柴朴湯の効果、適応症
柴朴湯(さいぼくとう)は、喉の違和感や咳、気管支喘息、不安感など心身にまたがる症状に対して用いられる漢方薬の一つです。体内に滞った「痰(たん)」(粘液)や気の停滞(気滞)を改善し、呼吸を楽にして気分を落ち着ける効果があります。とくに**梅核気(ばいかくき)**と呼ばれる喉のつかえ感を取り除く処方として有名で、以下のような症状・体質に対して効果が期待できます。
- 緊張やストレスによって喉に物が詰まった感じがし、頻繁に「エヘン」と咳払いをしてしまう
- 不安になると息苦しさや動悸、めまい、吐き気を感じることがある
- 気管支ぜんそく(小児喘息を含む)で痰の絡む咳が続き、緊張や気候の変化で症状が悪化しやすい
このような抑うつ傾向や神経質な気質を背景に、痰湿が喉や気管支に停滞しているケースで症状を和らげてくれます。
よくある疾患への効果
小児ぜんそく・気管支喘息
小児ぜんそくや大人の気管支喘息では、気道の炎症や痰の停滞によって咳や喘鳴(ぜんめい)が生じます。柴朴湯は痰をさばいて気管支を広げ、呼吸を楽にする効果が期待できます。また、緊張や不安が喘息発作の誘因になるタイプの患者様では、柴朴湯によって神経の高ぶりを鎮めることで発作を起こしにくくする一助となります。もちろん急性発作時には適切な吸入治療が必要ですが、体質改善の目的で漢方を併用することがあります。
梅核気(喉のつかえ感)
喉に梅の核(種)が引っかかったような違和感を感じる症状を梅核気(ばいかくき)と呼びます。ストレスや情緒の不安定さから生じるとされ、実際には喉に異物がないのに詰まった感じが続くのが特徴です。柴朴湯はこの梅核気を改善する代表的な処方です。実際に、「緊張で喉が詰まって飲み込みにくい」「ストレスがかかると喉に違和感がせり上がる」といった方に柴朴湯を服用してもらうと、喉の圧迫感が和らぎ呼吸や飲食が楽になることがあります。
不安神経症などストレスによる症状
柴朴湯は不安神経症やパニック症状など、精神的ストレスからくる身体の不調にも使われます。胸部の圧迫感、動悸、めまい、呼吸の浅さ、あるいは胃のもたれなど、自律神経症状を伴う不安発作に対し、柴朴湯が心身を落ち着かせる効果を発揮することがあります。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
喉の違和感や咳、不安症状に対しては、柴朴湯以外にもいくつか漢方薬が用いられます。症状や体質の違いによって処方を選び分けることが大切です。ここでは、柴朴湯と比較されることの多い処方をいくつかご紹介します。
半夏厚朴湯(16)
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は梅核気(喉のつかえ)の古典的な処方です。5種類の生薬からなり、主に喉や胸の違和感と軽い不安感を改善します。柴朴湯に比べて処方がシンプルで作用も穏やかです。咳や喘息症状がそれほど強くなく、喉の異物感が中心である場合には、まず半夏厚朴湯が選択されます。比較的体力のない方や高齢者にも使いやすい処方です。
小青竜湯(19)
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は、気管支喘息やアレルギー性鼻炎に広く用いられる漢方薬です。水様の痰や鼻水が多く、冷えると症状が悪化するタイプの喘息に適しています。麻黄(マオウ)や桂枝(ケイシ)を含み、発汗・気管支拡張作用が強いため、急性期の喘鳴や鼻水を速やかに改善します。ただし精神面への作用は弱く、ストレスよりもアレルギー要因で喘息が起こる場合に用いられる傾向があります。逆にストレスによる咳には柴朴湯の方が適しています。
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、不安や不眠、動悸、便秘などを伴う神経症に使われる処方です。柴胡や半夏に加えて竜骨・牡蛎といった沈静作用のある鉱物生薬が含まれており、精神不安が強く比較的体力のある方に適しています。
副作用や証が合わない場合の症状
柴朴湯は比較的副作用の少ない漢方薬とされていますが、体質に合っていない場合や長期間にわたり大量に服用した場合には、副作用が現れる可能性があります。
- 重篤な副作用:間質性肺炎、偽アルドステロン症、肝機能障害などの重篤な副作用が報告されています。
- その他の副作用:発疹、蕁麻疹、胃部不快感、下痢などの症状が報告されています。
なお、患者様の証(しょう)に合わない場合、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することもあります。漢方薬はその人の証に合った処方を選ぶことが大切です。
併用禁忌・併用注意な薬剤
- インターフェロン製剤:柴朴湯と類似する小柴胡湯をインターフェロンと併用した症例で間質性肺炎の発生が報告されています。そのため、インターフェロン投与中は柴朴湯の併用は禁忌とされています。
- その他の薬剤:利尿薬や副腎皮質ステロイド薬との併用で低カリウム血症のリスクが高まります。また、ワルファリンなど抗凝血薬の作用に影響が出たり、甘草を含む漢方薬との重複で副作用が強まる恐れもあります。併用中の薬がある場合は事前に医師に相談してください。
含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか
柴朴湯は、柴胡、半夏、茯苓、黄芩、厚朴、大棗、人参、甘草、蘇葉、生姜の10種の生薬からなる処方です。名前は主薬の柴胡と厚朴に由来します。それぞれの生薬の役割は以下の通りです。
- 柴胡:滞った気の巡りを整え、胸のつかえやストレスを和らげる
- 半夏:こびりついた痰を除き、喉の違和感や咳を鎮める
- 茯苓:余分な水分を排出し、不安感を鎮める
- 黄芩:炎症やのぼせを冷まし、咳や喉の腫れを抑える
- 厚朴:気の滞りを解消し、喘鳴を緩和する
- 大棗:胃腸を守って体力を補い、他の生薬の作用を調整する
- 人参:気力・体力を補い、胃腸の働きを高める
- 甘草:生薬同士の調和をとり、副作用の発現を抑える
- 蘇葉:気分をすっきりさせ、喉の通りを良くする
- 生姜:胃腸を温めて痰を減らし、吐き気や咳を鎮める
柴朴湯にまつわる豆知識
- 紫蘇(シソ)の葉:配合生薬の一つ蘇葉(そよう)は、シソの葉を乾燥させたものです。シソは日本では刺身の添え物に使われるなど身近ですが、発汗・健胃・鎮咳作用を持つ生薬でもあります。柴朴湯に蘇葉が含まれていることで、気分をスッキリさせながら喉の調子を整えるとされています。
- 柴朴湯の由来:柴朴湯は小柴胡湯(9)と半夏厚朴湯(16)を合わせた漢方薬となっており、それぞれから一文字ずつ拝借して柴朴湯という名前になっています。発明者は不明ですが、江戸時代に日本で発明されたと言われています。
まとめ
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。