黄連解毒湯の効果、適応症
黄連解毒湯(おうれんげどくとう、ツムラ15番)は、体の「熱」を冷まし炎症や興奮を鎮める効果を持つ漢方薬です。比較的体力があり、のぼせぎみで顔色が赤く、イライラして落ち着かない傾向の方に用いられます。体内の余分な熱を取ることで様々な症状の改善に役立ちます。適応となる主な症状には、鼻出血、不眠症、神経症(ノイローゼ)、胃炎、二日酔い、湿疹・皮膚炎、血の道症(※)などがあります。高血圧に伴うのぼせやほてりがあるタイプにも用いられることがあります。
(※血の道症: 月経や更年期など女性ホルモンの変動に伴って起こる不安・イライラなどの症状のこと)
よくある疾患への効果
黄連解毒湯が日常診療でよく用いられる代表的な症状について、その効果を説明します。
- 不眠や神経症(イライラ): 頭に血が上って興奮して眠れないような不眠症に効果的です。寝つきが悪く動悸やイライラを伴う場合、体内の熱を冷まし神経の高ぶりを鎮めることで安眠を促します。また、更年期のホットフラッシュ(突然ののぼせ)に伴う不眠やイライラの改善にも用いられます。ストレスによる怒りっぽさや緊張など神経症状にも用いられ、精神を落ち着かせるのに役立ちます。
- 皮膚の炎症(湿疹・ニキビ): 赤く熱を帯びた湿疹や皮膚炎(ニキビなど)に有効です。こもった熱を冷まして炎症とかゆみを鎮めます。ただし乾燥を伴う湿疹には別の処方を用いることがあります。
同様の症状に使われる漢方薬との使い分け
黄連解毒湯と似た症状に用いられる漢方処方はいくつかあり、患者さんの体質や症状に応じて使い分けられます。代表的なものを挙げ、その違いを説明します。
- 柴胡加竜骨牡蛎湯(12) – 黄連解毒湯と同様、不眠や神経の高ぶりに用いる処方です。ただし柴胡加竜骨牡蛎湯(12)は緊張や不安が強く便秘傾向がある場合に適しています。イライラだけでなく精神不安や動悸を伴うタイプにはこちらが選択されます。
- 加味逍遙散(24) – 更年期障害や月経不順など女性のホルモン失調によるイライラやのぼせに用いられる処方です。黄連解毒湯と同じくほてりや不安を改善しますが、加味逍遙散(24)は冷えや疲れもある女性に適します。貧血気味で精神不安定な場合など、黄連解毒湯ほどの強い「熱証」でないときに用いられます。
- 温清飲(57) – 湿疹・皮膚炎に使われ、炎症を抑えつつ血を補い潤いも与える処方です。皮膚に赤みと熱感があり乾燥も目立つ場合に適しています。逆に湿潤傾向で赤みが強い湿疹には黄連解毒湯が有効です。
副作用や証が合わない場合の症状
黄連解毒湯は比較的安全な漢方薬ですが、体質に合わない場合や長期服用時に副作用が生じることがあります。
証(しょう)が合わない場合、例えば虚弱で冷え性の方に服用すると、胃腸の不調(食欲低下や下痢)や手足の冷え悪化、倦怠感などが現れることがあります。そのような時は無理に続けず、中止して医師に相談してください。
まれに肝機能障害、腸間膜静脈硬化症といった重篤な副作用も報告されています。異常を感じたらただちに服用を中止し、医師の診察を受けてください。
併用禁忌・併用注意な薬剤
黄連解毒湯に併用禁忌の薬剤はありません。
併用注意とされる薬剤もありませんが、他の漢方薬と併用する場合や肝機能障害を起こす可能性がある薬剤との併用には医師の助言を受けた方がよいでしょう。
含まれている生薬の組み合わせとその理由
黄連解毒湯は黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4種類の生薬から成ります。いずれも体内の「熱(炎症や興奮)」を取り除く作用を持ちますが、それぞれ得意とする部位が異なるため、組み合わせることで全身の余分な熱を効率よく冷ましています。各生薬の役割を簡単に紹介します。
黄連(オウレン)
極めて苦く強力な清熱作用で心や胃の炎症を鎮めます。不眠や胃の灼熱感など上半身の熱症状を和らげます。
黄芩(オウゴン)
オウゴンは消炎・解熱に優れ、肺や肝臓の熱を冷まします。黄連解毒湯では鼻出血やのぼせ、不眠などを鎮めるのに役立ちます。
黄柏(オウバク)
オウバクは下半身の余分な熱や湿気を除く生薬です。苦味による抗菌・消炎作用で腸や尿路の炎症を鎮め、黄連・黄芩とともに全身の熱を抑えます。
山梔子(サンシシ)
サンシシ(梔子)はクチナシの果実で、冷ました熱を尿とともに体外へ排出させます。そのため、体内にこもった熱によるイライラ、不眠、出血傾向を改善する役割を担います。
黄連解毒湯にまつわる豆知識
歴史と名前の由来: 黄連解毒湯は中国・唐代の医学書『外台秘要方』(752年)に記載された処方です。主薬に黄連を用いて熱毒を除く湯剤であることからこの名が付きました。日本でも江戸時代に熱病や興奮を鎮める薬として広く用いられ、現在まで受け継がれています。
非常に苦い薬: 黄連解毒湯は漢方薬の中でも非常に苦い部類です。黄連・黄芩・黄柏といった生薬が強烈な苦味を持つため、煎じ薬は舌が痺れるほどの苦さになります。その苦味ゆえに服用すると食欲が落ち、「飲んだら痩せた」と感じる人もいるほどです。
まとめ
黄連解毒湯(ツムラ15番)は、「のぼせ」「ほてり」「イライラ」といった体内の余分な熱が原因の症状を鎮める漢方薬です。比較的体力があり顔色が赤く火照るタイプの不眠症や皮膚炎、二日酔い、高血圧に伴う鼻出血、更年期のホットフラッシュなど、多彩な熱症状に効果を発揮します。ただし冷え症の方や体力の低い方には適さず、そういった場合は別の処方を検討する必要があります。副作用として、黄芩による肝障害や山梔子の長期使用による腸間膜静脈硬化症などが知られており、安全に使うためには専門家による証の見極めが重要です。苦味は強いですが、適合する方には確かな効果をもたらす頼もしい漢方薬と言えるでしょう。
当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。
証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。