桂枝湯(ツムラ45番):ケイシトウの効果、適応症

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桂枝湯(45)の効果・適応症

桂枝湯(けいしとう)は、古くから風邪の初期に用いられてきた漢方薬です。特に、体力が低下している方や高齢者など、いわゆる「虚証(きょしょう)」と呼ばれる病気を外へ追い出す力が弱い体質の人に向いています。発熱は主に微熱程度で、頭痛、寒気、軽い項部(うなじ)のこわばり、体の痛みなどがあり、皮膚に自然と汗がにじんでいるようなケースで効果を発揮します。桂枝湯は体を内側から温めて発汗を促しつつ、体表部の緊張を緩めて血行を改善し、これらの症状を和らげる働きがあります。以下のような症状・場面に対して用いられることが多い処方です。

  • 風邪(感冒)のひきはじめで、頭痛・寒気があり微熱が出て汗ばんでいる
  • 体力が落ちている時に風邪をひき、悪寒はあるが熱は高くなく全身がだるい
  • 高齢者や病後の虚弱な方の発熱で、熱のわりに顔色が悪く、汗が出てしまう

このように桂枝湯は、「汗は出ているが悪寒や発熱がある」タイプの風邪に適した処方です。中国漢代の古典『傷寒論(しょうかんろん)』に最初に記載されている基本処方であり、現在の数多くの漢方処方の原型にもなっています。体の表面(皮下)に停滞した邪気を発汗によって追い出し、乱れた自律神経のバランス(営衛〈えいえ〉の調和)を整えることで、風邪の症状を穏やかに改善するとされています。

よくある疾患への効果

桂枝湯は主に風邪の初期症状に対して用いられますが、体質や状況によってはその他の発熱性の不調にも応用されます。具体的には以下のような疾患・シチュエーションで効果が期待できます。

風邪(かぜ)の初期

一般的な風邪のひき始めで、微熱や頭痛、悪寒があるものの症状が比較的軽い場合に桂枝湯が用いられます。特に、汗がすでに出ている風寒の風邪(皮膚がしっとり汗ばんでいる状態)に適合します。桂枝湯は体を温めて程よい発汗を促し、体表の筋肉のこわばりをほぐすことで、悪寒や頭痛を和らげます。
実際に「ゾクゾクと寒気がするが熱は高くない」「少し汗ばむ程度で風邪をひき始めた」というケースで桂枝湯を服用すると、症状の進行を抑えて早めに楽になることがあります。ただし、高熱を伴うような強い風邪の場合は別の処方が選択されます。

虚弱な人・高齢者の発熱

桂枝湯は高齢者や病後・産後など虚弱な方の発熱にも用いられることがあります。体力がない方は風邪をひいても激しい発熱になりにくく、むしろ汗ばみやすく悪寒が続くといった症状を呈することがあります。例えば、産後に身体が冷えて発熱した場合や、持病で体力が落ちた方の微熱などで、寒気とともにじっとり汗をかいているような状況です。桂枝湯はこうした虚弱な身体に負担をかけすぎずに発汗を整え、体温調節を助けることで発熱に伴う不調を緩和します。
実際に、産後に寒気を伴う熱っぽさが引かない方に桂枝湯を用いて回復を促した例もあります。ただし、明らかに感染症による高熱や炎症が強い場合は、西洋医学的な治療や他の漢方薬が必要です。

その他の症状への応用

桂枝湯は主に風邪に用いますが、自律神経の乱れによる発汗異常虚弱体質による慢性的な寒気などに応用されることもあります。例えば、日頃から少し動くだけで汗をかきやすく、冷えを感じる体質の方が体調を崩したとき、桂枝湯が体表のバランスを整えて汗のかきすぎや悪寒を改善する一助となる場合があります。
また、軽い咳を伴う風邪で喉が渇かないようなケースでも、桂枝湯が用いられることがあります(喉が渇いて汗が出ていないような風邪ではなく、汗ばみがある風邪に限ります)。以上のように、桂枝湯は特定の病名というよりは「汗のかき方」と「寒熱のバランス」に着目して使われる処方と言えます。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

風邪の初期症状に用いる漢方薬は、桂枝湯以外にもいくつか存在します。症状の程度や患者さんの体質(証)によって処方を選び分けることが大切です。ここでは、桂枝湯と比較されやすい代表的な処方を4種類挙げ、その適応の違いを解説します。

葛根湯(1)

葛根湯(かっこんとう)は、桂枝湯に麻黄(マオウ)と葛根(カッコン)を加えた、有名な風邪薬です。比較的体力のある方(中等度~やや強い体力)で、発熱と悪寒があり汗をかいていない場合に用いられます。特に首すじや背中の強いこわばり(項背部のこり)を伴う風邪に効果的です。葛根湯は発汗を促す力が桂枝湯より強く、筋肉の緊張を解く作用もあるため、汗が出ずに寒気がする「実証」のかぜに向いています。
逆に言えば、桂枝湯はすでに汗が出ている「虚証」のかぜ向きであり、体力のない方に葛根湯を使うと発汗させすぎて負担になることがあるため、そのような場合には桂枝湯が選ばれるのです。

麻黄湯(27)

麻黄湯(まおうとう)は、麻黄を主薬とする最も発汗作用の強い風邪の漢方薬です。高熱や激しい悪寒、筋肉痛を伴うようなインフルエンザ様の初期(いわゆる「実証」で汗が全く出ていない状態)のかぜに用いられます。麻黄湯には麻黄のほか桂枝も含まれますが、桂枝湯と比べて附子(ブシ)や杏仁(キョウニン)が加わり、身体を力強く温めて発汗を促進する処方になっています。若く体力のある人が高熱の寒気に襲われている場合、麻黄湯は短期間で発汗解熱させる効果があります。
一方で、体力のない人や汗の出ている人には刺激が強すぎるため使用しません。桂枝湯は麻黄湯に比べて穏やかで、虚弱者でも安全に使える代わりに、即効的に高熱を下げるような働きは期待しにくいという違いがあります。

小青竜湯(19)

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は、水っぽい鼻水や痰が多く出る風邪に用いられる漢方薬です。桂枝湯と同じく桂枝・芍薬・甘草・生姜を含みますが、麻黄や細辛(サイシン)も含まれており、鼻詰まりや気管支のゼーゼーを改善する作用が特徴です。体力中等度の方向けで、寒気とともにくしゃみ・鼻水が止まらないような場合によく使われます。小青竜湯は体内の余分な水分(飲【いん】とも言います)を乾かし、気道の粘膜を潤すことで咳や鼻水を鎮めます。アレルギー性鼻炎や気管支喘息の緩和にも用いられる処方です。
桂枝湯との違いは、水様の分泌物(鼻水・痰)が多いかどうかです。桂枝湯は汗はあるものの喉や鼻が乾燥気味であるケースにも適しますが、小青竜湯は鼻や気管支に水分が多く絡む風邪に適する処方といえます。また、小青竜湯は麻黄を含むため、桂枝湯よりやや発汗・鎮咳力が強く、実証寄りの症状に使われます。

麻黄附子細辛湯(127)

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)は、体力虚弱な人の激しい悪寒に対応する漢方薬です。麻黄と細辛で発汗と鎮咳を図りつつ、附子で体を深部から温める構成で、手足の冷えが強く、震えるほど寒気があるのに発汗できないような場合に用いられます。本来、麻黄の入った処方は体力のある方向きですが、麻黄附子細辛湯は附子によって生命力(腎陽)を補いながら発汗させるため、虚弱な方や高齢者でも使いやすいよう工夫された処方です。真冬に薄着で長時間過ごした後にひく風邪や、冷えきって悪寒戦慄する場合などに適しています。
桂枝湯と比べると、麻黄附子細辛湯は汗が出ておらず四肢が氷のように冷たいケースに対応する点で異なります。言い換えれば、同じ虚弱者の風邪でも、汗が出ているか出ていないかで桂枝湯と麻黄附子細辛湯を使い分けます。桂枝湯では追いつかないほど体が冷えきっている場合に、麻黄附子細辛湯が選択肢となります。

副作用や証が合わない場合の症状

桂枝湯は比較的マイルドで安全性の高い処方とされていますが、体質に合わない場合や長期間・大量に服用した場合、以下のような副作用が現れる可能性があります。

  • 皮膚症状:発疹、発赤、かゆみなどのアレルギー症状がまれに起こることがあります。服用後に皮膚に異常を感じた場合は、早めに医療機関へご相談ください。
  • 消化器症状:桂枝湯は比較的胃腸に優しい処方ですが、人によっては胃もたれ・食欲不振・吐き気・下痢などを生じる可能性があります。特に胃腸が極度に弱い方は、生姜や桂枝の温める作用で刺激を感じることがあります。強い胃の不快感が続く場合は服用を中止し、医師に相談してください。
  • 重篤な副作用:桂枝湯には甘草(カンゾウ)が含まれており、長期間の多量服用や他の甘草含有製品との併用により、低カリウム血症を伴う筋力低下や高血圧(偽アルドステロン症)を引き起こす恐れがあります。むくみが出たり、筋力の低下・血圧上昇がみられた場合は、すみやかに専門医に相談してください。

また、証(しょう)=体質が処方に合わない場合、期待した効果が得られないばかりか症状が悪化することがあります。例えば、高熱でのどが渇きやすく汗が出ていないような風邪(実証の熱性疾患)に桂枝湯を用いると、十分な解熱効果が得られず病状が長引いたり、かえって汗のかきすぎで脱水気味になる可能性があります。そのため、汗が出ていない寒気の強い風邪には桂枝湯は適さず、別の漢方薬(葛根湯や麻黄湯など)を用いるべきです。
同様に、もともと熱っぽくのぼせがちで喉が渇くような体質の方に桂枝湯を使うと、温める生薬が負担になり、のぼせ感が強まることがあります。桂枝湯は「冷えがあって汗が出ている」タイプ以外の発熱には向かない処方であり、適切な証の見極めが重要です。

併用禁忌・併用注意な薬剤

桂枝湯には麻黄や附子のような強い刺激性の生薬は含まれておらず、絶対的な併用禁忌となる薬剤は少ないとされています。しかし、以下のような場合には併用に注意が必要です。

  • 利尿薬や副腎皮質ステロイド剤との併用:桂枝湯に含まれる甘草の作用により、利尿薬(例:フロセミドなど)やステロイド剤と一緒に服用すると低カリウム血症をきたしやすくなる可能性があります。低カリウムによる筋力低下や不整脈を招かないよう、これらを服用中の方は医師と相談の上で桂枝湯を使用してください。また、強心配糖体(ジギタリス製剤)を服用中の場合も、カリウム低下に伴う作用増強に注意が必要です。
  • 降圧薬との併用:桂枝湯を服用して体表の水分バランスが改善すると、むくみが取れて血圧が変動する可能性があります。高血圧で降圧薬を使用中の方は、漢方薬服用後の体調変化に留意し、必要に応じて主治医に経過を報告してください。急に血圧が下がりすぎたり上がったりする場合は投薬の調整が必要になることがあります。
  • 抗凝血薬との併用:桂枝湯そのものに強い出血傾向を引き起こす生薬は含まれていませんが、体調や体質の変化によって血液凝固能に影響が出る可能性は否定できません。ワルファリンなど抗凝血薬を服用中の方が桂枝湯を併用する際は、念のため定期的に血液検査を受けるなど慎重に経過を観察してください。大きな問題は稀ですが、自己判断での併用は避け主治医に相談しましょう。
  • 他の漢方薬やサプリメントとの併用:桂枝湯と作用や構成が似た漢方薬(例えば他の甘草含有処方など)を併用すると、生薬成分が重複し副作用リスクが高まる可能性があります。特に甘草を含む漢方薬を複数同時に服用すると偽アルドステロン症のリスクが増すため注意が必要です。また、サプリメント類との相互作用も考えられます。現在服用中の薬やサプリがある場合は、桂枝湯を開始する前に医師・薬剤師に伝えてください。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

桂枝湯は、桂枝・芍薬・甘草・生姜・大棗の5種類の生薬から構成されています。それぞれの生薬が互いに作用を補い合い、風邪の初期症状を改善するよう設計されています。以下では、含まれる生薬とその役割について解説します。

桂枝(ケイヒ)

桂枝(ケイヒ)はニッケイ(シナモン)の若い枝を乾燥させた生薬で、身体を温めて発汗を促し、血行を良くする作用があります。古来より、体表部に侵入した風邪(ふうじゃ)を追い出す解表薬として重宝されてきました。桂枝湯では主薬(メインの生薬)として位置づけられ、悪寒や頭痛の原因となる体表の寒邪を発散させる役割を担います。また、桂枝は血行促進によって筋肉のこわばりを和らげる効果も持つため、風邪に伴う肩背部のこりや全身倦怠感の緩和にも寄与します。さらに、生姜や甘草と組み合わせることで営衛(えいえい)の調和(体内のエネルギーバランス調整)を助け、虚弱な人でも無理なく汗をかけるようにサポートします。

芍薬(シャクヤク)

芍薬(シャクヤク)はボタン科のシャクヤクの根を乾燥した生薬で、筋肉のけいれんを鎮め、痛みを和らげる作用や、体内の陰液を補い汗を調節する作用があります。桂枝湯に使われる芍薬は一般に白芍(びゃくしゃく)と呼ばれるもので、わずかに冷性を帯び、興奮した筋肉や神経を落ち着かせます。桂枝湯では桂枝と対になる生薬として位置づけられ、桂枝が体を温めて発汗させる作用を、芍薬が陰液(体液)を守りながら必要以上の発汗を抑えることでバランスを取っています。この桂枝と芍薬の組み合わせによって、自律神経の調節がなされ、発汗のしすぎや不足を是正します。また、芍薬には鎮痛作用もあるため、風邪に伴う頭痛や身体の節々の痛みを和らげる効果も期待できます。さらに甘草とのペアで筋肉痛を和らげる働きが強まり、桂枝湯全体の鎮痛効果の一端を担っています。

甘草(カンゾウ)

甘草(カンゾウ)はマメ科の甘草の根で、漢方における調和薬として有名です。甘味を持ち、胃腸を保護しつつ炎症を鎮め、筋肉の緊張を緩める作用があります。桂枝湯では少量配合され、複数の生薬のクセを丸くまとめて副作用を抑える役割を果たします。例えば、桂枝や生姜の刺激を和らげて胃への負担を軽減し、芍薬の収斂(しゅうれん:ひきしめ)作用とバランスを取ります。また、芍薬と甘草の組み合わせは筋肉のこわばりや痛みを取る効果が高いことが知られており(この二味だけを取り出した処方が芍薬甘草湯です)、桂枝湯においても悪寒で縮こまった筋肉をほぐし、リラックスさせる助けとなっています。さらに甘草には緩和作用だけでなく鎮咳作用や抗炎症作用もあるため、風邪の初期で喉に違和感がある場合にも症状緩和に寄与します。ただし、甘草の過剰摂取は前述の通り偽アルドステロン症の原因となりうるため、他の甘草含有薬との重複には注意が必要です。

生姜(ショウキョウ)

生姜(ショウキョウ)はショウガの根茎を乾燥させた生薬で、身体を温めて発汗を促し、胃腸の機能を整える作用があります。桂枝湯では桂枝とともに表(体表部)の寒さを散らし、適度な発汗を誘導します。生姜の発汗作用は桂枝より穏やかですが、胃腸を温めて消化を助ける働きにも優れるため、桂枝湯を服用した際に胃が冷えたりムカムカしたりするのを防いでくれます。また、生姜には生薬同士の調和を図る役割もあります。特に桂枝湯では、生姜と大棗を組み合わせることで脾胃(消化器)の機能を高め、他の生薬の吸収を良くするとされています(古典的に「姜棗同時に下せば、諸薬を調和す」と言われます)。さらに、生姜自体に軽い鎮咳・去痰作用があるため、風邪の初期で喉に痰が絡みそうなときや咳が出始めたときにも、生姜が含まれる桂枝湯は喉を温め潤すことで症状悪化を防ぐ効果が期待できます。

大棗(タイソウ)

大棗(タイソウ)はナツメの果実を乾燥させた生薬で、胃腸を補い気血を養う甘味の生薬です。ビタミンやミネラルを含み、古来より滋養強壮や精神安定に用いられてきました。桂枝湯では、この大棗が虚弱な患者の体力を支える土台として働きます。具体的には、桂枝や生姜で体を温める一方、大棗が脾を補益して消化吸収を助けることで、全身に栄養とエネルギーを行き渡らせます。風邪をひくと食欲が落ちたりエネルギー消耗が起こりますが、大棗が入ることで胃腸への負担を減らし、他の生薬の効果を発揮しやすくします。また、大棗には精神を安定させる作用もあり、不安や不眠を和らげる効果が知られています。風邪で体調が悪いときの不安感や倦怠感に対しても、大棗が配合されている桂枝湯は気持ちを落ち着け、安眠を促すのに役立つことがあります。さらに甘草との相乗効果で、桂枝湯全体の調和作用を高め、副作用の出にくいマイルドな処方とする一助ともなっています。

桂枝湯にまつわる豆知識

  • 名前の由来:処方名の「桂枝湯」は、その主薬である**桂枝(けいし)**に由来します。「桂枝」は肉桂(ニッケイ)の枝先部分で、シナモンとして香辛料にもなる生薬です。桂枝湯はこの桂枝を中心に据えた発汗剤であることから、桂枝の名を冠して呼ばれています。シンプルな命名ですが、その効能を端的に表した名称と言えるでしょう。なお、桂枝と似た名前の生薬に「桂皮(けいひ)」がありますが、これは肉桂の樹皮のことで、日本の漢方では桂枝と桂皮を厳密に区別せず用いる場合もあります(いずれも体を温め発汗させる作用があります)。
  • 歴史と位置づけ:桂枝湯は中国漢方の古典『傷寒論』において最も最初に登場する処方であり、「太陽病」(外感の初期状態)の基本方剤と位置づけられています。著者の張仲景は桂枝湯を**「中風の第一方」とし、外感病(風邪)の治療の基礎に据えました。その後、時代を経て多くの医師が桂枝湯にさまざまな生薬を加減(かげん)=加えたり減らしたりして応用範囲を広げ、たくさんの派生処方が生まれました。桂枝湯は「群方之首」(ぐんぽうのしゅ)**とも称され、数ある漢方薬方剤の中でも群を抜いて基本となるレシピとして重視されています。
  • 桂枝湯から派生した処方:桂枝湯をベースに応用された処方はいくつも存在します。たとえば、葛根湯は前述のとおり桂枝湯に麻黄と葛根を加えて首肩の凝りと無汗の発熱に対応させた処方です。また、小建中湯は桂枝湯に芍薬を倍量・膠飴(餅飴:べい)という飴糖を加えて、虚弱児の腹痛や体力増強に適するようにした処方です。さらに、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)は桂枝湯に芍薬を増量して腸の痙攣性の痛み(疝痛)に対応させた処方、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしりゅうこつぼれいとう)は桂枝湯に竜骨・牡蛎を加えて精神不安や夢障り(不眠)を改善する処方として知られています。このように、桂枝湯は加減方剤のひな型となっており、現在でも患者さんの症状に合わせて生薬を足し引きすることで柔軟に応用されています。
  • 味や飲みやすさ:桂枝湯に含まれる生薬は、桂枝・生姜のピリッとした辛味と、甘草・大棗の甘味が調和しており、生薬の中では比較的飲みやすい風味とされています。実際、桂枝湯を煎じた液は淡い茶色で、ほのかにシナモンと生姜の香りが感じられ、口に含むとわずかに甘みがあります。苦味の強い黄連解毒湯や麻黄附子細辛湯などと比べると、桂枝湯は子どもでも抵抗なく服用できるケースが多いです。そのため、小児(概ね生後3ヶ月以降)にも桂枝湯は用いられることがある処方です。ただし、市販のエキス顆粒剤では成分が濃縮されているため、生薬特有の風味を強く感じることもあります。服用の際はお湯に溶かし、生姜湯のように温かくして飲むと香りが立ち、より飲みやすくなるでしょう。
  • その他の豆知識:桂枝湯は東洋医学的には**「調和営衛」(ちょうわえいえい)すなわち体表部の防御エネルギー(衛気)と体内の栄養エネルギー(営気)のバランスを整える処方とされています。この営衛調和のコンセプトは、自律神経のバランス調整にも通じ、現代医学的にも発汗中枢の調節作用や免疫調整作用があるのではないかと考えられています。また、日本の江戸時代には桂枝湯が産後の養生**に頻用され、「産後に一服桂枝湯を与えて悪寒発熱を治す」といった記録も残っています。これは産褥期の女性が血虚・気虚の状態で風邪をひきやすいことへの対策で、現代でも産後の体調管理に桂枝湯やそれに類する処方を用いることがあります。

まとめ

桂枝湯(45)は、虚弱な体質で汗が出ている風邪の初期症状に適した漢方薬です。身体を内側から温めて発汗を促しつつ、筋肉のこわばりをほぐして血行を良くすることで、悪寒や頭痛、微熱など風邪の諸症状を穏やかに改善する効果が期待されます。比較的副作用の少ない処方ですが、体質に合わない場合や他の漢方薬・医薬品との併用には注意が必要です。また、すべての風邪に桂枝湯が万能というわけではなく、汗の出方や体力の程度によっては他の処方を用いる方が適切な場合もあります。症状に合った漢方薬を選ぶためには、専門家による証の見立てが重要です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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