桂枝加朮附湯の効果、適応症
桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう、ツムラ18番)は、江戸時代の漢方医吉益東洞(よします とうどう)が創案した漢方薬です。体を内側から温めて血行を促し、痛みや炎症を和らげる効果があり、主に関節痛や神経痛の改善に用いられます。
比較的体力が低下し冷え症の方で、寒さによって関節の痛み・腫れが悪化するような場合に適しています。現代医学で言えば、関節リウマチや坐骨神経痛、帯状疱疹後の痛み、変形性関節症、慢性腰痛などさまざまな慢性痛に幅広く応用されています。また、胃腸が弱く鎮痛剤を使えない人の痛み止め代替として用いられることもあります。
よくある疾患への効果
桂枝加朮附湯がよく使われる代表的な疾患と、その効果を紹介します。
- 関節リウマチ: 桂枝加朮附湯が体を温めて関節の腫れや痛み、朝のこわばりを和らげます。冷えが強い関節リウマチの患者さんの症状緩和に役立ちます。
- 坐骨神経痛・帯状疱疹後神経痛: 下肢の痛みやしびれが続く神経痛で、冷えによって症状が悪化する場合に適しています。体を温めて血流を改善し、痛みを緩和します。
- 膝の痛み(変形性関節症): 膝関節の痛み・腫れに対し、桂枝加朮附湯の利水作用で関節に溜まった余分な水分を除き、炎症やむくみを軽減します。寒冷時に悪化する膝痛の改善に有効です。
- 慢性腰痛: 冷えによる腰の重だるい痛みを和らげます。胃腸が弱く鎮痛薬の服用が難しい高齢者の腰痛にも比較的安全に使える点が利点です。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
関節痛や神経痛に用いる他の漢方薬と、桂枝加朮附湯との使い分けのポイントを挙げます(※括弧内はツムラ番号)。
- 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう、ツムラ28番) – 炎症が強く体力があり、冷えがない人(口渇や自汗が目立つ)に用います。
- 麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう、ツムラ78番) – 比較的体力があり、寒さを契機に関節が腫れて痛む場合に適します。
- 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう、ツムラ20番) – 色白で水太りの人(疲れやすく汗かき、むくみが強い)の関節痛に適します。
- 大防風湯(だいぼうふうとう、ツムラ97番) – 皮膚が乾燥し貧血傾向のある人で、慢性的な関節痛に用います。
このように患者さんの体質(証)や症状の特徴によって漢方薬を選び分けます。同じ関節痛でも、冷えの有無や炎症の程度、体力差などに応じて最適な処方が異なるのです。
副作用や証が合わない場合の症状
桂枝加朮附湯は副作用の少ない処方ですが、いくつか注意点があります。
まず、本処方には甘草が含まれるため、長期服用で偽アルドステロン症(むくみ・高血圧・低カリウムによる筋力低下)が起こる可能性があります。
さらに、体力が充実して熱傾向の強い人に桂枝加朮附湯を用いると、動悸やのぼせなどの副反応が出やすくなります。服用中に異変を感じたら早めに医師に相談してください。
併用禁忌・併用注意な薬剤
桂枝加朮附湯と他の薬剤を併用する際の注意点です。
- 甘草を含む他の漢方薬・製剤との併用: 偽アルドステロン症に注意。
- 利尿薬・ステロイド薬との併用: 低カリウム血症に注意。
- 附子を含む漢方薬との併用: 動悸やのぼせなど過剰な温めによる症状に注意。
含まれている生薬の組み合わせとその理由
桂枝加朮附湯は以下の7つの生薬からなり、それぞれに役割があります。
桂皮(けいひ)
身体を温めて血行を促し、痛みを緩和します。
芍薬(しゃくやく)
筋肉のこわばりをほぐし、痛みを鎮めます。
甘草(かんぞう)
生薬同士の調和をとり、炎症を鎮め痛みを和らげます。
生姜(しょうきょう)
身体を温めて発汗を促し、胃腸を守ります。
大棗(たいそう)
胃腸を補い、他の生薬の作用を調整して飲みやすくします。
蒼朮(そうじゅつ)
余分な水分(湿)を除き、むくみや関節の腫れを改善します。
附子(ぶし)
強い温熱・鎮痛作用があり、冷えによる痛みをとります。
桂枝加朮附湯にまつわる豆知識
桂枝加朮附湯は中国の古典である傷寒論の記載にある桂枝加附子湯から着想し、日本の漢方医吉益東洞が江戸時代に考案した処方です。名前の通り、桂枝湯に朮と附子を加えた処方で、古くからリウマチ様の痛み(痹症)の治療に用いられてきました。
味は甘みの中に少し辛みがあり、漢方薬の中では比較的服用しやすい方です。近年では関節リウマチの痛みや腫れを軽減する効果についても研究報告があります。
まとめ
桂枝加朮附湯は、冷えが強い体質の関節痛・神経痛に効果を発揮する漢方薬です。体を温めて痛みや腫れを和らげ、胃腸が弱い方でも使いやすいのが特徴です。ただし長期服用時には偽アルドステロン症などの副作用に注意し、患者さんの証に合った場合にのみ真価を発揮します。
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。