五虎湯(ツムラ95番):ゴコトウの効果、適応症

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五虎湯の効果、適応症

五虎湯(ごことう)は、激しい咳(せき)や喘鳴(ぜんめい)を鎮めるために用いられる漢方薬です。ツムラ医療用漢方製剤の番号では95番にあたり、気管や気管支の炎症を抑え、痰(たん)を減らすことで咳を鎮静し、呼吸を楽にする効果があります。また気管支を拡げて喘息(ぜんそく)の発作を和らげる作用も期待できます。比較的体力のある方向けの処方で、顔が赤くなるほど咳き込み、熱感や喉の渇きがみられるような「熱のこもった」症状に適しています。以下のような症状・疾患に対して効果が期待できます。

  • 激しい咳・長引く咳:風邪や気管支炎の後などに咳が止まらず、黄色い痰が絡む場合
  • 気管支喘息(小児喘息を含む):発作性の喘息で息苦しく、咳込む場合
  • 痔の痛み:痔核(いぼ痔)の腫れ・痛みに対する鎮痛

このように五虎湯は、体内に熱と痰が停滞して激しい咳が出ている状態を改善する処方です。肺や気管支の炎症による咳・痰を鎮め、喘息様の症状を和らげる効果が期待できます。ただし、体力のない方や乾いた咳の方には適さない場合があります。

よくある疾患への効果

風邪や気管支炎の後に残る咳

感冒や急性気管支炎で熱や喉の痛みが治まった後に、咳だけが何週間も残ってしまうことがあります。五虎湯が効果を発揮します。炎症によるこもった熱を冷まし、粘膜の過敏状態を鎮めることで咳と痰を和らげます

気管支喘息・咳喘息

五虎湯は喘息発作時の咳や呼吸困難感を和らげる補助療法として用いられることがあります。痰が絡む発作に適しています。ただし、重度の喘息発作の場合は吸入治療など西洋医学的な治療が優先されます。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

咳や喘息様症状に対しては、五虎湯以外にもいくつかの漢方薬が用いられます。症状の性質や患者さんの体質(証)によって処方を選び分けることが大切です。ここでは、五虎湯と比較されやすい処方をいくつかご紹介します。

麻杏甘石湯(55)

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)は、麻黄・杏仁・甘草・石膏の4味からなる処方で、五虎湯と適応はほぼ同じです。
【五虎湯との違い】桑白皮を含まないため熱を冷ます力がやや弱く、症状が比較的軽い場合に用いられます。両処方は構成が似ているため通常はいずれか一方のみを使用します。五虎湯のほうが淡い味をしているため、小児の喘息では麻杏甘石湯より五虎湯が適切であるといわれています。

麦門冬湯(29)

麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、痰が少なく喉が渇く乾いた咳に用いられる処方です。
【五虎湯との違い】五虎湯が炎症(熱)のある咳に用いられるのに対し、麦門冬湯は乾燥した咳に用いられます。したがって、痰の多い咳には五虎湯、痰が少なく喉の乾燥が強い咳には麦門冬湯と使い分けられます。

小青竜湯(19)

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は、冷えによる水っぽい咳に用いられる代表的な処方です。
【五虎湯との違い】五虎湯が熱のこもった咳に用いられるのに対し、小青竜湯は冷えによる咳に用いられます。また、小青竜湯は比較的体力のない人にも用いやすいマイルドな処方ですが、五虎湯は体力充実した方向きです。

副作用や証が合わない場合の症状

五虎湯は有効性が高い反面、副作用が現れる可能性があります。甘草の影響で偽アルドステロン症(低カリウム血症によるむくみ・血圧上昇・脱力など)やミオパチーが起こることがあります。麻黄の作用により動悸不眠、過度の発汗などが現れる場合もあります。

また、処方の「証」が合わない場合には十分な効果が得られないばかりか、副作用が出やすくなります。例えば痰が少なく喉の乾燥が強いタイプの咳に五虎湯を用いると、かえって喉の渇きやほてりが悪化することがあります。このような場合には五虎湯は適さず、別の潤肺作用のある処方(例:麦門冬湯など)に切り替えるべきです。五虎湯を服用して体調に異変を感じた際は、直ちに服用を中止し医師に相談してください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

五虎湯には麻黄(エフェドリン様作用)や甘草(グリチルリチン含有)といった薬効の強い生薬が含まれるため、併用に注意が必要な薬剤があります。安全に服用するため、以下のような薬を服用中の方は事前に医師へご相談ください。

  • 利尿薬・ステロイド剤・ジギタリス製剤:甘草の作用で低カリウム血症を来しやすく、不整脈を招くおそれがあります。
  • 気管支拡張薬(β刺激薬・テオフィリン等):麻黄による交感神経刺激作用が重複し、動悸や震えなど副作用が強まる可能性があります。
  • 他の麻黄・甘草含有漢方薬:作用が重複して副作用リスクが高まる恐れがあるため併用は避けるか慎重に行います。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

五虎湯は麻黄・石膏・杏仁・桑白皮・甘草の5種類の生薬で構成されています。それぞれの役割は以下の通りです。いずれも咳や喘息に対して強い薬効を持つ生薬で、その5つが揃った様子を猛々しい5頭の虎に喩えて「五虎湯」と名付けられました。五虎湯は古典的な処方「麻杏甘石湯」に桑白皮を加えた形となっており、追加された桑白皮によって鎮咳・消炎作用が一層強化されています。

麻黄(マオウ)

麻黄(マオウ)はエフェドラ(麻黄草)の茎からなる生薬で、発汗気管支拡張の作用により喘鳴を鎮めます。ただし心拍数や血圧を上昇させる作用もあるため、他の生薬でその刺激性を和らげています。

石膏(セッコウ)

石膏(セッコウ)は硫酸カルシウムを主成分とする鉱物生薬で、強い清熱作用により肺の炎症や熱を冷まし、咳を鎮めます。

杏仁(キョウニン)

杏仁(キョウニン)はアンズの種子で、鎮咳去痰の作用を持ち、咳を和らげて痰を出しやすくします。

桑白皮(ソウハクヒ)

桑白皮(ソウハクヒ)は桑の根皮で、肺の熱を冷まし、咳や喘息を鎮めます。

甘草(カンゾウ)

甘草(カンゾウ)は炎症を鎮め、喉の痛みを和らげながら処方全体の調和をとる働きがあります。

五虎湯にまつわる豆知識

  • 名前の由来:処方名の「五虎」は、5種の強い生薬が5頭の虎のように揃っていることに由来します。
  • 出典と歴史:明代の医学書『万病回春』に記載されている咳止めの処方です。日本では麻杏甘石湯ほど有名ではありませんでしたが、近年エキス製剤化され現代でも利用されています。

まとめ

五虎湯は痰と熱による激しい咳に適した漢方薬です。肺の炎症を鎮め、気管支を拡げることで咳と喘鳴を改善します。ただし、乾いた咳や虚弱な体質には適さず、副作用や併用にも注意が必要です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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