三黄瀉心湯(ツムラ113番):サンオウシャシントウの効果、適応症

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三黄瀉心湯の効果・適応症

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)は、「黄」の字がつく3つの生薬からなる漢方薬で、体内の過剰な熱を鎮め、心身の高ぶりを抑える効果があります。比較的体力があり、のぼせ気味で顔面紅潮しやすく、イライラや不安感が強く、さらに便秘傾向がある方の体質()に適合します。主な適応症として、高血圧に伴うのぼせ・耳鳴り・不眠・不安などの症状、さらに鼻血などの出血、頑固な便秘、女性の更年期障害や血の道症(けつのみちしょう)などが挙げられます。これらはいずれも身体に“余分な熱”がこもりやすい方に生じる症状であり、三黄瀉心湯はその熱を冷まし炎症や充血を和らげることで効果を発揮します。

よくある疾患への効果

三黄瀉心湯が効果を発揮しやすい代表的なケースとして、次のような疾患・症状があります。

  • 高血圧の随伴症状:血圧が高めで、顔がほてったり赤ら顔になりやすく、頭痛や頭重感、不眠、不安感を伴う場合に用いられます。血圧そのものを直接下げる薬ではありませんが、のぼせやイライラを鎮めることで睡眠の質が向上したり、結果的に血圧の安定にもつながることがあります。
  • 更年期障害(ホットフラッシュ):更年期の女性で、急に顔が熱くなるホットフラッシュや発汗、不安感・動悸などが強く、かつ便秘がちな場合に適しています。三黄瀉心湯は体の余分な熱を冷まし、自律神経の乱れによるほてりや精神不安を和らげます。
  • 鼻出血や痔出血:のぼせによる鼻血が出やすい方や、痔による鮮紅色の出血がある便秘の方にも使われます。体内の“熱”と血行不良が原因で粘膜が脆くなって出血するケースでは、炎症を鎮めて血流を改善することで、出血しにくい状態に整えます。
  • 慢性便秘:普段から便秘がちでイライラしやすい場合にも用いられます。強い瀉下作用によって滞った熱を排出することで、気持ちの高ぶりも次第に鎮まっていきます。

以上のように、三黄瀉心湯は主に実証(体力が充実し熱がこもるタイプ)の方の、高ぶった症状を鎮める目的で幅広く応用されています。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

三黄瀉心湯と同じような「のぼせ・紅潮・便秘」などの症状に用いられる漢方薬はいくつかあり、患者様の微妙な症状や体質の違いによって使い分けます。ここでは代表的な処方を3~5種類挙げ、その違いを解説します。

  • 黄連解毒湯(15):黄連解毒湯(おうれんげどくとう)は、黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4つの生薬からなる処方です。三黄瀉心湯と同様に強い熱症状(顔面紅潮、のぼせ、不眠など)を冷ます作用がありますが、便秘のない場合によく用いられます。
  • 桃核承気湯(61):桃核承気湯(とうかくじょうきとう)は、桃仁・桂皮・大黄・芒硝・甘草で構成され、主に下腹部の瘀血(血行不良)を改善する駆瘀血剤です。体力中等度以上でのぼせと便秘があり、月経不順や月経痛、産後の精神不安など婦人科系の症状を伴う場合に使われます。のぼせやイライラを伴う点は三黄瀉心湯と似ていますが、桃核承気湯はとくに月経に関連する症状や下半身の充血に対応した処方です。
  • 防風通聖散(62):防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)は18種類もの生薬を含む大型の処方で、「肥満症」にも用いられる漢方薬です。お腹に脂肪が多く、皮下脂肪による熱や滞りで顔がのぼせたり高血圧傾向がある方に適します。防風通聖散は利尿作用や発汗を促す生薬(防風や麻黄など)も含むため、むくみや皮膚の吹き出物(にきび等)を伴う場合にも効果的です。

副作用や証が合わない場合の症状

三黄瀉心湯は体質に合わない場合に注意が必要です。

胃腸が弱い方には向かず、無理に服用すると食欲不振・胃もたれや下痢などが現れることがあります。その場合は服用を中止し医師に相談してください。

また、配合成分の黄芩により肝機能障害間質性肺炎がごくまれに起こることが報告されています。長期間服用する際は定期的に肝機能検査を受けるなど注意が必要です。さらに激しい下痢が続く場合は脱水症状のおそれもあるため、症状が強い時は早めに受診しましょう。

併用禁忌・併用注意な薬剤

三黄瀉心湯を安全に使用するために、他の薬剤との組み合わせにも注意が必要です。

  • 他の下剤との併用禁止:すでに便秘薬(下剤)を使用している場合や、大黄を含む他の漢方薬を併用することは避けてください。作用が重複し、過度の下痢や腹痛を引き起こす危険があります。
  • 利尿剤・ステロイド剤との併用注意:利尿薬やステロイド剤を服用中、本剤による下痢で低カリウム血症が起こると不整脈が生じやすくなります。心不全の強心薬を服用中の場合も、電解質異常で薬の作用が強まる恐れがあります。
  • 妊娠・授乳中:妊娠中の使用は避けます(大黄の作用で子宮収縮の恐れがあります)。授乳中も乳児に下痢を起こす可能性があるため原則使用しません。

その他、持病で治療中のお薬がある場合は自己判断で併用せず、必ず主治医や薬剤師に三黄瀉心湯を服用してよいか確認してください。

含まれている生薬の組み合わせと選択理由

三黄瀉心湯はその名の通り、3つの「黄」の名を持つ生薬で構成されています。それぞれの生薬の役割と、この組み合わせになっている理由を見てみましょう。

  • 黄芩(おうごん):苦味が強く冷たい性質を持ち、主に上半身のほてりや炎症を鎮めて精神の高ぶりを抑えます。
  • 黄連(おうれん):黄芩と同様に苦く冷たい生薬で、胃腸や「心(しん)」の炎症を沈静化し、胃もたれやイライラ、不眠を改善します。
  • 大黄(だいおう):腸を強力に動かして体内の熱と滞った血を体外へ排出する作用があります(瀉下作用)。黄芩・黄連で冷ました熱を大黄で押し出す組み合わせです。

三黄瀉心湯にまつわる豆知識

歴史・由来:中国の古典に由来し、古くからイライラや不眠など神経の高ぶりに用いられてきました。
特徴:配合された3種の生薬は色が黄色く、非常に苦い処方ですが、その苦味成分に熱を冷ます働きがあるため「良薬口に苦し」を体現しています。

まとめ

三黄瀉心湯(ツムラ113番)は、体内の余分な熱を冷まし、のぼせやイライラ、便秘などを改善する伝統的な漢方薬です。高血圧の随伴症状や更年期障害など、「熱症状を伴う実証」の患者様に適しています。ただし強力な薬でもあるため、証に合わない場合は副作用を生じることがあります。専門家の判断のもと適切な用量・期間で服用しましょう。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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