こりやストレスで頭痛が生じている場合にも、川芎茶調散が奏効することがあります。香りのある生薬が筋肉のこわばりや精神的緊張を緩和し、頭痛に働きかけます。

これら以外にも、「頭が重い」「めまいを伴う頭痛」などの症状で体質に合えば用いられることがあります。ただし症状や体質によって適切な処方は異なるため、自己判断での服用は避けましょう。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

頭痛に用いる漢方薬は川芎茶調散(124)以外にも複数あり、症状の特徴や体質に応じて使い分けられます。よく使われる処方との違いを比較してみましょう。

  • 葛根湯(1):首や肩のこわばりを伴うかぜの初期の頭痛には葛根湯が有名です。発熱や悪寒が強い場合、葛根湯(1)は筋肉の緊張をほぐし発汗させて改善を図ります。川芎茶調散(124)は葛根湯ほど筋肉痛やこわばりに焦点は当てていませんが、鼻づまりや頭そのものの痛みにより適しており、寒気だけでなく頭痛が主症状の風邪で選択されます。
  • 呉茱萸湯(31):手足の冷えが強く、吐き気を伴うような片頭痛に用いられる処方です。体を内側から温めることで頭痛を抑えるのが特徴で、虚弱体質の人の激しい頭痛(とくに吐くほどの偏頭痛)に適します。これに対し川芎茶調散(124)は外側から風邪を散らしつつ痛みを取る処方で、吐き気よりも悪寒や鼻症状を伴う頭痛に向いています。
  • 五苓散(17):体内の水分バランスの乱れによる頭痛に用いる処方です。二日酔いむくみ、めまいを伴う頭痛、あるいは暑気あたりで水分代謝が悪い場合の頭痛に適しています。五苓散(17)は利尿作用で余分な水分を排出し頭痛を改善します。一方、川芎茶調散(124)は水分代謝よりも風邪(ふうじゃ)や血行不良の改善に重きを置いており、のどの渇きや尿量減少といった症状がない頭痛はこちらを用いることが多いです。
  • 釣藤散(47):中高年の慢性頭痛や高血圧に伴う頭痛によく使われる処方です。釣藤散(47)には血圧を安定させる生薬(釣藤鈎や石膏など※川芎茶調散には含まれません)が含まれ、慢性的な頭痛(ズキズキと脈打つような頭痛)を鎮めます。川芎茶調散(124)は比較的若年者や女性の一過性の頭痛に用いられることが多く、血圧が高めで慢性的な頭痛には釣藤散を優先するなど、患者様の状態で使い分けます。
  • 加味逍遙散(24):女性のPMSや更年期障害によく使われる処方で、イライラやのぼせ、不安感など精神神経症状の改善に適しています。加味逍遙散(24)も頭痛持ちの女性に使われることがありますが、主な目的は精神的不調やのぼせの緩和です。川芎茶調散(124)は同じ女性の不調でも頭痛そのものを直接和らげる目的が強く、ホルモン変動による頭痛が主体の場合はこちらが選択されます。逆に頭痛だけでなく強い不安感や抑うつ傾向を伴う場合には加味逍遙散の方が適することがあります。

このように、頭痛という症状ひとつとっても原因や体質によって処方選択は異なります。必要に応じて医師がそれぞれの漢方薬の特徴を踏まえて使い分けています。

副作用や証が合わない場合の症状

漢方薬も薬ですので、体質や用い方によっては副作用が現れることがあります。川芎茶調散(124)で注意すべき副作用としては、含まれる甘草(かんぞう)による偽アルドステロン症が挙げられます。甘草に含まれるグリチルリチンという成分を長期間大量に摂取すると、体内の電解質バランスが崩れてむくみ、血圧上昇、低カリウム血症などを引き起こすことがあります。こうした症状は長期服用や他の甘草含有薬との併用でまれに起こるもので、適正な用量で短期間使う範囲では通常心配ありませんが、むくみや筋力低下、血圧上昇がみられた場合は服用を中止し医師に相談してください。

そのほか、川芎茶調散(124)が証(しょう)(体質・症状のパターン)に合わない場合、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することもあります。例えば体の熱感が強い人(頭痛の原因がのぼせや高血圧による場合)には、この処方では逆に頭痛が悪化したり顔のほてりが強まる可能性があります。また、体の乾燥傾向が強い人では、生薬の発散作用によって喉の渇きや肌のかゆみが増すことがあります。ごくまれに発疹や胃の不快感などの副反応が出ることも報告されています。いずれにせよ、「自分には合わないかも?」と感じたら服用を中止し、医療機関に相談してください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

川芎茶調散(124)をほかの薬と一緒に服用する際にはいくつか注意が必要です。特に甘草を含む他の漢方薬との併用は慎重に行う必要があります。複数の甘草含有製剤を併用するとグリチルリチン酸の総量が増え、前述の偽アルドステロン症リスクが高まるためです。市販の漢方薬や滋養強壮剤にも甘草が含まれることがあるので注意しましょう。

また、西洋薬では利尿剤(尿を出す薬)やステロイド剤を服用中の方は、川芎茶調散と併用すると電解質異常や血圧上昇を招きやすくなります。例えば高血圧や心不全で処方される利尿薬、喘息やリウマチで使われるステロイド薬はカリウムを低下させる作用があり、甘草の作用と重複すると低カリウム血症を起こしやすくなります。重症の場合、不整脈の原因にもなりかねません。心臓の薬(ジギタリス製剤など)を内服中の場合も、カリウム低下による副作用に一層注意が必要です。

このほか、明確な併用禁忌はありませんが、血圧降下剤を服用中の方は川芎茶調散(124)により血圧が上がる方向に働く可能性があるため経過に注意します。ワルファリンなど血液をサラサラにする薬との併用では、生薬の作用で効果が変動する可能性があるため定期的な検査が望まれます。いずれの場合も、処方医には現在服用中の薬をすべて伝え、自己判断で勝手に他の薬と併用しないようにしましょう。

含まれている生薬の組み合わせと選ばれている理由

川芎茶調散(124)は9種類の生薬から構成されています。頭痛を改善するため、痛みの原因を取り除く生薬痛み自体を鎮める生薬とがバランス良く組み合わされています。それぞれの生薬がどのような役割で処方に配合されているのかを見てみましょう。

  • 川芎(せんきゅう):セリ科の植物・川芎の根茎。処方名にもなっている主薬で、血行を良くし痛みを止める作用があります。頭部の血の巡りを改善し、頭痛そのものを鎮める要となる生薬です。
  • 香附子(こうぶし):カヤツリグサ科の植物・ハマスゲの根茎。気の巡りを整え、精神的な緊張を和らげる作用があります。とくに女性のホルモンバランス不調に伴う情緒不安定やイライラを鎮め、頭痛の一因であるストレスを緩和します。
  • 羌活(きょうかつ):セリ科の植物・羌活の根。身体を温めて風邪(ふうじゃ)を追い払い、痛みを取る作用があります。特に後頭部から首筋にかけての痛みに効果的で、寒さで悪化する頭痛を和らげます。
  • 荊芥(けいがい):シソ科の植物・ケイガイの花穂。発汗を促して熱や炎症を発散させ、痛みを軽減します。風邪の初期に生じる頭痛やのどの痛み、鼻炎による炎症を鎮める働きが期待できます。
  • 薄荷(はっか):シソ科の植物・ハッカの葉。メントールを含み、清涼作用で熱を冷まし、気分を落ち着かせる効果があります。頭をスーッとさせて痛みを和らげるほか、ストレス緩和によって緊張を解きほぐし、頭痛に伴う不快感を減らします。
  • 白芷(びゃくし):セリ科の植物・ヨロイグサの根。血行を促進し、痛みを止める作用があります。特に副鼻腔を含む顔面の循環を良くし、鼻づまりを改善することで、額や頬のあたりの頭痛を軽減します。蓄膿症による慢性頭痛にも配合される生薬です。
  • 防風(ぼうふう):セリ科の植物・ボウフウの根。風(ふう)を防ぐという名前の通り、外からの風邪を追い払って体表の炎症や痛みを抑える作用があります。頭痛だけでなく、皮膚のかゆみや湿疹を鎮める働きも持ち、荊芥とともに風邪の初期症状を改善します。
  • 甘草(かんぞう):マメ科の植物・カンゾウの根。全体の調和作用を持つ生薬で、他の生薬の働きを緩やかにまとめる役割があります。炎症や痛みを緩和し、胃腸の粘膜を保護する作用もあるため、刺激の強い生薬が含まれる処方でも副作用を和らげてくれます。
  • 茶葉(ちゃよう):ツバキ科の植物・チャノキの葉。いわゆる緑茶です。清熱作用(熱を冷ます)や利尿作用を持ち、頭痛や眼の痛みを和らげる効果があります。含有するカフェインによる覚醒作用で頭をスッキリさせ、鎮痛効果を高める助けとなります。お茶に含まれるポリフェノールには抗炎症作用もあり、頭痛の原因となる炎症を抑える働きも期待できます。

以上のように、川芎茶調散では複数の生薬がお互いの効果を補い合い、頭痛に総合的にアプローチします。体を温め発散させる生薬と、血行を促し痛みを止める生薬、さらに清涼・調和する生薬がバランス良く組み合わさることで、急性の頭痛から女性の慢性的な頭痛まで幅広く対応できる処方になっているのです。

川芎茶調散にまつわる豆知識

最後に、川芎茶調散(124)の歴史や特徴に関する豆知識をご紹介します。

  • 由来と歴史:川芎茶調散は中国の宋代に編纂された『和剤局方(わざいきょくほう)』という処方集に記載された処方です。約900年前から頭痛の治療薬として使用されてきた伝統ある漢方薬で、当時から「頭痛には川芎茶調散」と言われるほどよく用いられました。日本にも伝わり、江戸時代には女性の「血の道症」の頭痛薬として広く知られていたようです。
  • 名前の意味:処方名の「川芎茶調散」は、「川芎(センキュウ)の散剤を茶で調服する」という意味があります。「茶調」とはお茶で服用することを指しており、当時この薬を温かいお茶に溶かして飲んでいたことに由来します。現代のエキス製剤では最初から茶葉が配合されていますが、名前に“茶”が入っているのはそうした歴史的背景があるからです。
  • 味や香り:川芎茶調散は、ハッカや茶葉が含まれるためほんのりとミントの香りが感じられるのが特徴です。口に含むとやや苦味がありますが、甘草由来のほのかな甘みもあり、漢方薬の中では比較的飲みやすい風味といえます。生薬の香りが強いので好き嫌いは分かれるかもしれませんが、鼻づまりの時などにはスーッとする香りが心地よく感じられるでしょう。
  • 女性との関わり:古くから川芎(センキュウ)は「女性のための生薬」として重宝されてきました。血行を良くし、月経不順や産後の回復を助けることから、出産後の肥立ちが悪い女性に川芎を含む処方が与えられた記録もあります。川芎茶調散も、月経前後の頭痛や産後の体調不良時の頭痛に用いられるなど、女性の頼れる頭痛薬として歴史的に位置付けられてきた経緯があります。
  • その他のエピソード:川芎茶調散は頭痛薬として有名な一方、中国では鼻炎の治療にも応用されることがあります。実際に処方中の白芷や防風は鼻閉解消に有効な生薬であり、「鼻詰まりと頭痛を同時に治す処方」として評価されています。また、「頭痛薬=解熱鎮痛剤」しかない時代に比べ、現代では川芎茶調散のような漢方が慢性的な頭痛の体質改善に役立つケースも増えており、東洋医学的アプローチが見直されています。

まとめ

川芎茶調散(124)は、風邪の頭痛から女性ホルモン絡みの頭痛まで幅広く使える伝統的な漢方薬です。速効性のある頭痛薬とは作用メカニズムが異なり、体質から整えることで根本的な改善を目指す処方と言えます。ただし、症状や体質に合致した場合にこそ効果を発揮するため、専門家の判断のもとで適切に用いることが大切です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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