小青竜湯の効果・適応症
小青竜湯(しょうせいりゅうとう)は、ツムラ19番の漢方薬で、主に水のような鼻水や薄い水様痰を伴うせきなど、「水」が関与する症状に効果があります。体を内側から温めて水分代謝(いわゆる水はけ)を良くする働きがあり、鼻や気管支にたまった余分な水分を取り除いて症状を和らげます。
比較的体力が中等度で時にやや虚弱な方に向く処方で、寒気があり身体を温めると楽になるようなケースに適しています。適応となる代表的な疾患は、気管支炎、気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)、感冒(かぜ)などです。むくみ(浮腫)に用いられることもあり、体内の余分な水分を発汗・利尿によってさばくことで軽いむくみを改善する効果も期待できます。総じて、小青竜湯は水っぽい分泌物を伴う呼吸器症状全般に幅広く用いられる漢方薬です。
よくある疾患への効果
花粉症・アレルギー性鼻炎: 小青竜湯は花粉症などによるサラサラした鼻水、くしゃみ、鼻づまりを改善する代表的な処方です。アレルギーで鼻や気管支に起こる炎症を鎮め、特に透明~白色の水っぽい鼻水が出続ける症状を素早く和らげます。体を温めて症状が楽になるタイプの鼻炎(例えば「朝起きたときにくしゃみ鼻水がひどいが、温まると落ち着く」ような場合)によく適合し、実際に花粉症シーズンの定番漢方薬として広く使用されています。
感冒(かぜ): 小青竜湯は、かぜによる鼻水・痰の多い咳にも処方されます。例えば、かぜの引き始めから鼻水が止まらず、くしゃみが頻発し、痰のからむ咳が出るような場合に効果的です。葛根湯(1)などでは汗が出ていない初期の寒気主体のかぜに用いますが、小青竜湯は鼻水や痰など水分症状が目立つかぜに適しており、鼻づまりによる息苦しさや痰のからむ咳を和らげます。
気管支炎・喘息: 小青竜湯は気管支の炎症や気管支喘息にも用いられることがあります。特に、冷えると悪化する喘息や水様の痰が多い気管支炎に対して、気管支を拡げて痰を出しやすくし、せきこみを鎮める効果があります。ぜんそく発作を抑える西洋薬とは作用機序が異なりますが、体質改善や軽症時の症状緩和に用いられることがあります。なお、重度の喘息発作時には速効性の吸入薬が優先されるため、小青竜湯は補助的な位置づけです。
その他の症状: 小青竜湯は体内の水分バランスを整える作用から、前述のとおりむくみ(特に冷えが関与する一過性の浮腫)に用いられるケースもあります。また、鼻汁が喉にまわる後鼻漏による咳や喉の違和感を緩和したり、寒冷刺激で悪化するアレルギー性の皮膚症状(蕁麻疹の一部など)に応用されることもあります。総じて、冷えによって誘発・増悪する「水」の症状全般に幅広く効果を発揮します。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
同じような鼻水・鼻づまりや咳の症状でも、体質(証)や症状の質によって使う漢方薬が異なります。小青竜湯とツムラ1番〜138番の中で類似症状に使われる処方をいくつか比較しましょう。
- 葛根湯(1) – かぜの初期によく使われる有名な処方です。寒気と強い肩こり・首筋のこわばりを伴うような初期感冒に適し、発汗を促して熱を下げます。小青竜湯と同様に体を温めますが、葛根湯は鼻水よりも悪寒や筋肉のこわばりが目立つ場合に選択されます(鼻水が出ていてもサラサラではなく、まだ症状が固まりきっていない初期段階向けです)。
- 葛根湯加川芎辛夷(2) – 葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)という生薬を加えた処方で、鼻づまりや慢性的な副鼻腔炎に用いられます。葛根湯の発汗解表作用で寒気を取り、加えられた生薬が鼻腔粘膜のうっ血や炎症を改善します。粘り気のある鼻水や膿が絡む鼻づまりに適し、小青竜湯のようなサラサラの鼻水よりも少し粘度が高くなってきた場合に有効です。感冒で鼻水がたまって詰まるときや、花粉症で透明~白の鼻汁に少しだけ黄味が混じるような中間の症状で使い分けられます。
- 辛夷清肺湯(104) – 辛夷清肺湯は比較的体力があり、鼻汁が粘稠で黄色く鼻づまりが強いタイプの鼻炎・副鼻腔炎に使われます。こもった「熱」を冷まして鼻の炎症を鎮める処方で、膿性の鼻汁を伴う慢性鼻炎・蓄膿症に適しています。小青竜湯や麻黄附子細辛湯が適するサラサラの鼻水とは真逆のドロッとした鼻水向けのお薬です。症状としては鼻づまりが主体で、鼻腔内に熱感・腫れがある場合に選ばれます。
- 麻黄附子細辛湯(127) – 体力虚弱で手足の冷えが強く悪寒を伴う人のかぜやアレルギー性鼻炎に用いられる処方です。名前の通り麻黄・附子(ブシ)・細辛の3つの生薬から成り、強力に身体を温めて水分代謝を促すことで症状を改善します。小青竜湯と作用は似ていますが、より虚弱で冷えの強い体質向けで、小青竜湯では効果が不十分な場合によく切り替えて用いられます。例えば高齢者で冷え症の方が透明な鼻水・くしゃみを繰り返すようなケースでは麻黄附子細辛湯を選択します。ただし麻黄を含むため血圧上昇などの副作用に注意が必要で、体力が充実している人には使えません。
以上のように、鼻水ひとつとっても「サラサラ」なのか「ネバネバ」なのか、体力があるかないかなどで処方が使い分けられます。症状に合った漢方を選ぶことでより高い効果が期待できますので、自己判断せず専門家に相談することが大切です。
副作用や証が合わない場合の症状
漢方薬も体質に合わないと十分な効果が得られないだけでなく、副作用が出ることがあります。小青竜湯は比較的安全性の高い処方ですが、含まれる生薬に由来する副作用として注意すべきものがあります。例えば甘草(カンゾウ)によって起こる偽アルドステロン症です。甘草を長期間多量に摂取すると血圧上昇、むくみ、低カリウム血症などを来たすことがあり、手足の力の抜けやこむら返り(筋けいれん)が現れることがあります。
小青竜湯に含まれる麻黄(マオウ)は交感神経を刺激するため、証に合わない過剰な服用では動悸、不眠、ほてりなどが起こることがあります。ほかに小青竜湯の一般的な副作用としては、食欲不振や胃の不快感などの消化器症状、発疹やかゆみなどのアレルギー症状が報告されています。
これらはいずれも頻度は低いものの、体質や体調によって現れることがありますので、もし体に合わないと感じた場合は無理に服用を続けず医師に相談しましょう。漢方薬も「効けば効くほど良い」というものではなく、その人にあった適量があります。効果が感じられないからと自己判断で過剰に服用すると副作用のリスクが高まるため注意が必要です。
併用禁忌・併用注意の薬剤
小青竜湯を含め漢方薬には、特定の西洋薬と絶対に併用してはいけない併用禁忌は基本的にありません。しかし、成分の作用を踏まえた併用注意事項はいくつかあります。まず、小青竜湯に含まれる甘草の影響で低カリウム血症が起こり得るため、利尿剤(尿を出す薬)やステロイド薬などカリウムを減らしやすい薬と一緒に服用する場合は注意が必要です。これらを併用すると低カリウムによる不整脈や筋力低下のリスクが高まる可能性があります。同様に、強心剤(ジギタリス製剤)を服用中の方は低カリウムにより副作用が出やすくなるため、甘草を含む漢方の併用は慎重に検討されます。
麻黄による交感神経刺激作用があるため、高血圧症や心臓病の治療薬を服用中の場合も小青竜湯の併用に注意します。血圧を上げる作用のある薬(鼻づまり改善のための市販点鼻薬や飲み薬など)と麻黄の作用が重なると、血圧上昇や動悸が強まる可能性があります。
また、抗インフルエンザ薬のリレンザ®(吸入薬)とは添付文書上で併用注意とされています。麻黄含有製剤とリレンザを併用すると、まれに異常行動のリスクがある可能性が指摘されています。そのほか、抗うつ薬の一部(MAO阻害薬)と麻黄を含む漢方の併用も理論上は血圧上昇発作のリスクがあります。こうした併用は一般的ではありませんが、複数の薬を飲んでいる方は念のため医師や薬剤師に現在の服薬状況を伝え、相互作用の有無を確認してもらうと安心です。
含まれている生薬の組み合わせとその理由
小青竜湯は8種類の生薬から構成されています。それぞれの生薬が役割を持ち、バランスよく組み合わさることで小青竜湯としての効果を発揮します。以下、含まれる生薬(薬草)とその役割を解説します。
麻黄(まおう)
麻黄は小青竜湯の主薬で、身体を温め発汗を促すことで寒気を取り除き、気管支を拡張します。エフェドリンという有効成分を含み、気管支喘息のゼーゼーを鎮め、鼻づまりも緩和します。また利尿作用もあり、体内の余分な水分排出を助けます。全体として体表の寒邪を発散させ、水分代謝を高めて鼻水・喘息発作を改善する要となる生薬です。
桂皮(けいひ)
桂皮(シナモン)は身体を芯から温め、血行を促進する作用があります。麻黄とともに発汗を促し、体表の冷えを散らします。小青竜湯では麻黄の発汗作用を補助しつつ、冷えて収縮した血管を拡げることで鼻や気管支の通りを良くする役割を担います。桂皮はまた胃腸も温めるので、かぜで弱った消化機能を補う効果も期待できます。
乾姜(かんきょう)
乾姜は生姜を乾燥させた生薬で、強い身体を温める作用を持ちます。特に胃腸や肺を温めて冷えを取り、冷えによる嘔吐やせきを鎮めます。小青竜湯では体内(内部)の冷えを除きつつ、水分代謝を促進して痰を減らす役割です。桂皮や麻黄が体の表面を温めるのに対し、乾姜は内側から温めて痰を乾かし、咳を止めるのを助けます。
細辛(さいしん)
細辛はウスバサイシンという植物で、強い辛味を持ち身体を温め痛みを和らげる作用があります。少量で発汗を促し、鎮痛・鎮咳作用も期待できます。特に鼻づまりを解消する効果に優れ、古くから鼻炎・頭痛の薬にも配合されてきました。小青竜湯では麻黄や桂皮と協力して寒邪を散らし、鼻詰まりや咳を和らげます。また、体を温めつつ肺を潤す作用もあり、痰による喉の違和感を和らげる一助となります。
五味子(ごみし)
五味子はその名の通り五つの味を持つ果実で、酸味が強く収斂(しゅうれん)作用に優れます。収斂作用とは、体のエネルギーや水分を漏らさないよう引き締める働きのことで、五味子は咳や汗を鎮める生薬として知られます。小青竜湯では麻黄や細辛など発散性の強い生薬によって発汗・利尿が過度にならないようブレーキをかけ、肺気を引き締めて咳を止め、気管支を安定させる役割を担います。さらに五味子は腎を補い喘息体質を改善するとも言われ、小青竜湯の効果を持続させる縁の下の力持ちです。
芍薬(しゃくやく)
芍薬(ここでは白芍薬)はシャクヤクの根で、筋肉のけいれんを和らげ痛みを鎮める作用があります。小青竜湯において芍薬は、気管支や鼻粘膜の過敏な収縮を緩めて痙攣性の咳や鼻づまりを軽減する役割と考えられます。また、五味子と同様に酸味を持つ生薬であるため、発散による体液の消耗を防ぎつつ、体を潤す働きも期待できます。芍薬は鎮痛作用もあるため、鼻炎に伴う頭痛や副鼻腔の鈍痛を和らげる効果も一部担っているとされています。
半夏(はんげ)
半夏はカラスビシャクという植物の根茎で、去痰作用(痰を切る作用)と鎮嘔作用(吐き気を止める作用)があります。濡れたスポンジを絞るように粘液を減らす作用があり、古くから咳止めや吐き気止めの要薬として使われてきました。小青竜湯では気道の余分な水分(痰や鼻水)を乾かして減らす働きを担い、痰によるゼロゼロや鼻水だらだらを改善します。また半夏は胃の働きを整える作用もあるため、風邪で胃がむかつく時や、漢方薬特有の味による吐き気を軽減する助けにもなっています。
甘草(かんぞう)
甘草は甘みの強い生薬で、さまざまな漢方処方に調和薬として配合されます。他の生薬の作用を調節し、薬全体のバランスを整える役割があります。小青竜湯では、麻黄や細辛など刺激の強い生薬の角をとり、胃腸への負担を和らげます。また、甘草自身にも鎮咳去痰作用や抗炎症作用があり、咳を落ち着け喉や気管支の炎症を鎮めます。さらに腎上腺に働きかけて抗アレルギー作用を示すとも考えられており、小青竜湯の効き目をマイルドに持続させる重要な生薬です。ただし前述のように大量長期の服用で偽アルドステロン症を起こす可能性があるため、適切な量で使用することが大切です。
小青竜湯にまつわる豆知識
名前の由来: 「小青竜湯」という処方名は、中国の伝説上の聖獣で東方を守護する青竜(せいりゅう)にちなむといわれています。青竜は雲と雨(水)を司る存在であり、水の症状を治す本処方にふさわしい名前です。また、一説には主薬である麻黄が青緑色を帯びていることから、その色=青竜にかけて名付けられたとも言われます。いずれにせよ、「小さな青い龍」が体内の余分な水をさばいてくれるイメージの漢方薬と言えるでしょう。
歴史: 小青竜湯は今から約1800年前、中国後漢の名医・張仲景(ちょうちゅうけい)が著した古典『傷寒論(しょうかんろん)』に収載されています。まさに古来より風邪と水滞の妙薬として親しまれてきた処方で、日本でも江戸時代以降広く用いられ、現在も医療用・市販用ともによく使われる漢方薬です。例えば江戸時代の医師・吉益東洞も著書で小青竜湯を評価しており、長い歴史の中で効果が実証されてきました。
現代でも耳鼻科や漢方外来で花粉症に処方されたり、ドラッグストアで小青竜湯のエキス剤が購入できたりと、その有用性は変わらず受け継がれています。ちなみに味は苦味と辛味が感じられる独特の風味があります。生姜やシナモンの風味もありますが、甘草が入っているとはいえ全体的にはやや苦く、初めて飲む方は驚くかもしれません。苦手な場合は蜂蜜を少し含んで服用するなど工夫すると飲みやすくなります。
豆知識: 小青竜湯は症状に合わせて他の漢方薬と併用されることもあります。例えば花粉症で鼻水だけでなく目のかゆみも強い場合には、抗アレルギー作用を増強するため越婢加朮湯(28)という漢方薬と一緒に使うことがあります。また、小青竜湯を朝起床時から数回に分けて服用すると花粉症の「モーニングアタック」(朝方のくしゃみ・鼻水発作)が和らぐという報告もあります。
このように、西洋薬にはない使い方や組み合わせで症状改善を図るのも漢方治療の醍醐味です。さらに、小青竜湯の有効性については現代医学的な研究も行われています。例えばアレルギー性鼻炎に対する二重盲検試験で、有意な症状改善効果が確認されており【※】、古い処方ながら科学的エビデンスも蓄積されつつあります。
【※研究紹介:通年性アレルギー鼻炎患者220例を対象に小青竜湯のプラセボ対照試験が行われ、鼻症状スコアの有意な改善が報告されています】
まとめ
小青竜湯は、水のような鼻水や痰を伴うせき・くしゃみに代表される、「冷え」と「水滞」による症状を改善する漢方薬です。花粉症や風邪で鼻水が止まらないとき、ゼーゼー・ヒューヒューする喘息発作が冷気で誘発されるときなどに、体を温めつつ余分な水分をさばいて症状を和らげます。
ただし、体質によっては効果に差があり、副作用のリスクもゼロではありません。特に持病でお薬を飲まれている方は、小青竜湯がご自身に適しているかどうか専門家に相談すると安心です。漢方はその人の「証」に合った処方を選ぶことが何より重要ですので、症状が似ているからといって安易に自己判断せず、漢方に詳しい医師・薬剤師にご相談ください。
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。