黄耆建中湯の効果、適応症
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)は、体力が衰えて疲れやすく、寝汗(睡眠中の発汗)などの症状が見られる方に用いられる漢方薬の一つです。
いわゆる「気虚」と呼ばれるエネルギー不足の体質を改善し、胃腸を温めて痛みを和らげる効果があります。以下のような症状・体質に対して効果が期待できます。
- 虚弱体質(全身の活力が乏しい)
- 疲労倦怠感が強く、少し動くと息切れする
- 就寝中によく寝汗をかく
- 手足やお腹が冷えやすい
このように、黄耆建中湯は体内のエネルギーである「気」を補い、冷えや慢性的な痛みを改善することで、倦怠感や寝汗、食欲不振などの症状を和らげる処方です。中国漢代の古典医学書『金匱要略』に収載されており、小建中湯に黄耆を加えて補益作用を強めた経緯があります。病後の衰弱や食欲不振からの回復を助け、体力を増強する処方です。
よくある疾患への効果
寝汗(夜間の発汗)
就寝中に大量の汗をかいてしまう「寝汗(夜間の盗汗)」は、漢方では、体内の気が不足して汗の出口(汗孔)がゆるんだ状態と考えます。黄耆建中湯は不足した気を補充し、汗の漏れを抑える作用によって、夜間の発汗を改善します。気力が補われることで免疫力も向上し、寝汗とともに「風邪をひきやすい」といった虚弱な体質の改善にもつながるとされています。
湿疹・アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患
体質的に虚弱で皮膚のバリア機能が低下している方では、湿疹やアトピー性皮膚炎が慢性化しやすい傾向があります。黄耆建中湯は体の内部から気力を補い血行を促進することで、皮膚の修復力を高める効果が期待できます。ステロイド外用や保湿剤などの西洋治療と併用し、本方を内服することで皮膚の治りをサポートし再発しにくい体質作りに役立つ場合があります。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
倦怠感や虚弱体質の症状には、黄耆建中湯以外にもいくつか漢方薬が用いられます。症状や体質の違いによって処方を選び分けることが大切です。ここでは、黄耆建中湯と比較されやすい処方をいくつかご紹介します。
小建中湯(99)
小建中湯(しょうけんちゅうとう)は、黄耆建中湯の元になっている処方で、黄耆を加える前の基本形となる漢方薬です。こちらは疲労感や寝汗がそれほど顕著ではなく、腹部の冷えや痛みが主体となる場合に用いられます。黄耆建中湯よりも補気作用はマイルドですが、胃腸を温めて痛みを和らげる点で共通しており、主に疲労感より腹部の症状が中心の場合に選択されます。
補中益気湯(41)
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、黄耆や人参などを含む代表的な補気剤で、重い倦怠感や臓器の下垂に用いられます。一方、腹部の冷えや痛みが少なく全身の疲労が強い場合に適しています。
防已黄耆湯(20)
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、汗かきでむくみやすい肥満体質の方に用いられる処方です。黄耆建中湯は痩せ型で冷えや痛みが主体の方向きで、体質に応じて使い分けられます。
副作用や証が合わない場合の症状
黄耆建中湯にも副作用が起こることがあります。特に注意すべきは偽アルドステロン症で、甘草の成分により血圧上昇、むくみ、低カリウム血症などを引き起こす症状です。さらに進行すると脱力を招くため、顔や脚のむくみ、脱力を感じたら服用を中止し、医師に相談してください。
そのほか、食欲不振・胃もたれ・下痢などの消化器症状や、発疹・かゆみ等のアレルギー症状が現れることがあります。また、証に合わない場合は十分な効果が得られず、かえって体調が悪化することもあります。
併用禁忌・併用注意な薬剤
黄耆建中湯を服用する際には、他の薬剤との相互作用にも注意します。
- 生薬の重複:甘草を多く含む他の漢方薬を併用すると、偽アルドステロン症による高血圧・浮腫など副作用のリスクが高まります。同じ生薬を多く含む処方の併用には注意してください。
- 西洋薬との併用:利尿薬・ステロイド剤・強心薬などを服用中の場合、低カリウム血症や不整脈が起こりやすくなります。併用の際は必ず医師に相談し、慎重に経過を観察してください。
含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか
黄耆建中湯は6種類の生薬で構成されており、それぞれが胃腸を温めて気力を補充し、痛みを和らげる働きを担っています。
桂枝(ケイシ)
ニッケイ(肉桂)の若い枝で、身体を温め血行を促し、冷えによる痛みを和らげます。
生姜(ショウキョウ)
ショウガの根茎を乾燥させた生薬で、胃腸を温めて吐き気を鎮め、消化機能を助けます。
芍薬(シャクヤク)
ボタン科シャクヤクの根。血行を良くし、筋肉のこわばりによる痛みを和らげます。
甘草(カンゾウ)
マメ科カンゾウの根。多くの漢方処方に配合される調和薬で、炎症を鎮めつつ他の生薬の働きを調整します。
大棗(タイソウ)
クロウメモドキ科ナツメの果実。胃腸の機能を補い、甘味で体を温めて気持ちを落ち着かせます。
黄耆(オウギ)
マメ科キバナオウギの根。黄色い断面を持つ生薬で、代表的な補気薬(ほきやく)です。体のエネルギーである「気」を補い、汗の漏れを止め、炎症や腫れを抑える作用があります。免疫力を高めて傷の治りを促す効果も期待でき、古くから体力増強の要薬として重宝されてきました。
黄耆建中湯にまつわる豆知識
- 歴史: 本方は古典『金匱要略』に、虚弱による自汗・腹痛を治す薬として記載され、小建中湯に黄耆を加えた処方です。
まとめ
黄耆建中湯は、気虚による冷えや慢性の痛みを抱える虚弱体質の方に適した漢方薬です。胃腸を温めながら気力を補い、倦怠感や寝汗、腹痛などの症状を改善する効果が期待されます。
比較的副作用の少ない処方とされていますが、体質に合わない場合や他の漢方薬・医薬品との併用には注意が必要です。陰虚や実熱など適応でない証では効果が出にくいため、専門家による証の見立てが重要になります。
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。