六味丸(ツムラ87番):ロクミガンの効果、適応症

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六味丸の効果、適応症

六味丸は、いわゆる“腎虚(じんきょ)”と呼ばれる状態を改善するために用いられる漢方薬のひとつです。
体の中が「陰(いん)」であるときに使われることが多く、以下のような症状に対して効果が期待できます。

  • 腰や膝のだるさ、痛み
  • 手足のほてり
  • 口渇(喉が渇きやすい)
  • 頻尿や夜間尿
  • 疲れやすく、元気が出ない

腎陰虚と呼ばれる、体内の潤い不足を補う処方として、中国の古典医学書『医方集解』などにその名が記されています。
加齢による体力の衰えや、更年期以降の不定愁訴などにも用いられています。

よくある疾患への効果

加齢による体力低下や腰痛

歳を重ねるにつれて腎陰が不足しやすくなると考えられています。腰や膝が弱くなったり痛んだりする方に対して、六味丸は身体の“基礎力”を底上げするように働きかけるとされています。

頻尿や夜間尿

夜間にトイレが近くて何度も起きてしまう、あるいは昼間でもトイレの回数が気になるといった悩みがある方に使用されるケースがあります。腎の機能を補うことで泌尿器系のバランスを整えるという考え方です。

疲労感やほてり

日中はなんとなくだるく、夜になると手足がほてって寝つきにくいといった方にも、六味丸が選択されることがあります。身体に足りない潤いを補い、余分な熱をさましてくれるとされています。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

六味丸と同様に、腎虚や加齢に伴う症状を改善するための漢方薬はいくつか存在します。ここでは比較されやすい処方をいくつかご紹介します。

八味地黄丸(7)

八味地黄丸(7)は、六味丸の構成に附子(ブシ)や桂皮(ケイヒ)などを加えた処方とイメージしていただくとわかりやすいでしょう。
冷えを強く感じる方、特に下半身の冷えやむくみがある方に向いています。逆に、ほてりが強い方には向かないこともあります。

牛車腎気丸(107)

牛車腎気丸(107)は、八味地黄丸(7)に牛膝(ゴシツ)や車前子(シャゼンシ)を加えた処方です。むくみや下半身のだるさ、歩行困難を伴うほど脚力が衰えている方に使われることが多いです。
六味丸よりも体力の衰えが強い方に向いているともいえます。

副作用や証が合わない場合の症状

六味丸は比較的マイルドな処方とされていますが、体質に合わない場合や長期大量服用時には副作用が起こる可能性があります。

  • 消化器症状:下痢や腹痛、食欲不振など。胃腸が弱い方は注意が必要です。
  • アレルギー反応:発疹やかゆみ、蕁麻疹など。服用後に皮膚症状が出た場合は専門家に相談してください。

なお、六味丸には甘草(カンゾウ)や柴胡(サイコ)、黄芩(オウゴン)などの重篤な副作用に関わりやすい生薬は含まれていません。
しかし、他の漢方薬やサプリメントとの併用によって生薬成分が重複する場合は、偽アルドステロン症や肝障害などのリスクが高まる可能性があるため注意が必要です。

併用禁忌・併用注意な薬剤

六味丸自体には強い刺激性の生薬が含まれていないため、重篤な併用禁忌は比較的少ないと考えられています。ただし、以下のような場合には注意が必要です。

  • 利尿薬:六味丸の利水作用と併用して過度に水分を排泄してしまう場合があります。特に腎機能が低下している方は医師に相談してください。
  • 他の滋養強壮系サプリメント:過剰な栄養補給や過剰な利水効果を招く場合があります。
  • 体に熱がこもりやすい方:まれにほてりが強くなる場合があります。他の生薬との相互作用も考慮して選ぶと安心です。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

六味丸は、その名の通り6種類の生薬を組み合わせて作られています。
基本的には「地黄(ジオウ)」「山茱萸(サンシュユ)」「山薬(サンヤク)」「沢瀉(タクシャ)」「茯苓(ブクリョウ)」「牡丹皮(ボタンピ)」の組み合わせです。

地黄(ジオウ)

身体を潤し、血や陰を補うとされる生薬です。六味丸の中心的役割を担い、腎陰虚に対して重要な働きをします。

山茱萸(サンシュユ)

弱った肝腎を補い、エネルギーを体内に留めるといわれています。疲れやすい、腰や膝がだるいなどの症状を和らげるとされます。

山薬(サンヤク)

消化器系を補う作用とともに、腎陰を助ける働きがあるとされています。滋養強壮的な役割を担っている生薬です。

沢瀉(タクシャ)

余分な水分を排出し、水分代謝を整える利水薬です。腎に負担をかけすぎず、体のバランスを保ちます。

茯苓(ブクリョウ)

利水作用や胃腸の機能調整作用を持ち、心身のバランスを安定させるといわれています。

牡丹皮(ボタンピ)

血の巡りを整え、炎症をしずめる働きが期待されます。身体の熱をさまし、血行を促進する役割を担っています。

六味丸にまつわる豆知識

  • 名前の由来:「六味」は文字通り6種類の生薬を組み合わせていることに由来し、「丸」は丸剤で処方された名残りからきています。
  • 歴史:中国・宋の時代に成立した『小児薬証直訣(しょうにやくしょうちょっけつ)』に類似処方の記載があり、当時から小児の発育不良や高齢者の腎虚を補う処方として重宝されてきました。
  • 味・飲みやすさ:地黄の独特な風味がやや苦手と感じる方もいますが、慣れると“ほのかな甘味”が気にならない場合も多いです。
  • 実はバリエーションが豊富:六味丸をベースにした処方は、八味地黄丸(7)や牛車腎気丸(107)など、さまざまな加味処方が存在します。患者の症状や体質に合わせて適切な処方が選ばれます。

まとめ

六味丸は、腎の力が弱り、“腎陰虚”による症状があらわれている方に適した漢方薬です。身体の潤いを補いつつバランスを整え、加齢や体力低下による不調を改善することが期待されます。
副作用が比較的少ない処方とされていますが、体質に合わない場合やほかの漢方薬・医薬品との併用には注意が必要です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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