柴胡加竜骨牡蛎湯(ツムラ12番):サイコカリュウコツボレイトウの効果、適応症

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柴胡加竜骨牡蛎湯の効果、適応症

柴胡加竜骨牡蛎湯(12)は、ストレスや不安による精神症状を鎮め、体の緊張を緩める効果のある漢方薬です。名前に含まれる「柴胡(さいこ)」はストレスで乱れた気を整え、「竜骨(りゅうこつ)」「牡蛎(ぼれい)」といった鉱物由来の生薬が興奮した神経を落ち着かせます。そのため、イライラや不安、不眠など精神的に不安定な状態に幅広く用いられます。

漢方ではストレスで「気」が滞ると不安や動悸、不眠などが生じると考えます。本処方は気の巡りを正し、余分な熱を冷まして心身を穏やかにし、不快症状を改善します。比較的体力がある方(中等度以上)で精神不安や動悸、不眠、イライラなどを伴う場合に適した処方です。適応となる症状には、不安神経症や高血圧に伴う不眠・動悸、小児の夜泣きなど幅広く挙げられます。

よくある疾患への効果

柴胡加竜骨牡蛎湯が特によく用いられる代表的な症状や疾患をいくつか紹介します。

  • 不安・神経症:イライラや不安感などの神経症状を和らげます。
  • 不眠症:精神的な不安や興奮からくる不眠に用いられ、寝つきを良くします。
  • 動悸:ストレスによる動悸を鎮めます。
  • 小児の夜泣き:子どもの夜泣きや夜驚症(悪夢で泣いてしまう)にも使われ、不安で眠れない子どもの神経を落ち着かせます。

同様の症状に使われる漢方薬との使い分け

不安や不眠など、柴胡加竜骨牡蛎湯と似た症状に用いられる漢方薬はいくつかあります。それぞれ体質(証)や症状の特徴が異なるため、以下のように使い分けられます。

加味逍遙散(24)

更年期障害や月経前後のイライラなど、比較的体力が低下気味の女性によく使われる処方です。柴胡加竜骨牡蛎湯が体力のある方向けなのに対し、加味逍遙散は血の不足や冷えを伴うような人の不安・抑うつに適しています。ほてりやのぼせというより、疲れやすさや落ち込みが目立つ場合に選択されます。

桂枝加竜骨牡蛎湯(26)

同じ竜骨・牡蛎を含む鎮静系の処方ですが、こちらは体力中等度以下の虚弱な方に向きます。ささいなことが気になって眠れない、神経過敏で驚きやすいといった症状に適し、子どもの夜驚症や夜尿症にも処方されます。柴胡加竜骨牡蛎湯よりも体力のない人向けで、熱よりも虚弱による不安に対応する処方と言えます。

抑肝散(54)

小児の夜泣きや高齢者の怒りっぽさ(認知症の周辺症状)など、神経が高ぶってイライラが強い場合によく使われます。柴胡加竜骨牡蛎湯と同様に精神不安を鎮めますが、抑肝散は体力中等度で怒りやすく攻撃的なタイプに適します。手足のふるえやこわばりを伴う神経症状にも用いられる処方です。

副作用や証が合わない場合の症状

漢方薬にも副作用があり、柴胡加竜骨牡蛎湯でもまれに起こり得ます。特に重大な副作用として次のものがあります。

  • 偽アルドステロン症:血圧上昇やむくみなどの症状。甘草の長期大量服用で起こりやすく、他の甘草含有薬との併用でリスクが高まります。
  • 間質性肺炎:発熱や空咳、息苦しさが現れる肺の副作用です。ごくまれですが重篤化する恐れがあり、咳や呼吸困難が続く場合はすぐ受診が必要です。
  • 肝機能障害:黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、倦怠感、食欲不振など肝炎のような症状が現れます。定期的に肝機能検査を受けるなど注意が必要です。

また、患者さんの証(体質や症状の傾向)に合わない場合、期待した効果が得られないばかりか不調を感じることがあります。虚弱な人に用いると胃もたれ・下痢を起こす場合があります。便秘でない人では大黄の作用で下痢をしやすいので注意しましょう。服用後に不調を感じたら服用を中止し、医師に相談してください。

併用禁忌・併用注意な薬剤

柴胡加竜骨牡蛎湯に併用禁忌の薬剤は特にありませんが、以下の点に注意が必要です。

  • 他の漢方薬:同じ生薬が重複する漢方薬と併用する際は過剰摂取に注意します。
  • 利尿薬・ステロイド剤:こうした薬と甘草を含む漢方薬を併用すると低カリウム血症や血圧上昇が生じやすくなります。
  • インターフェロン製剤:柴胡や黄芩を含む小柴胡湯などはインターフェロンとの併用で間質性肺炎を起こすことが知られています。本処方も柴胡を含むため、インターフェロン治療中は避けるのが無難です。

含まれている生薬の組み合わせとその理由

柴胡加竜骨牡蛎湯には10種類の生薬がバランスよく配合されています。それぞれの生薬が異なる役割を持ち、組み合わせによって心身を整える効果を発揮します。

  • 気の巡りを整え熱を冷ます生薬柴胡黄芩は、滞った「気」を巡らせ、体にこもった熱を冷ますことで精神の高ぶりを鎮めます。製剤によって配合される大黄は、腸を刺激して便通を促し、体内の余分な熱や滞りを排出します。
  • 精神を落ち着かせる生薬竜骨(大型哺乳類の化石骨)と牡蛎(カキ殻)は重鎮安神薬と呼ばれ、心身をどっしりと落ち着ける働きがあります。この2つが興奮した神経を鎮め、不安や不眠を和らげます。
  • 胃腸を整える生薬半夏生姜は吐き気を鎮め、胃腸の働きを整えます。ストレスで起こりがちな胃部不快感や嘔気を抑え、薬全体の吸収を助けます。
  • 気力を補い緊張を和らげる生薬人参大棗は元気をつけながら心を安定させる生薬です。人参は気力・体力を補い、大棗は神経の高ぶりを和らげます。また茯苓は利尿作用で余分な水分を捌けさせつつ精神を安定させる作用があります。さらに桂皮(桂枝)は血行を促進し、心悸亢進(ドキドキ)を緩和するとされています。

これらの組み合わせにより、柴胡加竜骨牡蛎湯は気分の高ぶりを抑えつつ体力を補い、消化機能を守る総合的な効能を発揮します。

柴胡加竜骨牡蛎湯にまつわる豆知識

歴史:柴胡加竜骨牡蛎湯は、中国漢代の古典『傷寒論』に由来する処方で、約1800年前から使われてきました。著者である張仲景が考案したもので、当初は誤った治療によって起こった精神不安や焦燥状態を鎮める目的で作られたと言われます。

名前の由来:その名の通り、「竜骨」(龍の骨)や「牡蛎」(牡蠣の殻)が特徴的な処方です。竜骨は古くは龍の骨と考えられ、その力強い鎮静作用から名付けられました。実際には大型哺乳類の化石ですが、龍の力で心を鎮めるというイメージがあったようです。

:含まれる黄芩や柴胡に由来するやや苦味のある味です。ただし桂皮や大棗の風味で後味にほのかな甘みも残ります。全体的に土っぽさのある漢方独特の風味です。

まとめ

柴胡加竜骨牡蛎湯は、不安や不眠など心身のバランスを崩した状態に幅広く用いられる漢方薬です。ただし、漢方薬は一人ひとりの体質(証)に合わせて選ぶことが大切です。

当クリニックでは患者様の症状や体質(証)をじっくりと伺い、一人ひとりに合った漢方薬をご提案しています。

証の判断・漢方薬の選択に悩む場合は長崎クリニック浜町漢方外来までぜひご相談ください。

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