十味敗毒湯(ツムラ6 番):ジュウミハイドクトウの効果、適応症

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十味敗毒湯の効果、適応症

十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)は、体力が中程度(いわゆる普通の体力・胃腸状態)の方に用いられる漢方薬です。皮膚の炎症や化膿(あなただれ)を鎮める効果があり、以下のような症状・疾患に適応します。

  • にきび(尋常性ざ瘡)やおできなど、膿が出る傾向のある皮膚疾患
  • 蕁麻疹(じんましん)や急性の湿疹・皮膚炎の初期症状
  • 水虫(足白癬)など皮膚の赤み・かゆみを伴う感染症

十味敗毒湯は、皮膚の「熱」や「毒」(炎症や感染症状)を取り除き、腫れや赤みを和らげる処方です。化膿しかけている創部の治癒を促進し、かゆみや痛みを軽減する効果が期待できます。現代医学的にも、抗炎症作用・抗アレルギー作用、さらには皮脂分泌を抑える作用などが報告されており、皮膚科領域で幅広く使われています。体質さえ合致すれば、症状の改善だけでなく再発予防の観点からも患者さんの体質改善に役立つ漢方薬と言えるでしょう。

よくある疾患への効果

十味敗毒湯が臨床でよく用いられる具体的な病気・症状と、その効果について解説します。皮膚科で頻繁に目にするトラブルに対して、内服の漢方薬としてサポートとなるケースがあります。

ニキビ(尋常性ざ瘡)

思春期から成人にかけてみられるニキビは、毛穴に皮脂や角質が詰まり、菌が増殖して炎症を起こす皮膚疾患です。十味敗毒湯は、膿を持つような赤く炎症したニキビが繰り返しできる場合によく用いられます。皮膚の炎症を鎮め、滞った「熱毒」を発散させることで、腫れや赤みを和らげる効果があります。
実際に、十味敗毒湯に含まれる生薬には皮脂の分泌を抑える作用(男性ホルモンの活性化抑制)や抗菌・抗炎症作用抗酸化作用が確認されており、外用薬だけでは改善しにくいニキビの体質改善に役立ちます。顔面に小さなブツブツが多数できて膿んでしまうようなケースでは、内側から体質を整えてニキビの出にくい肌状態へ導くことが期待できます。

蕁麻疹(じんましん)

蕁麻疹は突然皮膚に強いかゆみと赤いミミズ腫れ(膨疹)が現れる疾患です。アレルギーやストレスなど様々な誘因で起こりますが、十味敗毒湯は急性の蕁麻疹慢性蕁麻疹の繰り返す発作の軽減に使われることがあります。皮膚表面の血行を改善し、炎症を引き起こす物質の放出を抑えることで、蕁麻疹による腫れやかゆみを和らげます。
とくに、汗をかきにくく熱がこもりがちな体質で、蕁麻疹が出ると皮膚が赤く熱っぽくなるような方に適しています。抗ヒスタミン剤などの西洋薬と併用して、蕁麻疹の症状を出にくくしたり再発間隔を伸ばしたりする目的で処方されるケースもあります。

湿疹・皮膚炎(アトピー性皮膚炎 など)

湿疹は皮膚が赤くなり、ブツブツや水ぶくれができて痒くなる状態の総称です。なかでもアトピー性皮膚炎は慢性的に湿疹が続く代表的な疾患です。十味敗毒湯は、急性期の湿疹や皮膚炎でジュクジュクと汁が出たり腫れが強かったりする場合に、炎症を鎮める目的で使われます。
皮膚の余分な湿気や熱を取り除き、化膿の予防にも役立つため、掻き壊しによる二次感染を防ぐ効果も期待できます。アトピー性皮膚炎に対しても、体質が合致すれば炎症のコントロール皮膚のバリア機能回復の一助として用いられます。ただし、皮膚がカサカサに乾燥して赤みだけがあるような慢性期にはあまり適さず、むしろ急性増悪期や湿潤傾向の強い局面で短期間併用されることが多いです。
ステロイド外用剤を減らしていく際の補助など、患者さんの負担を減らす目的でも漢方内服が検討されます。

水虫(足白癬)

水虫は白癬菌というカビ(真菌)による足の皮膚感染症で、足趾間のただれや足裏の角質肥厚・痒みを生じます。通常は抗真菌薬の外用が主な治療ですが、足の指の間がジュクジュクとただれて治りにくい場合水虫を繰り返す体質の方に、十味敗毒湯が処方されることがあります。
十味敗毒湯には余分な湿気をさばき、皮膚の炎症を鎮める作用があるため、湿潤型(水ぶくれ型)の水虫でただれがひどいケースで症状改善を助けることがあります。また、体質的に免疫力が低下していたり血行不良があると水虫が治りにくくなりますが、この処方は血行促進や免疫調整の効果も期待できるため、水虫の治りやすい体質づくりに寄与します。
ただし真菌そのものを殺す力はないため、基本は抗真菌薬治療を続けつつ、漢方で体質改善を図るという位置づけになります。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

皮膚の炎症や化膿に用いる漢方薬は十味敗毒湯以外にも複数あり、症状の出方や患者さんの体質によって処方を選び分けることが大切です。類似した症状でも、症状の程度(急性期か亜急性期か)体質(実証か虚証か、熱の強さや他の症状の有無)に応じて処方が変わります。ここでは、十味敗毒湯と比較されることの多い漢方薬をいくつかご紹介し、その使い分けのポイントを解説します。

排膿散及湯(122)

排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)は、文字通り「膿を排出する」ことを目的とした処方です。おでき(癰・膿瘍)や深い化膿症の急性期に用いられ、膿を持った患部を早く熟して排膿させる働きがあります。抗生物質や抗菌剤がなかった時代から、膿を持つ症状の特効薬として用いられてきました。比較的体力があり、患部が赤く腫れて熱感が強いような急性炎症に適し、十味敗毒湯が使われる前段階の処方として位置づけられます。
実際に、化膿症状に対してはまず排膿散及湯で炎症のピークを抑え、膿が出きった亜急性期に十味敗毒湯(6)を用いて残った炎症や体質を整える、といった使い分けがなされることがあります。

消風散(22)

消風散(しょうふうさん)は、湿疹や皮膚炎でジュクジュクと湿潤し、強いかゆみを伴うケースによく用いられる処方です。体力が比較的充実していて、患部から浸出液が出たりただれたりするような湿潤湿疹に適しています。十味敗毒湯と同様に皮膚の熱毒を取り除きますが、より皮膚の湿気や滲出液を乾かす力が強い点が特徴です。また消風散には身体の熱を冷ます生薬も多く含まれるため、のどの渇きやほてり感を伴う湿疹に向いています。
例えば、汗をかいた後に悪化するようなジクジク湿疹や、かゆみが強くて掻破すると液体が出るような皮膚炎では、まず消風散で湿と熱を取り去るほうが効果的です。一方で、十味敗毒湯は消風散に比べて体力中等度向きで、ややマイルドに化膿傾向を抑える処方なので、湿疹の程度や体力に応じて両者を使い分けます。

温清飲(57)

温清飲(うんせいいん)は、皮膚の炎症があるものの膿みを持たず、患部が赤黒い色調を呈したり、患者さんにのぼせや不眠、不安感といった症状が見られる場合に適した処方です。四物湯という血を補う処方に、黄連解毒湯という熱を冷ます処方を合わせた組み合わせで、血の巡りを良くしつつ体内の余分な熱を取り去る作用があります。十味敗毒湯と比べると、温清飲は体の陰血を養いながら炎症を鎮める処方であり、皮膚の赤みがどす黒く慢性化しているようなケースや、ストレス・ホルモンバランスの乱れが関与する皮膚炎に向いています。
例えば、アトピー性皮膚炎で長期間ステロイドを使ってきて皮膚が黒ずんでいるような場合や、ニキビ跡が赤黒く残るタイプの肌質には温清飲が考慮されます。一方、十味敗毒湯は急性〜亜急性期の明るい赤みや膿を伴う症状向きですので、症状の性質によって温清飲と使い分けられます。

清上防風湯(58)

清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)は、顔面や頭部に集中してできる炎症性のニキビに対して頻用される処方です。名前の通り「上焦(体の上部)の熱を清し、風を防ぐ」効果があり、特に顔のほてりや赤みを取ることに優れた漢方薬です。体力中等度からやや充実した方向きで、顔や頭に炎症が偏って出るような場合に適しています。清上防風湯は十味敗毒湯と同様に皮膚の熱毒を取りますが、より強力に熱を冷ます作用があります。
例えば、思春期の男性で顔中に赤く腫れたニキビができているケースでは清上防風湯(58)が第一選択となることが多く、十味敗毒湯はどちらかというと膿を持ち反復するニキビ向きという違いがあります。症状が上半身に限局し、赤み・熱感が強いときは清上防風湯、皮膚全体の体質改善や化膿予防を狙うときは十味敗毒湯、といった具合に使い分けられます。

治頭瘡一方(59)

治頭瘡一方(じとうそういっぽう)は、その名のとおり「頭の瘡(かさ)を治す」ことを目的とした処方です。頭部や顔面にできる湿疹・皮膚炎で、とくに便秘を伴うタイプにしばしば用いられます。皮膚の炎症と同時に体内に熱がこもって便通が滞っているような場合、治頭瘡一方は腸を動かして熱毒を排泄させる効果があります。
頭や顔にじゅくじゅくした湿疹が広がり、なおかつお腹が張って便秘がちな方では、この処方で腸を通じさせるとともに皮膚の炎症を改善することが期待できます。十味敗毒湯と比べると、治頭瘡一方は体内の実熱を下げる力(瀉下作用)が強い点が特徴です。
そのため、頭部の湿疹+便秘という明確なパターンがあれば治頭瘡一方を優先し、便通に問題なく膿や赤みが主体であれば十味敗毒湯を選ぶ、といった使い分けになります。

荊芥連翹湯(50)

荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は、ニキビ治療でしばしば登場する漢方処方です。十味敗毒湯と同じく皮膚の炎症や化膿を改善する効果がありますが、組成がやや異なり、どちらかというと軽度〜中等度のニキビが広範囲にできる場合によく使われます。
荊芥連翹湯には、その名にも含まれる荊芥(ケイガイ)や連翹(レンギョウ)といった生薬が中心となり、皮膚の表面に近い部分の熱を発散させる効果があります。思春期のニキビや、膿よりも赤み・ブツブツが目立つニキビに向いており、皮膚科のガイドラインでもニキビ治療薬のひとつとして紹介されています。
十味敗毒湯は膿を持つ傾向のニキビや繰り返す皮膚炎に適しますが、荊芥連翹湯は比較的軽い炎症の段階で広がりを抑える目的で用いられることが多く、症状の重さによって両処方を使い分けます。

副作用や証が合わない場合の症状

漢方薬である十味敗毒湯は比較的安全性が高いとされていますが、体質に合わない場合や長期間・大量に服用した場合には副作用が現れる可能性があります。また、患者さんの証(しょう:漢方における体質・症状のパターン)が処方に適合しない場合、十分な効果が得られないばかりか症状が悪化することもあります。以下に主な副作用と、証が合わない場合に起こりうる症状をまとめます。

  • 偽アルドステロン症(ぎアルドステロンしょう):十味敗毒湯には甘草(カンゾウ)が含まれており、これを長期多量に服用すると稀にカリウム不足を招く副作用(偽アルドステロン症)が起こることがあります。症状として、血圧上昇、むくみ、体重増加などが見られ、進行すると低カリウム血症による筋力低下(ミオパチー)や手足の痺れ・けいれんを引き起こします。服用中に著しいむくみや倦怠感を感じた場合は、速やかに医師に相談してください。
  • 肝機能障害:ごく稀ですが、十味敗毒湯の服用により肝臓の数値異常や黄疸が現れる報告があります。特に他の薬剤でも肝機能が悪化した既往がある方は、定期的に肝機能検査を受けるなど注意が必要です。
  • 消化器症状:体質によっては、食欲不振、胃のもたれ感、吐き気、下痢など消化器系の不調が起こることがあります。十味敗毒湯は湿を乾かす生薬を多く含むため、胃腸の弱い方では負担になる場合があります。服用後にこれらの症状が続く場合は、一旦中止して医療機関に相談してください。
  • その他の副反応:まれに発疹、かゆみなどアレルギー反応が出る可能性もあります。漢方薬でも体に合わない場合はアレルギー症状が起こることがありますので、違和感があれば受診しましょう。
  • 証が合わない場合の症状悪化:十味敗毒湯が適さない体質の方に使うと、期待した効果が得られないだけでなく症状が悪化することがあります。例えば、大病を患った直後で極度に体力が落ちている方(虚証が強い場合)に十味敗毒湯のような発散薬を用いると、皮膚の炎症がかえって悪化してしまう恐れがあります。また、胃腸が極端に虚弱な方が服用すると前述の消化器症状が強く出てしまい、食欲低下や下痢によって体力をさらに消耗する可能性があります。このように証に合わないと感じた場合には無理に服用を続けず、医師に相談して処方を見直すことが大切です。

併用禁忌・併用注意な薬剤

十味敗毒湯には特別な絶対併用禁忌とされる西洋薬は多くありませんが、含まれる生薬の作用から他の薬との相互作用に注意が必要な場合があります。安全に服用していただくため、以下のような薬剤を使用中の場合は併用に注意し、医師・薬剤師に必ず伝えてください。

  • 利尿剤・副腎皮質ステロイド剤との併用:十味敗毒湯に含まれる甘草(カンゾウ)の作用で、体内のカリウムが失われやすくなることがあります。利尿薬(例:フロセミドなど)やステロイド剤(プレドニゾロン等)も低カリウム血症を起こしやすいため、併用すると相乗的に低カリウム血症による不整脈や筋力低下のリスクが高まります。これらのお薬を服用中の方は、必ず医師に漢方併用の可否を相談し、必要に応じて血液検査で経過を確認します。
  • 降圧薬・強心薬(心不全治療薬)との併用:十味敗毒湯を服用して炎症やむくみが改善すると、血圧や循環動態に変化が生じる場合があります。特に高血圧の薬を飲んでいる方では、漢方内服によって血圧に変動が出る可能性があるため注意が必要です。また、強心薬のジギタリス製剤(ジゴキシンなど)を使用中の場合、甘草の作用によるカリウム低下でジギタリスの毒性が増強される恐れがあります。これらを併用する際は、医師の指示のもとで経過観察を厳重に行います。
  • 抗凝血薬(ワルファリンなど)との併用:十味敗毒湯に含まれる川芎(センキュウ)やその他の生薬成分には、血行を促進したり血液の粘度に影響を与える作用があります。ワルファリン等の抗凝固薬との明確な相互作用は多くありませんが、理論上出血傾向や逆に効果減弱の可能性も考えられるため注意が必要です。併用する場合は定期的に血液凝固能の検査を受け、主治医のもとで調節を行います。
  • 他の漢方薬・サプリメントとの併用:十味敗毒湯と類似の生薬を含む漢方薬(例えば同じ甘草や防風、荊芥を含む処方)を複数同時に服用すると、生薬成分の重複により副作用リスクが高まる可能性があります。また、ハーブやサプリメントにも甘草様作用を持つものがあるため注意が必要です。自己判断での複数併用は避け、現在服用中の薬やサプリは医師・薬剤師に申告した上で漢方薬を使用してください。

含まれている生薬の組み合わせ、なぜその生薬が選ばれているか

十味敗毒湯はその名のとおり10種類の生薬を組み合わせて作られています。処方名の「十味」とは10種の生薬、「敗毒」とは毒を敗(やぶ)る=取り除くことを意味します。桔梗(キキョウ)、柴胡(サイコ)、川芎(センキュウ)、茯苓(ブクリョウ)、防風(ボウフウ)、甘草(カンゾウ)、荊芥(ケイガイ)、生姜(ショウキョウ)、撲樕(ボクソク)、独活(ドッカツ)の10種(=十味)で構成されており、皮膚の炎症を鎮めながら体全体のバランスを整えるよう工夫されています。

これら生薬の組み合わせには明確な狙いがあります。荊芥、撲樕、防風、桔梗、川芎、甘草といった生薬には、体に蓄積した「毒」(炎症のもとや老廃物)を解消し、免疫バランスを整える作用があります。特に防風・荊芥・独活・川芎の4つは発汗・血行促進作用が強く、皮膚表面の血管を拡張して滞った血液を巡らせることで腫れや赤み、かゆみを改善します。「風」を散らし「湿」を除く力があるため、皮膚から汗とともに炎症の原因物質を追い出す働きをするのです。

また、桔梗は喉の薬として知られますが、十味敗毒湯では皮膚から膿を排出し炎症を沈める役割を持ちます。柴胡は炎症による熱を冷ましつつ気の巡りを整えるので、ストレスやホルモンバランスの乱れにも対応します。茯苓は余分な水分を排泄してむくみを取り、神経の高ぶりを鎮めるので、慢性の皮膚トラブルに伴う不眠やイライラの緩和にも寄与します。甘草生姜は処方の調和薬で、他の生薬の刺激を和らげ胃腸を守りながら、全体の効果を調整します。生姜は発汗と血行促進作用も持ち、冷えを伴う皮膚炎に対して内側から体を温めて治癒力を高めます。

十味敗毒湯の特徴的な生薬に撲樕(ぼくそく)があります。撲樕はブナ科コナラやアベマキなどの樹皮(どんぐりの木の樹皮)で、日本では古くからタンニンを含む生薬として傷の治療に使われてきました。ワインのコルク栓の材料にもなる身近なものですが、その薬効は現在も研究途上です。しかし、現代の研究で撲樕は優れた抗炎症作用を持つことが判明しており、炎症性サイトカインであるIL-6(インターロイキン6)の産生抑制作用や、ニキビの原因菌に対する皮膚の免疫受容体TLR2の発現抑制作用が報告されています。また、荊芥にも抗炎症・抗菌作用があり、撲樕と荊芥の組み合わせは強い抗酸化効果を示すことが分かっています。さらにこの2つは、皮脂分泌を促す男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)を生成する酵素を阻害する作用も持ち合わせ、ニキビの発生を抑える上で理にかなった組み合わせです。

このように十味敗毒湯の生薬構成は、皮膚の炎症を沈める生薬身体全体の余分な熱・湿を排出する生薬、そして全身の調子を整える生薬とがバランスよく配合されています。各生薬が互いの作用を補完し合うことで、皮膚症状の改善と体質強化を同時に図れるようデザインされた処方と言えるでしょう。

十味敗毒湯にまつわる豆知識

十味敗毒湯は江戸時代に活躍した外科医華岡青洲(はなおか せいしゅう)によって創製された処方として知られます。元々は中国の古典『和剤局方』に記載された「荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)」という処方が原型で、華岡青洲がそれに改良を加えて日本でも手に入りやすい生薬で再構成しました。
十味敗毒湯という名前は華岡青洲が命名したもので、「十味」は使われている生薬の数、「敗毒」は文字通り毒を打ち負かす効能を表しています。華岡青洲は世界初の全身麻酔手術を成功させたことで有名な医師ですが、蘭学だけでなく漢方にも精通し、多くの優れた処方を残しました。十味敗毒湯はその一つで、青洲が著した外科領域の著書にも登場し、江戸時代の外科治療(腫れ物や出来物の治療)の切り札として重宝された歴史があります。

また、十味敗毒湯は現在でも広く使われる処方の一つで、ツムラの番号では(6)番として漢方エキス製剤が市販されています。ドラッグストアでも十味敗毒湯エキスの錠剤が販売されており、軽度の皮膚トラブルに対して医療用だけでなく一般用医薬品として利用することもできます。
ただし、自分の症状に合った処方かどうか判断するのは難しいため、使用する際は専門家に相談することが望ましいでしょう。十味敗毒湯は「体質が合えば皮膚科の抗生剤やステロイドに頼りすぎないで済む」という観点から、現代でも見直されている漢方薬なのです。

まとめ

十味敗毒湯(6)は、皮膚に赤みや化膿を伴う炎症性の疾患に対して用いられる漢方薬です。適した証(しょう)としては体力中等度で、体に余分な熱や湿邪がこもりやすい方とされています。皮膚の炎症を鎮め膿を排出しつつ、体全体のバランスを整えることでニキビや蕁麻疹、湿疹などの症状を改善し、再発しにくい体質へ導くことが期待できます。比較的副作用の少ない処方ですが、甘草を含むため長期連用時の偽アルドステロン症などには注意が必要です。また、誰にでも万能というわけではなく、患者さん一人ひとりの症状や体質に合った処方を選ぶことが肝心です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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